第5話 卒業試験・5
「……えっ?」
ほぼ一斉に、あちこちから声があがった。
その一人、ネミリー・ルーティスは唖然と親友を見た。
「あの、おバカ……」
思わず文句が口をついた。
そのおバカと呼ばれた親友はあっけらかんとレイラミールに笑いかける。
「ですので、今のは、無しってことで。もう一回やり直していいですか?」
レイラミールはエディスが差し出した二つの神器を手に取り、ハァ~と重い溜息をついた。
「エディス・ミアーノ」
「はい?」
「私達は、遊びで貴方達留学生の教育をしたり、面倒をみたりしているわけではありません。魔道の探究をするとともに、後進の育成を図るために教えているのです」
再度、呆れたような溜息をついた。
「なるほど、確かに貴女の実技開始の合図などは出していませんでしたが、これだけのものを見せられたら、これを元に評価せざるをえません。この神器を持っていたということから不正をしたと評価することは可能ではありますが、この2個ではあの魔力の万分の1にもならないでしょう。やり直しなどはありません」
裏山を丸々消し去る魔力を見せられた後で、「あれはノーカウントでお願いします。この火の玉1個で70点ください」などという理屈は通用しない。
「この2個の神器は不正目的ではなく偶々持っていたということで150点満点とするか、あるいは不正をしたということで0点か、二つに一つです」
「ええぇっ!?」
「もちろん、不正をしたなら0点で、貴女の合計点は56点のままですから、補講1週間ですね」
「ぜ、ぜろ点……」
エディスは愕然と立ち尽くしている。
「いや、普通に1位でいいじゃないか? 何が嫌なんだ?」
サルキアが苛立ったように言う。
「そうよ、エディス。一体誰が何の目的でやったのかは知らないけど、止められなかったらイサリアの街が燃えていたかもしれないのよ? それを防いだんだし、胸を張って1位になればいいじゃない?」
エリアーヌも続けて説得している。
ネミリーも同感ではある。
だからエリアーヌの後を受けて何かを言おうと思ったが、エディスの表情……戸惑いと不安に満ちた表情を見て躊躇いが生じた。
「使いこなせる自信がないの……。さっきは、うまくいったけど……」
エディスはうつむきながらぽつりと言う。
ネミリーは、無意識にセシエルに視線を向けた。「仕方ないよ」という様子で両手を広げている。
溜息をついて、レイラミールに進み出る。
「エディスは極端過ぎて、いきなり1位にすると調子に乗って何か破壊するかもしれませんし、参考記録ということで良いのではないでしょうか」
「参考記録と言いますが……」
レイラミールの言葉に、ネミリーは仕方ないと栗色の髪をかき回す。
「……私とセシエルは10数年エディスと一緒にいますが、エディスを完全に止められたことは一度もありません。エディスの試験記録を発表すれば、私達ですら止められないエディスを暴走させようとするものが出て来る危惧があります」
「……それは分かりましたが、記録として認められない以上は落第と補講となりますが」
「そういう巻き添えも何度も食らっています。私もエディスに付き合いますよ」
「ネミリー!」
エディスがパッと顔を輝かせた。
「セットで紹介された以上、僕も付き合うよ」
セシエルもすぐに応じる。エリアーヌとジオリス、コスタシュも「それなら」と同調した。
残るはサルキアだけであるが、納得していない様子だ。譲られた1位に納得がいかないのだろう。
「……サルキアは逆に、今後、エディスがしっかり制御できる方法を考えればいいのよ。それがしっかり分かるようになれば、実技はエディスが上かもしれないけど、理論でサルキアが上をいけるでしょ?」
ネミリーの言葉に、サルキアは空を見上げて、次いで何もなくなった裏山を見た。少し思案して頷いた。
「……分かった。今後5年、いや、3年で答えを出してやる。エディス、その時まで勝負はお預けだ」
サルキアの真剣な表情に、エディスが「え~」と面倒そうな顔をした。
「いいよ、もう、私の負けで」
「3年後に絶対に再戦をするからな。みんなも覚えてくれよ」
サルキアの呼びかけに、げんなりとなっているエディス以外が「分かった!」と声をあげた。
【国外留学生卒業試験成績】
1. サルキア・ハーヴィーン 筆記100、実技97、合計197点
2. セシエル・ティシェッティ 筆記96、実技81、合計177点
3. ネミリー・ルーティス 筆記94、実技77、合計171点
4. エリアーヌ・ピレンティ 筆記87、実技79、合計166点
5. ジオリス・ミゼールフェン 筆記77、実技88、合計165点
6. コスタシュ・フィライギス 筆記84、実技76、合計160点
7. エディス・ミアーノ 筆記56、実技150⇒0、合計56点
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