第4話 交換条件
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ツィアは準備をしがてら、メミルスに聞く。
「手を組む余地があるというが、どこにそういう余地があるんだ?」
ビアニーは現在、ガイツリーンを占領すべく行動中である。その中にはベルティ国王カルロアの姪が女王となっているステレアも含まれる。
ベルティは、少なくとも国王が生きているうちはステレアを必ず支援する。
となると、両国に妥協の余地はない。
メミルスは「そんなことはないですよー」と呑気に笑う。
「殿下も薄々お気づきだろうと思いますが、国同士が宿敵でも、その下にいる者がそうであるとは限りませんからね」
「……」
「現時点、ソアリス殿下はビアニーのことよりも許婚の難病治療の方が重要なんでしょ?」
「そうだな」
「一方、我が主であるルーリーもさしあたりベルティ国家のことを考える余裕はありません。国王は病厚く、万一の際には国全体が内戦に突入するだろうことはご存じかと思いますからね。そこで」
メミルスがパラッと紙を一枚見せる。
何気なく中身を見たツィアは冷笑を浮かべた。
「なるほど……、俺の偽名についての証明をルーリー殿下が出してくれる。その代わりに俺はステル・セルアやヘーデルといった他の候補者のところを偵察しろということか」
現在名乗っているツィア・フェレナーデはあくまで自称であって、裏付けはない。
しかし、ルーリーはその偽名の証明を出してくれるという。
もちろん、同じ四男同士という好意ではないだろう。
ルーリーが欲しいのは他陣営の情報だ。すなわち、有力者と目されている第一王子や末子の動向である。
アネットはベルティの中央にあるため、下手をすると四方八方から攻撃を受けるかもしれない。他がどう動くかということには神経質になっているし、警戒が行き通っている。
事実、ツィアは街に入ったその夜に踏み込まれているのだから。
「そういうことです。もちろん、ステル・セルアで薬を探すことは構いませんし、何なら船だって出しますよ」
「船といっても、国王が死んだ後はどうなるんだ?」
ベルティの王都ステル・セルアにはその街の規模からすると控え目だが港がある。
そこには各領主の抱える船もあるだろうが、これらは国王が死ねば、ステル・セルアの領主が封鎖することが予想されている。
メミルスは「大丈夫ですよ」と余裕の顔つきだ。
「そんなあっさりルーリー殿下の船だとバレるような運航はしておりません。それにハルメリカやバーリスと違って、ステル・セルアの港管理はずさんなものです。ご安心いただいて結構です」
いくらでも言いくるめる手はありますからね、と自らの王都の管理不足をあげつらい、自嘲気味に笑っている。
「そういうことですので、ソアリス殿下の希望は大体かなえられることでしょう」
「分かった。協力しよう。ただ、期限を区切った方がいいんじゃないかな」
現時点では互いに協力するメリットがある。
しかし、それが不必要になるタイミングが来るだろうし、ビアニーとベルティとの間で戦端が開かれる可能性もある。
「一年か二年くらいで区切った方が良いんじゃないかな?」
「そうですね。そのあたりはルーリー殿下とのお話で、決めていただきましょう」
準備が終わり、ルーリーの待つアネットの宮殿へと向かうことになった。
ベルティの街並みは街全体を城壁で包むものではなく、中心部の一部が城のようになっており、その中にある宮殿から政治機能が行われる造りとなっている。
だから、ベルティの街は大きなところが多い。100万を超えるというステル・セルアがその際たるものだが、15万を超える街が20近くあるという。
「実際のところ見込はどうなんだ?」
宮殿へと向かう途中、今度はメミルスにベルティの状況を尋ねる。
「国王は四か月ほど前に、もって半年と言われたそうですので、いつ死んでもおかしくはないですね」
「ステル・セルアには現在の皇妃がいるんだっけ?」
国王カルロアは他民族をうまく治めるために、各民族から妻を娶り、その間に生まれた男子をそれぞれの民族の代表として治めさせている。例外なのはルーリーで、彼の母親は南のフンデから逃げてきた奴隷女のような存在だったらしい。
「だから、一番関係ないアネットをもらったというわけです」
「ビアニー人の感覚としては……」
ツィアはこれまで聞いてきた、自分なりのベルティの情勢をメミルスに話す。
「王都ステル・セルアにいる末子か、北のヘーデルにいる長子が有力だという風に聞いている。中部のアネットについては、全く話題になっていないと言って良い」
「まあ、小さな街ですからね。ただ、我々の認識は少々違います。ステル・セルアにいる末子はまだ16歳と若いですし決断力のある人物ではありません」
「俺とおまえも18か19だが?」
若いという点ではそれほど大差はない。
「年齢はそうですが、末子はステル・セルアの王宮で甘やかされて育っていますからね。逆境に立ち向かえるタイプではありません。一方、北のヘーデルにいる長子は確かに厄介ですが、長子が有力候補ということは周囲も知っています」
「つまり、長子は孤立する可能性が高いわけか」
「恐らくは。理想は長男と末子が潰し合ってくれることですが、真ん中に私達アネットがおりますから、そうならないんですよね。ですから、最初の展開がどうなるかははっきり言って分かりません」
「……逆に真ん中にいる四子を、何勢力かで袋叩きにするという手もあるのでは?」
長男と末子が有力だとしても、難治の土地を治めている四子もまあまあ厄介な存在として見られていそうだ。地形的に真ん中にいる以上、周囲の勢力が「まず景気づけにアネットを袋叩きにしよう」と考えても不思議はない。
「そうさせないために私が情報や工作を受け持っているわけでして」
「違いない」
ツィアは笑った。
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