第2話 卒業試験・2

 採点が終わり、午後の実技試験に向けての説明を受けた後、昼食となった。


 午後の実技試験は、運動場で魔力を発動させての実技となる。これまでの講義では魔力を増強する神器などの使用が認められていたが、当然、卒業試験では使用が認められていない。


「そうなると、たまに発動を間違えて、街の方に魔力を飛ばしたりする馬鹿もいるんだって」


 食事をしながら、エリアーヌが言う。


「そうそう。ラルス国内の学生は3年間学んでいるからしっかり理解しているけれど、国外留学生の中には理解も中途半端で、しかも偶に金にものを言わせて魔力増強の神器をこっそり忍ばせていて、時に予想外のことが起きるんだって」


 ネミリーも続く。恐らくアルテイラからの受け売りだろう。


「あ、だからアルテイラ先生、最初に不正は0点って言っていたのね」

「恐らく、ね。貴族の子弟だとそういう無駄なプライドを持っているのが多いし」

「不正という点では今回は大丈夫そうよね」


 エリアーヌがサルキアとエディスに続けて視線を向ける。


 サルキアが優秀なのは全員が知っている。不正などしなくても一番を、しかも満点で狙えるだけの力である。


 それを唯一覆せるとしたら、エディスだろう。ただし、魔力が強すぎて目立ちたくないというのが彼女の立場である。だから、こちらも不正はありえない。


「……でも、不正が多いし、貴族同士のことだからしっかり監視しないといけないということで、学院中のまあまあ出来る魔道士が監視役になるらしいわよね」

「あまり多すぎると、かえって他人任せにならないかしら?」

「私もそう思う」



 何故か2人が盛り上がっている間、残りの面々は緊張した面持ちでご飯を食べている。


「どうかしたの? エディス」


 セシエルが従姉に問いかける。ネミリーとエリアーヌの会話に入っていく2人であるはずが、黙々と食事を食べているからだ。


「いや、できれば順番は後の方がいいなぁって」

「どうして?」

「他の人の実技と点数を参考にしたいから」

「あ、なるほどね」


 エディスが本気を出したくないということを全員が理解している。


 だから、差し障りのない記録でとどめたい。そのためには、先に他の人の実技を見て、どのくらいやれば何点になるかというのを知っておきたい。


「4点なら適当にやれば取れるんじゃない?」

「それは分かっているけれど、だからといって4点取ってきっちり60点でギリギリ回避しましたっていうのも情けないでしょ」

「それなら100点でもいいじゃん。それでも156点なんだし」

「あー、その言い方は何かむかつく! セシエル、自分が80点でも私に勝てるくらいに思っているんでしょ!」

「うん、実際に勝つし。初歩的な算数だよね」


 と、軽く従姉の文句をあしらいながら、みんなに視線を向けた。


「順番はどうする? 慣習としては、筆記の点数が低い人から先になるみたいだけど、エディスは後にしてほしいって言っている」

「正直何番でも構わないが、どうだ?」


 サルキアも全員を見渡したが、異議はない。


「じゃ、エディスが最後で、あとは点数が低い順番でいいんじゃないか?」

「えっ、私が最後なの?」


 さすがにラストということにエディスは驚いたが、サルキアが「そうしたら、全員の分が見られるだろ?」と問いただすと「ま、そうか」とあっさり受け入れた。



 午後1時、運動場に全員が移動した。


 順番についてサルキアが申告する。レイラミールもアルテイラも反対はしない。


「それでは、最初にジオリス殿下からお願いします」


 アルテイラの言葉を受けて、ジオリスがまず小さな火の玉を発生させた。



 一時間ほどかけて、5人が終わった。


 ジオリス:88点

 コスタシュ:76点

 エリアーヌ:79点

 ネミリー:77点

 セシエル:81点



「188点は遠かったよ。ジオリスのお兄さんは凄いねぇ」


 81点という結果発表を受け、皆のところに戻ったセシエルは、やや悔し気にジオリスに言う。


「……それ、俺を馬鹿にしている?」


 合計しても165点のジオリスが言う。ちょっと険悪になりかけたところをアルテイラが止める。


「確かに記録は188点だけど、最高点が158点だった年もあるのよ。今年はみんな優秀よ」


 確かに、ここまでの全員が160点を超えている。



 サルキアの番が回ってきた。


「それでは、サルキア・ハーヴィーン、前へ」

「はい」


 運動場の中央に立つと、サルキアは両手をあげる。


「わわっ!?」


 エリアーヌが叫ぶ。


 サルキアの両手から二つの大きな玉が浮かんだ。それをお手玉するかのように2回、3回と回す。


「何という制御力だ。あれほどの魔力を……」


 と、賞賛が飛ぶ中、サルキアは二つの玉を一つにしてまず運動場の一角に叩きつけた。更にもう一発の魔力の玉を作り出す。


「まだやるの?」


 という声があがる中、その2発を同時に打ち、縦に3つ並ぶかのように大きな穴を空けた。



「凄い! 私達のと全然違うわ!」


 エリアーヌが快哉の声をあげた。


 当然、教授達も満足そうだが、レイラミールだけ首を傾げている。そのまま、しばらく審議した。



 10分ほどの審議の末に、結果が出る。


 出された点数は97。



「二つで197点! 留学生記録だ!」

「でも、あれで満点じゃないの!?」


 ジオリスとセシエルが「どうして?」という視線を教授席に向けた。そこまでではないが、コスタシュ、ネミリー、エリアーヌも不思議そうだ。



「3発目、途中からずれている……。コントロールを失ったからその分の減点」


 エディスがボソッと言った。サルキアが頷いて頭をかいた。


「そうだな。山の方にも魔力の一部が飛んでいってしまったし」

「余計なことをし過ぎなのよ。見せびらかさずにさっさと打てば満点だったのに」


 エディスの解説を受け、サルキアは苦笑する。


「それなら、エディス姫に模範を見せてほしいものだ、な」


 人差し指でエディスの額を軽く弾く。




 その瞬間。


 ドーンという爆音とともに、裏山から巨大な火の手が上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る