3.ガフィンを追って

第1話 アッフェルで待つ2人

 セシエルがジュニスとともに調査を行っていた頃。


 ガフィン・クルティードレの姿はアッフェル城内にあった。



 この時、ジオリス・ミゼールフェンは治安維持活動のために外に出ており、迎えるのはピレント女王エリアーヌのみである。


「あら、軍師様。セシエルは?」


 1人で戻ってきたガフィンにエリアーヌが首を傾げるが、ガフィンは悪びれることなく膝をついて答える。


「ははっ。ティシェッティ公子は現在、南部で治安維持活動を行っているようです。私はそれとは行動を異にしまして、一旦グリンジーネに戻る予定です」


「そうですか……」


 セシエルはウォリスの状況を調査に行ったが、同時に彼も治安維持活動の任務を負っている。ガフィンと行動を別にするのは不思議ではないのかもしれない。


「ウォリスはどうだったのですか?」


 エリアーヌはガフィンとはほとんど会話もしないので、あまり話も続かない。


 他に話すこともないので、彼が派遣された目的についての首尾を尋ねる。


 ガフィンは露骨に顔をしかめた。


「良くありませんでしたね。ならず者と協力して、資金稼ぎをしているようです」


「……そうなのですか」


「この件を陛下に報告して、しかるべき処置をとってもらいたいと思います。ただ、私も大人げないことをしでかしましたので、しばらく謹慎するつもりでもありますが」


「大人げないこと?」


「はい。それはまあ、国王陛下に直接話すべきことだと思いますので」


 そう言われるとエリアーヌとしてはそれ以上聞く手立てがない。


 ピレントはビアニーの属国のようなものである。本国の王族の失態について、属国の女王に教える理由はないと言われれば追及のしようがない。


 もちろん、単純にエリアーヌのような少女に教えても仕方ないと思っているのかもしれないが。




 エリアーヌとしては、話すこともないが、引き止めずに帰すとジオリスが文句を言うかもしれない。


「ジオリス王子は一週間もすれば戻ってくると思いますが、そのまま行かれますか?」


「はい。なるべく早く国王陛下に報告した方がよいかと思いますので」


 引き留めてみたが、あっさり拒絶された。


 そうなると、エリアーヌにはどうすることもできない。


「承知いたしました。お役目ご苦労様です」


 エリアーヌはガフィンに替えの馬や物資などを用意するように指示を出し、面会を終えた。


「失礼いたしました」


 ガフィンがそう言って、下がっていった後、エリアーヌは「疲れた~」とばかりに王座にもたれかかった。



 ジオリスは予定通りに一週間後に戻ってきた。ピレント国内での盗賊の活動はほぼ皆無になっているとの報告があるが、ジオリスの巡回も何事もなく終わったし、周辺集落で不穏を感じたところもなかったらしい。


 であるだけに、バーリス城主が盗賊と組んでいるというエリアーヌの言葉に、ジオリスは驚愕を示す。


「ウォリス兄上がならず者と組んでいる!?」


「詳しいことはセシエルに聞いてみないと分からないけど」


 エリアーヌが自身の推測を口にする。


「多分だけど、ピレントからジオリスとセシエルが追放した盗賊連中、ステレアから追い出された連中がネーベル南部に集結しているのよ。盗賊達はこれ以上、逃げたくないからバーリスにいるウォリス殿下に庇護を求めているのだと思うわ」


 ピレントではジオリスとセシエルが片付けた。それを受けて、ステレアも盗賊達の排除に乗り出した。


 もちろん、支配を受け入れた者もいるだろうが、それを嫌ってネーベルに逃げた者も多いだろう。それらがまとまって、ネーベル国王に助けを求めるということはありうる。その後、ネーベルの統治を任されたウォリス相手にも。


「……ウォリス兄上ならやりかねない話ではある、ということか」


 ジオリスは深い溜息をついた。自分とセシエルが働いてきた分を完全に裏切るような行為をしていたのだ。怒りも失望も大きいだろう。


「ガフィン・クルティードレが国王に伝えに行くと言っていたけれど、セシエルが戻ってきて裏付けが取れたら、ジオリスからも伝えた方がいいんじゃないかしら?」


「あぁ、そうしよう。ただ、セシエルの奴は大丈夫かな? 南部で活動するというガフィンの話が本当だとすると」


「あっ」


 エリアーヌも事態の深刻さを理解した。


 ネーベル南部に三国の盗賊が集まっていて、しかもウォリスが庇護しているとなると敵だらけである。


 正規軍を連れているとしても、危険極まりない任務となる。



 もちろん、2人とも、セシエルのそばにジュニス・エレンセシリアがついていたということは知らないし、更にその目的が盗賊達ではなく、未知の魔道を研究している集団であるということは知る由もない。



 セシエルの危険を理解したエリアーヌの不満はガフィンに向かう。


「……あっさり置いてくるなんて、あの軍師の人は随分冷たい方ね」


「同感なんだが、俺はあのガフィンという男のことを良く知らないんだよな。ソアリス兄上に二年前からついてきていて、能力は実際にあるみたいだ。ただ、軍の中にあの人のことを良く思わない人もいるって話は聞く」


「……まあ、文句を言っても仕方ないわよね。ピレントの兵を連れて行っても構わないから、セシエルの状況を調べてきた方が良いんじゃない?」


「……そうだな。バーリスにいるルーイッヒ義兄上とも相談した方が良さそうだ」


 ジオリスも賛成し、すぐに出兵の準備に取り掛かった。

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