第4話 オルセナ衰退史
翌日、一行はカチューハを出発し、王都セシリームを目指す。
「セシリーム近辺は治安が一際悪いから、気を付けた方が良いですよ」
ジーナが注意を喚起し、エルクァーテも頷く。
エディスがふうと溜息をついた。
「好き好んでいきたいわけじゃないけどね……」
投げ槍な様子で答えて、首を傾げる。
「でも、オルセナはどうしてそこまで酷い国になったのかしら?」
「確かにそうだよな。歴史もある国なのになぁ?」
フィネーラも同意する。
セシエルはエルクァーテの様子を見た。
彼も全く知らないではない。ただ、ここまでの様子からしてエルクァーテの方がより詳しいのではないかと思った。
エルクァーテも役割を理解したのだろう。頷いて語り始めた。
「オルセナは約600年、大王と呼ばれたヴェルマール2世の時にはビアニー、バーキア、レルーヴ、トレディアを四大公国として従え、大陸の西半分を制覇しました」
「その王様の名前は聞いたことあるな」
とフィネーラが言えば、エディスは「聞いたことはあるかも。覚えてないけど」と舌を出した。
「そこから150年後にまずはビアニーが独立します。原因はオルセナ側にあり、愚王と呼ばれたガルタンが当時のビアニー大公の妻アデルに横恋慕し、大公を暗殺して奪い取ってしまったことにあります」
「うわ、最低だな」
「ビアニーはオルセナからの独立を宣言し、ガルタンはビアニーの独立を阻止すべく軍を派遣しましたが、大敗を喫して本人も戦死しました」
「当然だろ」
フィネーラが嫌悪感を露わに言い、エルクァーテも頷く。
「そこまでは良かったのですが、ビアニー側も復讐心が昂じて、降伏したオルセナ兵1万5千人を虐殺してしまいました」
「1万5千!? ……それは、さすがにやりすぎだなぁ」
「これがなければオルセナも愚王のなしたことと譲歩の余地があったのですが、戦死者も含めて死者が5万人を超えてしまったことでビアニーを許せなくなりました。この両国の遺恨は今でも続いています」
エルクァーテの言葉にエディスが「そういえば」と思い出す。
「オルセナのことはジオリスも言っていたわね……」
そう言ってから、自分がそのオルセナ側に該当するということを認識したようだ。「あっ」と呻くような声を出す。
「……ということは、もし、私がオルセナの王女だったりしたら、ジオリスから目の敵にされるわけ? それは嫌だなぁ」
「あぁ、公言すれば仲良くしづらいだろうね」
ジオリスがそれだけで嫌うかどうかは不明だ。
しかし、ジオリスと”オルセナ王女であるエディス”が仲良くしていたら、ビアニーの群臣達が口さがなく言うだろう。ジオリスにとってはやりづらいはずである。
「ビアニーが独立して50年程度でレルーヴとバーキアも離反しました。この時点で領地という面でも大幅に減っているのですが、それ以上に、この当時のオルセナが大公国に依存していた、という問題がありました」
オルセナ本国には国王家をはじめ、有力な貴族達が存在している。
彼らは特権階級として多大な物資や金を消費していたが、その全てをオルセナで賄いきれたわけではない。それは格下にあたる四大公国からの搾取という形で賄われていた。
しかし、その四大公国が次々に独立していき、搾取が叶わなくなる。
「それでも国王も貴族も今までの生活をやめられません。かくして、オルセナは急激に金欠化が進みました。改革を目指す動きもありましたが、それも頓挫します。金に苦しむオルセナはレルーヴに頼るようになっていきました」
「あれ、レルーヴも独立したから嫌いなんじゃないの?」
「いいえ、レルーヴとトレディアは離反しましたが、独立はしていません。オルセナにとって独立したビアニーとバーキアに頼るのは面子が許しませんが、レルーヴは一応大公として残っているので、すがってもまだメンツが立つのです。レルーヴとトレディアはだからこそ独立せずに残ったとも言えるでしょう」
大公国として残っていれば、オルセナに金を貸して弱みに付け込むことができる。ならば、独立せずに美味しいものを取ろうということだ。
「オルセナは金を返せないので、担保として金山や銀山など旨味のあるものをどんどんレルーヴに譲渡していきます。そうなるとオルセナ国内の収入が少なくなります。結局金を賄いきれず、更に売り渡すという繰り返しになります」
「どうしようもないわねぇ」
「そのうち、元手がかからない形での金儲け……つまり奴隷経営に乗り出していくことになります。これが200年くらい前でしょうか。更に、農地からの作物を少しでも欲しいので休耕期間もなくなった結果、南部の農地が生産力を落としていきました」
踏んだり蹴ったりの状況、エディスも呆れるしかない。
「国王はともかく貴族を減らすとかできなかったのかしら?」
「そこが非常に国というものの不思議なところで」
オルセナがとことんまで地に落ちてくると、もちろん多くの者が逃げていくが、全員が逃げるわけではない。そんな中、オルセナに残る者達は何とか「残る理由」を見出そうとする。
「彼らはそれを伝統と歴史に見出すしかありません。つまり、オルセナにはもっとも古い王家があり、歴史ある貴族の家がある。オルセナの正当性のためには、彼らが更に着飾るしかないのですね。それが国家を更にどん底に叩き落すと分かっていても、です」
「……確かに、オルセナ王家というものにはいまだに特別な響きがあるみたいだよね」
だからこそ、サルキアに協力しているコスタシュは色々調べているのだし、レルーヴ大公のもオルセナ王女が生まれた直後に息子と結婚させようとしたのだから。
しかし。
「私には理解できないわ」
エディスは首を左右に振り、呆れたように言うだけであった。
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