第20話 手紙の差出人

アランがもらったもう一通の手紙には、こう書かれていた。


「不明な点があればいつでもどうぞ♪ 心の友より」


不明点しかない。


さっそくアランが手紙の差出人のいる所へ乗り込むと、当人は広い庭で優雅にアフタヌーンティーの真っ最中だった。


「おい、ウィル。いったいあの手紙はなんだ」


「おや、アラン。いらっしゃい。手紙というのは、舞踏会の招待状のことかい? あれはロザリーの十六歳の誕生祝いさ。仮面舞踏会にしようって提案したのは僕だけど」


「よくそんなふざけた提案をロザリーが承知したな…ってそこじゃない! いや、それも気になるが、どうしてあの子が招待状を届けに来た? おかしいだろ」


「あの子っていうのは、もしかしてエレノアちゃんのこと?」


「それ以外に誰がいる。わざわざおまえの手紙まで持たせて」


勝手に椅子に座ってウィルのことを正面からじろりとにらむと、ウィルは嘘か本当か、とぼけた表情をしてみせた。


「何をそんなに息巻いてるの。行きつけの食堂で最近よく働く子がいるなと思ったから、ちょっと声をかけて舞踏会の準備を手伝ってもらってるだけだよ」


「……本当にそれだけか?」


「うん。そうだけど」


アランはなんとなく腑に落ちなかったが、とりあえず納得することにすると、ウィルはわくわくした様子で話しかけてきた。


「君がパーティー嫌いなのは知ってるけど、今回は参加するよね!」


「断る」


すげなく答えると、ウィルは衝撃を受けていた。


「どうしてだい! ロザリーの、しかも立太子してから初めての公式行事なのに! 花を添えるために僕もいろいろとアイディアを出して趣向をこらしているというのに!!」


「だからだよ。仮装大会なんて絶対に参加しない」


「仮装大会じゃなくて仮面舞踏会!」


「似たようなもんだろ。それに俺が行って話しかけたところで、ロザリーも当日は気忙しいはずだ。ロザリーには手紙を書くから、おまえから渡してくれ」


そう言うと、ウィルは小さなため息をもらした。


「……そんなことを言うんじゃないかと予想はしてたけど、実際に聞くと胸が痛むね」


「どういう意味だ?」


「なんでもないよ。こちらの話さ。あーあ、でもエレノアちゃん、かわいそう」


「どうしてそうなる」


アランが不機嫌な声を出すと、ウィルはアランの反応が気に入ったのか、にやりと笑った。


「エレノアちゃん、よく働いてくれてるから、謝礼とは別にごほうびで舞踏会に連れていってあげたくて。その同伴役を君にお願いしようと思ってたんだけど、そうかぁ。ダメかぁ。あーあ、エレノアちゃん、君に断られたと知ったら悲しむだろーなー」


「ちょっと待て。俺を悪者みたいに言うな。言い出しっぺのおまえが連れていけばいいだろ」


「僕に同伴されたいと願っている女性はごまんといるんだよ? 体がいくつあっても足りないくらいだ」


「たいした自信だな」


「事実だからね」


嫌味を言ったつもりが、ウィルには通じていなかった。


アランは椅子から立ち上がった。


「帰る。長居しすぎた」


「そうかい? もっとゆっくりしてけばいいじゃないか」


「俺は今忙しいんだ」


そう言って歩き出すと、後ろからウィルの声が追いかけてきた。


「論文もいいけど、舞踏会の出席もよろしく。しかめっ面して部屋にこもってばかりじゃ体に悪い。たまには気分転換も必要だよ」


「うるさいっ」


前を向いたまま怒鳴り返すと、ウィルの愉快そうな笑い声が響いた。

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