第9話 エルフィリーナ・1
一方、エルリザに戻ったエディスは、ミアーノ家で両親に話をしていた。
「それでネミリーったら、自分の結婚には全く関心がない様子なのよ。今はいいけど、この先はどうなるのかしら?」
本人がいないのを良いことに調子のいいことを話している。
ハフィールはそんなエディスの軽い話を穏やかな表情で聞いていたが、一段落したところで尋ねてくる。
「ネミリーのことはよく分かったが、おまえはどうなのだい?」
「えっ、私?」
「最近、サルキア大公子の話を全く聞かないが、どうなのかね?」
エディスは「うぐっ」と呻いて、「待って」とばかりに右手を前に出す。
「私が無視しているんじゃないの。サルキアが返事してこないから」
「それでも、もう半年くらい聞いていないんじゃないかな?」
「そ、そんなことはないわよ……」
文句を言ってから、エディスは内心で期間を数えだす。
最後に連絡をしてから、三月、四月……確かに半年以上にはなる。
「そ、それでも、コスタシュがトレディアに向かったはずだから!」
何故かコスタシュはサルキアについていくことにしたらしい。
元々にしてもサルキアと行動していて、その勢力拡大の一環としてオルセナで行動していた。そこに合流して色々なことがあった。別れ際には「サルキアのところに戻る」と言っていたから、コスタシュを通じて自分の動向は知られているだろう。
「では、コスタシュ君に確認すべきじゃないかな?」
「は、はーい……」
エディスが弱々しく返答すると、マーシャがクスッと笑う。
「エディス、私達が結婚したのも互いが18の時なの。貴女も来年にはもうその歳に達するのだし、婚約者がいるのだというだけでは、みんな納得してくれないわよ」
穏やかな笑みを浮かべているが、だからこそ恐ろしいところもある。みんな、という言葉にマーシャが含まれることも間違いない。「早くしなさい」という圧力をかけてきている。
「そうなのだ。最近、サスティ殿下がまたこちらに色々言ってきている。殿下も困ったものだが、エディスが全く関係を先に進めないことにも問題があるのだと理解しないといけないよ」
「だ、だから、コスタシュにもサルキアにも手紙を出すから」
エディスは大きな溜息をついた。
唯一、自分が気楽にできると思っていた自分の屋敷すら、あれこれと圧力を受ける場所になってきた。自分が一日中転がっていられる場所は、ない。
手紙を書くのは仕方ないとして、このままの話題だと困る。
「あ、そうだ! 明日、手紙を港に届けた後、久しぶりに修道院に行くわ!」
「ほう」
修道院。
そこには姉のエルフィリーナが入っている。
3つ年上で、本来ならミアーノ侯爵を継ぐべき立場であるはずだが、ハフィールが「後継者はエディスにする」と決めたことで修道院に入ることになってしまった。
(そうだ。せっかくだから、私のこととか、ミアーノ侯爵決定のことについてどれだけ知っているのかも聞いてみよう)
エディスはそう決めたのであるが。
翌日、エディスの後ろには呆れた顔をしたセシエルがついてきている。
「僕がいたら、エルフィリーナさんが話したいことを言えないんじゃない?」
「だ、だってさ、もし、姉さんが『エディスがいるから私がこんなところに押し込められたのよ』って怒っていたらどうしようと思って」
「どうしようもないじゃん」
セシエルは冷たく言い放ってくる。
「別にエディスが決めたわけじゃなくて、ハフィールさんがやったわけだし。そういう文句はハフィールさんに言えって答えれば済む話じゃない?」
「そ、そんなこと、言えるわけないでしょ」
「僕とかネミリーには言うよね?」
「それはセシエルとかネミリーなら言えるけど、姉さんだよ? セシエルも兄さんに文句言えるの?」
「あぁ……」
セシエルが同意という顔をした。
「エディスにしては珍しく的を射た言葉だ」
「珍しくはいらなくない?」
ムッとした顔を向けるが、ふと閃いたことがある。
「そういえばセシエルって、以前ビアニーの王女様との結婚話を断ったらしいけど、今後どうするの?」
「……特に考えてないよ」
「それで伯父さんから何か言われないの?」
「だって、養子の行き先決まる時についでに結婚する可能性も高いし。変に相手がいたらややこしいじゃん」
「あー、それもそうか……」
確かに婚約者を連れて、養子の行き先を探すというのは変だ。
むしろ養子に行く先が決まったとか、あるいは婿養子として入るのが一般的なのだろう。
「聞く相手を間違えたわ。今度フィネに聞こう」
「フィネは婚約者いるじゃん」
「……」
「というか、エディスもサルキア殿下がいるのに、何で聞いているわけ? サルキアに不満でもあるの?」
「いや、ないわよ。そもそも不満とか満足とか考えるほど一緒に過ごしていないし」
「……それもそうか」
そんな話をしているうちに、修道院へと到着した。
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