第19話 招待状

王都に帰ってきて二ヶ月。


秋は深まり、冬の気配がうっすらと近づいてきていた。


デュークが文句を言いつつ頻繁に手伝いに来てくれたおかげで引越しの片づけはあらかた終わり、アランは次に書き物の作業に取り組んでいた。


かつてアランの家庭教師をしてくれていた恩師が、高等学術院の助師に一枠空きがあるので、もし興味があれば応募してみないか、と声をかけてくれたのだ。


応募に際して論文の提出が求められるので、アランは遊学中に訪れた各地の記録やメモを整理し、それに新たな考察を加えて論文の形に仕上げようと日々奮闘していた。


一日ほぼ机に向かって過ごしているのであまり健康的とはいえないが、アランの毎日はそれなりに充実していた。


下書きを読み直しながら、途中の構成を入れ替えるか迷っていると、コンコン、と扉をノックする音がした。


食事の時間だろうかと一瞬思ったが、先ほど遅めの昼食を食べたばかりである。


机に向かったまま返事をすると、グエルが入ってくる気配がした。


「アラン様。王宮からの使者が書状を携えて来ているのですが、直接お渡ししたいと申していまして」


「王宮から?」


アランは顔を上げた。


父のいる本邸ではなく、ここに来た、というのはどうにも妙な感じがした。


「客間で待機していますが、いかがいたしましょう?」


「わかった。行こう」


アランはまくっていたブラウスの袖を直しながら立ち上がった。


「あの、アラン様。使者なのですが」


グエルは言いよどむと、うまい言葉が見つからなかったのか、そのまま口をつぐんでしまった。


「どうしたんだ、グエル?」


「いえ、お会いになればわかるかと……」


グエルの態度に首をかしげつつ、アランは階段を下りて客間に向かった。


そこで待っていたのは。


「突然お訪ねして申し訳ありません。書状を預かってまいりました」


エレノアだった。


アランはぽかんとしたが、エレノアが直立不動のまま書状を差し出しているので、アランはとりあえず受け取った。


書状は二通あった。


その場で開封すると、一通は王宮主催の舞踏会の招待状。


残りのもう一通にも目を通し終えると、アランはエレノアに尋ねた。


「君はこの手紙の内容について知らされているのか?」


「いいえ。アラン様に必ず手渡しするように、とだけ言われました」


「……わかった。このとおり受け取ったから、もう帰って大丈夫だ」


エレノアは小さくうなずくと、頭を下げて客間を出ていった。


見送りに出たグエルが客間に戻ってくると、そわそわした様子でアランに話しかけてきた。


「今の、王都へ帰ってくる途中の屋敷にいた娘ですよね?」


けれどアランは聞いていなかった。


「これから出かける。支度を手伝ってくれ」


そう言うと、舞踏会の招待状はグエルに預け、もう一通は手のひらでくしゃりと握った。

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