第4話 卒業試験・4

「嘘でしょおぉぉ?」


 ネミリーが間抜けすぎる声をあげて、自分で気づいて口を塞ぐ。


 続いて親友を見た。



 魔術学院の裏山一帯を消し去ったエディスは、さすがに体力か気力が限界に達したのか、不思議な足運びをして後ろ向きに倒れそうになる。


「おっと」


 それをサルキアが何とか止めた。ただ、彼も限界だったのか、そこで体力を使い果たしたようで自らがエディスの下敷きになるように倒れた。


 その上にエディスが背中から落ちる。


「おばさん……」


 ネミリーはアルテイラを見た。


 茫然と何もない裏山跡を眺めていたアルテイラが視線に気づいて、キョロキョロと見渡す。


「先生、どうすれば?」


 あまりにも正直に、レイラミールに助けを求めた。


「え、えぇ……」


 学長のレイラミールも唖然とした様子だったが、すぐに気を取り直した。


「まずは街の方に確認を! 次いで、医療班はエディス・ミアーノとサルキア・ハーヴィーンを!」


 警備にあたっていた魔道士達に呼びかける。すぐに散開して、街の方へと向かった。



 さしあたりの処理を行っている間、レイラミールは教授陣に「よろしいでしょうか?」と呼びかけた。


「何だね?」

「先ほどの魔道でございますが」


 緊急事態であったが、エディスが放った魔力を審議対象としたいようだ。


 教授陣も大きく頷いた。


「そりゃあ、あれだけのものを見せられては……」

「わしも30年魔力審査をしているが、あれだけのものは見たことがない」

「それでは、上限ということで」


 レイラミールの言葉に、残る教授も一斉に頷いた。



 教授陣の回答が出ると初めて、レイラミールがサルキアとエディスのところに寄ってくる。サルキアが座り込んでいる横で、エディスは大の字になって寝ているようだ。


「よろしいでしょうか? サルキア・ハーヴィーン?」


 レイラミールは近づきながら、恐る恐る問いかけた。


 曖昧な言葉だったが、何を言われたのかは理解したようだ。サルキアは微笑を浮かべた。


「……あんなのを見たら、何も反論できないですよ」


 裏山とはいえ、幅広い空間をまとめて消し去ったのである。尋常な技ではない。


 エディスの筆記試験は56点だが、彼女の実技は特例点である150点に限りなく近い。


 となれば合計点でサルキアの得点を上回る。


 レイラミールの問いかけは特例点数を与えて抜かれる者への確認だ。


 抜かれる側は、それをむしろ誇らしげに主張した。


「エディスの勝ちです。エディスが1位でないと、おかしいです」

「サルキア・ハーヴィーン、貴方は本当についていませんでした」


 エディス・ミアーノのような破格の天才はそうそう存在するものではない。


 彼女の前後1年であれば、サルキアは間違いなく首席だった。しかし、それが今やなくなってしまった。


 しかし、失った側は、悔いる様子がない。


「学長、逆ですよ。俺はエディスと一緒で本当に良かったですよ。俺の薄っぺらい自尊心や抱負を、あいつは完璧に打ち砕いてくれて、変わらないとダメだと知らしめてくれましたから」

「そうですか」


 レイラミールは満足げに笑い、サルキアも笑った。


 ちょうどそのタイミングで、エディスが「うん?」と声をあげ、目を開いた。



「気づいたか、エディス」


 サルキアの呼びかけに、エディスは周囲を見た。


「火は?」

「消えたよ。とんでもない魔力だった」

「そうなんだ……」


 本人はあまり誇る様子もない。


 そこにレイラミールが「エディス・ミアーノ」と呼びかけた。


「あ、レイラミール先生……、ちょっと話したいことが」

「何ですか?」


 エディスの言葉に、レイラミールが温かい視線を向ける。



 だが、その直後、エディスはあまりにも意外な言葉を口にした。



「すみません……。ズル、しちゃいました」


 エディスはそう言って、二つの道具をレイラミールに提示した。


 魔力の許容量を増加させる二つの神器である。

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