第7話 灯台の上の2人
1月15日、夕方。
エディスとシルフィはハルメリカの港の北にある灯台に上った。
灯台の頂上というと、殺風景なのが相場であるが、さすがに大陸最大の港町の灯台だけのことはある。簡単な暖炉や寝所と寝泊りできるような生活空間も用意されていた。
おかげで大分楽である。
2人はソファを用意して、座りながら海の様子を眺める。
「1時間ごとに交代ってことにしたいけど、お姉ちゃんは大丈夫?」
いきなりシルフィが馬鹿にするようなことを言ってきた。
「どういう意味?」
「いや、集中力が続くのかな~って」
「……」
薄々感じていたことが確信に変わった。
シルフィはセシリームで会った時から、自分を馬鹿にしている。
集中力が一時間も続くはずがないと思っている。
しかし、それが事実なのも確かだ。
一時間、同じ方向を見つめているなんてことはエディスにはほぼ不可能である。途中で居眠りをしてしまうかもしれない。しかし、それではシルフィに馬鹿にされるだけではなく、ネミリーやセシエルに報告され、「やっぱりエディスは」と言われかねない。
(何とか妙案を考えないといけないわ)
内心で、「これならネリアムさんについて行った方が良かったかも」と思いつつ、エディスは海原を眺めて考える。波が同じように揺れていて、まるでゆりかごのようだ。
(ダメだ。あれを見ているだけで眠くなってきそうだわ……。あの波がずっと続いているのよねぇ……。うん、ちょっと待って。続いている?)
はたと閃くことがあった。
エディスはシルフィの方を振り向く。
「ふっふっふ。相手が近づく様子を確認するためには、必ずしも見ていなければいけないわけじゃないのよ」
「……意味が分からないんだけど?」
「魔力の粒子を広範囲の海面に細かくちりばめるのよ。と言っても、何かをするわけじゃないわよ。その場に漂わせるだけ。もし、船のようなものがそこを通過すれば魔力の粒子が潰れて、私が察知できるというわけ」
「……はっきりは分からないけど、要は莫大な魔力を使って、遠くまで魔力をバラまいて感知するということなの?」
「そういうことよ」
自信満々に答えるエディスと裏腹にシルフィは重い溜息をついた。
ネミリーから預かったらしい双眼鏡を取り出した。
「あたしが見るよ。そんな魔力の無駄遣いさせても仕方ないし。あたしの方が間違いなく偵察が得意だし、餅は餅屋が作らないとね」
「むむむ」
エディスは小さく唸った。
シルフィが役割を代わってくれるのは有難いが、結局のところ馬鹿にされているような気がしたからである。
魔力による探知:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093081724255770
しかし、言うだけあってシルフィは2時間くらい双眼鏡でこまめに眺めている。
「シルフィちゃんって、そういうのが好きなの?」
「好きじゃないけど、性には合っているのかなぁ。お姉ちゃんは10分で寝るだろうけど、あたしは4時間5時間と平気だよ」
「凄いわねぇ」
先程まで馬鹿にされると自尊心を心配していたエディスだが、今や完全に楽をする気満々で、灯台にあるソファに転がっている。
「……というか、お姉ちゃんがあたしに気づいたってのは、目じゃなくて魔力で見ていたからなのか」
「どういうこと?」
「セシリームで、船に隠れていたアタシを見つけたじゃない?」
そういえば。
確かにシルフィに会った時は、彼女が船の中に隠れていたのを、何か怪しいと思った。それで魔力で移動させて、無理矢理引き出したのである。
「……そうねぇ。確かに何かいるって思ったのは間違いないわ」
「アタシも少しだけ魔法は使えて、光を操作できるのよ。それでみんな、アタシのことが見えなくなるはずなんだけど、そういう見方をしていない人には通用しないということね」
シルフィはそう言って肩をすくめた。
光を操作することで、自分の周辺を不可視の状況にする。それによって気づかれないはずなのであるが。
エディスは恐らく無意識的に自分の視界に細かい魔力もバラまいて、魔力でも感知しているのだろう。だから、目ではとらえられないものでも捉えられるようだ。
シルフィは更に一時間、波を眺めている。
エディスは次第に眠くなってきた。
「ちょっとだけ寝てもいい?」
「いいよ」
「起きたら交代するわね」
「いいよ。どうせすぐ寝るだろうし」
「でも、シルフィちゃんも少しは寝ないといけないでしょ?」
「大丈夫だよ。2日くらいは」
「えーっ? それは良くないよ」
と、言い合いをしていると、下から足音が聞こえてきた。
「交代しましょうか?」
上がってきたのは、ネミリーの護衛役のパリナ・アロンカルガだ。
「エディス様を2交代制に入れたら破綻するから、代わってこいと言われて参りました」
「あ、そうなんだ……」
エディスはただ頷いた。
全員が自分のことをよく理解している。
そうは思ったが、同時に理解されているのにどうも納得できないという思いも沸き上がってきた。
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