第4話 略奪成功
サンファネスを発ったエディスは、駆け足でセシリームへと舞い戻った。
彼女の認識としては、セシエルをはじめとした盗賊達はもう少し南にいるはずだったが。
「あれ……?」
セシリームの南部を移動していると、既にその地域に盗賊達が歩き回っていることに気づく。
「一体どういうこと?」
サンファネスでの出来事といい、ここオルセナでは物事が早く動きすぎている。
エディスは頭を整理する。
盗賊達はカチューハ(とコレイド)をオルセナ軍から守るべく移動していた。
しかし、そのオルセナ軍はコレイド攻撃に専念していたようで、コレイドへと移動していた。
となると、盗賊隊を止める軍はいない。
だから、盗賊隊はセシリームに入城した。
話が繋がった。
(ということは、セシリームで略奪しているということなの?)
事前の話では、オルセナ軍から装備を強奪するという話を聞いていた。
そのオルセナ軍はいない。ということは、誰か別の者から強奪しなければならなくなる。
しかし、セシリームの住民はそれほどの資産を持っていないはずだ。
となると、彼らが行くところは金持ちの住むところになりそうだ。
ここセシリームで一番の金持ちが住むところとなれば、当然、水上宮殿のはずだ。
(で、でも、セシエルもついているのだし、そこまでするかな……)
エディスはそう思いながら、はっきりと分かる顔……すなわち、セシエルかフィネーラ、コスタシュかジーナ、エルクァーテといった面々を探す。
街の道を歩いていても分かりづらいので、高い塔の上に上った。おそらくは物見のための塔だろうが、修繕などが全くされていないようでボロボロだ。エディスが大きく飛び跳ねるだけでも崩れてしまいそうな雰囲気がある。
その塔の頂上から見下ろすと、長身のフィネーラの姿が見えた。
そのまま飛び降りると、ローブを広げて滑空し、フィネーラの下に舞い降りる。
「フィネ!」
「うお!? いきなり上から来るなよ、びっくりした」
「どうなっているの?」
状況を把握しているのかどうか疑わしいが、他に見当たる者がいないのでフィネーラに尋ねるしかない。
「セシエルとコスタシュは宮殿の中に入ったようだ。色々金目のものを持ってくるらしい」
「……そ、そうなんだ。で、フィネは何をしているの?」
「警戒だな。オルセナ軍とレルーヴ軍が東に向かったらしいから、戻ってくるかもしれない。そうなったら」
「迎撃するの?」
「いや、俺達が後方を守って、全員で金目のものを持って逃げ出すって算段だ」
エディスはホッと息をついた。
とりあえず、ここでは殺す、殺さないといった話にはならないようだ。
フィネーラがエディスをぼんやりと眺めている。
「……大分疲れたみたいだな?」
「まあね……」
肉体的に疲労したわけではない。ただ、精神的には消耗が激しいと自覚していた。
「私、ここで生まれたのかもしれないけど、でも、ここではやっていけそうにないわ」
「……そうだなぁ。ここはあまりにも滅茶苦茶だよなぁ。俺だって、ここで10年暮らすのは無理だわ。でも」
フィネーラが真顔になる。
「水上宮殿にいる老齢の王は、ひょっとしたらエディスの親父なのかもしれないんだろ? 会うくらいしてきてもいいんじゃないか?」
「ううん、やめておく。変に会って期待持たせたくもない。私がここで暮らすことはないし、もしも王子が生き残ったら色々遺恨になるかもしれないもの」
そもそも、ここに来ようという一つのきっかけに、セローフがオルセナの王女に関心を示しているかもしれないというものがあった。
セローフにしても、ブレイアンにしても、オルセナの王女が生き残っていると都合が悪い。
それが自分かもしれないとわざわざアピールするのは百害しかない。下手すれば今後エルリザでも安心して生活できなくなる。
「ネミリーには話すけど、父さんにも話さないでおくと思う……」
父・ハフィール・ミアーノは自分のことを知っているのだろう。
ただ、自分がオルセナ王女であるかもしれないということに関心はない。その話をして、変に藪蛇をつつくような真似をしたくない。
宮殿には入らないが、この場で一番頼りになる人物セシエルの話は聞きたい。
ゆえに、宮殿の入り口まで行って、盗賊の仲間にセシエルを呼んできてもらった。
大勢の者が入っていたようで、荷車にはかなりの財宝が積まれてある。その財宝を見る限り、オルセナは貧困の一途をたどっている中でも、財宝を揃える余裕くらいはあったらしい。
「ピレントでもそういう話があったけれど、何を考えているのかしら?」
独り言を毒づいていたところにセシエルが現れた。
「あぁ、エディス。連絡がないからちょっと心配していたよ」
と言う割には全く心配している様子がない。
「どうせどこかで遊んでいるだけだろ、と思っていたんじゃない?」
「否定はしない」
「遊んではいないわよ。遊ぶところもないくらい殺伐としているもの」
セシエルは穏やかに笑う。
「そうだね。まあ、何の因果か来てしまったけれど、もう来ない方が良いだろうね。まあ、でも、もうちょっと待ってもらえる? 半分くらいの財宝を積んで、南に帰るから」
セシエルが何の気なく言う。
「……でも、こんなに簡単に半分の財宝が取れるものなのね?」
「宮殿の衛兵を増やす費用もケチっていたみたいだからね。財宝はこれだけあるのに。オルセナというのはそういう点でもよく分からない国だよ」
エディスの疑問に、セシエルが呆れたように両手を広げた。
それから6時間後、セシエルら盗賊達が合流して、財宝をもって南へと向かった。
その部隊の最後方に、フィネーラとジーナ、更にはエディスもついて追撃がないか確認する。
追撃はなかった。
「じゃ、これらは皆さんに譲るよ」
名もない集落まで戻ったところで、セシエルがジーナに宣言した。ジーナはもちろん、後ろにいた盗賊達が快哉の声をあげる。
「願わくは、この財宝を使って継続的な生産ができるようにしてほしい。くれぐれも仲間内で奪い合わないでよ」
「そんなことはしないさ」
ジーナが爽やかに笑い、エルクァーテも「努力する」と頷いた。
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