第4話 ツィアの推測
エディスを見咎めた衛兵は、ツィアという青年に対してその怪しさを力強く主張する。
「こんな怪しい恰好で、自分がシルフィ様の手紙を受けてきたと言うのです。おかしいと思いませんか!?」
「……まあ、シルフィちゃんの手紙を持ってきたのなら、とりあえずそれを見せてくれ」
ツィアはエディスと衛兵を見比べ、明らかに戸惑った様子で、微温的な態度をとる。手紙を見て、それで判断すると。
衛兵は露骨に疑った顔のまま手紙をツィアに渡した。彼はそれをサッと眺め見て、驚きの声をあげる。
「スイール・ミアーノ侯女エディス・ミアーノ?」
衛兵同様に最後に記されている名前のところに反応した。
「……ということは、エイルジェ・ピレンティとシルヴィア姫と共に大陸三大美少女と言われている、あのエディス・ミアーノなわけか?」
また、それか。エディスは内心苛立ちを覚えた。
「まあ、そういう風に言われているらしいけど、シルフィちゃんも含めてそればっかりなのが面白くないわ」
子供の頃はあまり評価されなかったこともあり、急な美女評価は苦痛でしかない。
もちろん、それで知られているということは分かっているが、誰も彼もが「三大美女」だの「三大陸一の美少女」だの評価するのは食傷気味だ。
しかし、ツィアはその後、何の気なく他者とは違う言葉を口にした。
「……ジオリスは実はとんでもない魔力を持っているとか言っていたっけ」
「えっ? ジオリスを知っているの?」
「……ジオリス殿下の下に、少しだけいたことがあるので」
「そうなのよ。ズルしちゃった扱いだから失格だったけどね。こう見えて多少は魔法に自信があるのよ」
「……それで、そのエディス姫がどうしてここに?」
ツィアは先ほどより無表情な顔つきで、淡々と話を続ける。
ようやく自分の知りたいことが聞けるかもしれない。
エディスはここコレイドで大きな虐殺があったらしいことを聞いたこと、そこに何者かの魔道が絡んでいたかもしれない、ということについて話をした。
そのついでにオルセナにおける自分の立場についても話そうかと思ったが。
(まあ、あくまでそんな可能性があるだけだし、言って自意識過剰だと思われても嫌だから黙っておこ)
と、さしあたり話さないことにした。
ツィアはエディスの話を無言で聞いているが、その事実に衛兵が不満を隠さない。
「ツィア様、この怪しい女の言うことを信用するのですか?」
食って掛かるような剣幕に、ツィアは戸惑ったような顔になる。
「……見た目は怪しいが、話していることに矛盾はないように思うが……。それにセシリームの連中が密偵を送るなら、ここまで怪しさ爆発の娘を派遣しないものだと思うが」
「そんな、密偵なんかじゃないです!」
エディスは慌てて否定する。ただ、いくら脳内御花畑と言っても、自分が怪しまれる状況にあることは理解している。
(オルセナの王女かもしれないなんて言われているわけだし……)
一番良い方法はフードを脱いで、「ほら、三大陸一の美少女でしょ?」とか言うことかもしれないが、ネミリーやセシエルにもやらないことを赤の他人に言うのは何だか抵抗がある。
「……味方であるなら、コレイド国王に会ってもらうことになるから、そのフードは取ってもらう。それでも良いか?」
「あ、はい。それは構いません」
幸い、向こうが「フードを取れ」と言ってきた。それなら、まあ、仕方ない。
という時点で、「あれ?」と思った。
「コレイドって一地方ですよね? 国王なんですか?」
オルセナという国のことは分からないが、コレイドはオルセナの地方であって、国という話は聞いていない。
しかし、王を名乗るということは国であることを意味する。
「……セシリームの連中は地方に出ては次々に人を浚っていく。そんな連中を国王とか王子だと奉れると思うか?」
「無理、無理。絶対に無理」
「となると、自分達で国王とするしかない。他者が認めるかどうかは、ともかく」
「あ、なるほど」
エディスにも何となく話が見えてきた。
「ということは、コレイドの領主は『こんな酷いオルセナ国王の下にいるくらいなら、自分が国王になったるわ!』と言って、それでオルセナが怒ってアロエタの街を攻撃したということですか?」
「……恐らくそんなところだろう。その中に、先程エディス姫が言っていた魔道士が関与しているのだろうと思う」
「物凄い魔道士なんですか?」
「分からないが、俺の直感ではエディス姫のように恐れられるほどの魔道力は持っていないと思う」
「どうして分かるんです?」
「アロエタで2000人を皆殺しにした奴なら、良心を持ち合わせていない。そんなとてつもない魔道士がいるのなら、コレイドの中心地であるサンファネスだって襲撃するはずだ」
しかし、それなりの時間が経過しているが、サンファネスは無事だ。
「アロエタは砦のような造りになっていたという。砦というのは攻める道が少ないが、逆にいざという時の逃げる道も少ない。一つを魔道で塞いで、別のところから攻撃を仕掛ければ、中の連中は逃げようがない」
ツィアが淡々と説明する話を、エディスはあまり理解していない。
ただ、その自信ありげな姿を見て思った。
この男の言うことは、多分合っているのではないか、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます