4.盗賊達のセシリーム占領

第1話 予想外の進軍

 1月下旬、王都セシリームへの道にはフィネーラ・リアビィとジーナ・フロービリアを先頭にした盗賊主体の部隊が北上していた。


 その後方では、コスタシュ・フィライギスが不安げな顔をしている。


「エディスはどうしているんだろうなぁ……?」



 隣にいるセシエルも、もちろん従姉の動向は気がかりだ。


 セシリームに向かうと1人で出て行って以降、一度戻ってきたが、その後再度セシリームに向かって音沙汰がない。


 ただ、心配しすぎても仕方がない。


「コスタシュも三か月くらい連絡がなかったわけだしね。しかもエディスは僕達の20倍くらいの速さで移動できるわけだし」


 フードを脱ぐなと言っている。いくら馬鹿でもそのくらいのことは守るだろう。


 素顔のままなら問題だが、フードをかぶったボロい恰好のエディスが闇討ちされるとは思えない。何かしらのトラブルを起こしたとしても正面からならエディスは何とでもできるだろう。


 結局、「多分大丈夫じゃないか?」という結論に達する。



 それ以上に気になるのは道を北上しているのに、誰とも遭遇しないことだ。


「そろそろオルセナの首都防衛隊が出て来るはずなんだけど……」


 地元のことに詳しいエルクァーテ・パレントールが首を傾げている。


「あと何日くらいなんですか?」


「3日だね」


 セシエルの問いかけにエルクァーテが即答してきた。


 電撃的に速攻を仕掛けているわけではない。ぞろぞろと頭数を連れて通常のペースで進軍している。それで王都まであと3日の距離まで近づけているのは確かにおかしい。


「いくらオルセナがボロボロでも、盗賊主体の軍が王都を荒すとなると沽券にかかわるのではないだろうか?」


「それはそうだよ。国王ローレンスはともかく、王子ブレイアンは自らをヴェルマールの再来と考えているようだからね」


 エルクァーテの言う”ヴェルマール”というのは、数百年前にいたオルセナ最盛期の国王のことらしい。


「だから、絶対に出て来るはずなんだけどね。ただ……出てこないのも厄介なのは間違いない」


「確かに……」


 セシエルにもエルクァーテのつぶやきは頷けるところである。



 ここにいる盗賊主体の部隊は、意気も高いし実力もある。フィネーラとジーナは体力面では頼りになるし、セシエルもコスタシュも一般兵くらいなら十分に倒せるという自信がある。


 しかし、北上の目的はあくまで「カチューハとコレイドを攻撃しようとしているオルセナ軍の撃破」である。「王都セシリームの占領」ではない。


 仮にセシリームに入ったとして、この盗賊隊にはやることがない。もちろんセシエルやエルクァーテ、コスタシュであれば地域の統治への知識もあるが、大半のものはそうでない。


 そもそもセシリームにそれほど物資がないはずだから、少ない物資を巡っての争いが起きることもありうる。今回、これだけの人数が集まったのは、オルセナ軍を倒して物資を奪い取ろうと考えているからだ。オルセナ軍がいないなら、アテが完全に外れることになる。


(もし、ブレイアンが僕達のことに気づいていて、あえてセシリームを占領させようと考えているのなら、中々狡猾だ)


 セシエルはそう考える。



「何か考えがあるかい?」


 セシエルはコスタシュとエルクァーテに尋ねた。


 2人とも「ない」とばかりに首を左右に振った。


 セシエルにも「これだ」という方法はない。そうなるとお手上げということになる。


 収穫がない状態で部隊を解散すると、それこそ本当に盗賊行為を働きかねない。


「とりあえず街が見えるところまで進んで、そこで二日待機しよう」


 十分とはいえないが、一週間程度の食料は持っている。


 二日待機して、偵察もする。原因が分かるか何かしらの攻撃があれば、あるいはエディスからの連絡があればそれを受けて待機する。


 相手に動きが何もなく、王宮が占領できそうならそのまま進軍するしかない。


 そのいずれも不可能なら、無責任だが諦めて解散するしかない。



 セシリームから南、20キロの地点まで移動してきたところで一旦待機となった。


 そのまま、セシリームへと偵察部隊を出す。


 予想外の事態、相手の作戦もあるのかと思ったが、どうやら違うらしいことはすぐに分かった。


「オルセナ軍は5日ほど前に東に向かったようです」


「東に?」


「はい。東の道から、コレイドの中心地サンファネスへと向かうようです」


「つまり、彼らの攻撃目標はカチューハではなく、別のところだったわけか」


「そのようですね」


「セローフから来たレルーヴ軍はどうしたの?」


「千人ほどの大軍だったようですが、一部の魔道士を除いて物資がなくなったということで北東に向かったようです」


「北東?」


「ベルティとの国境近くの街には物資があるらしいので、略奪に向かったそうです」


 伝令の報告に、セシエルは失笑しか浮かばない。


「友軍が、物資を略奪するために別のところに行くってどんな国なんだよ、全く」


 エルクァーテが「それだけじゃないよ」と追加する。


「今の話だと、セシリームにオルセナ軍がいないようだ。我々が水上宮殿まで向かっても阻む者がいないってことだよ」

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