第18話 目撃
王宮からの帰路、ウィルは馬車の中でロザモンドから受けた相談について思案していた。
欲にまみれた人間の思考や行動は読み解きやすいのだが、アランという人間はこちらが心配になるくらい淡白な性格をしていた。
そのくせ、こうと決めたらテコでも動かない頑固な一面も持ち合わせているので、下手に探りを入れようものなら、かえって口をきいてくれなくなる可能性がある。
ロザリーもアランもなんて面倒くさいんだと、ウィルはだんだん考えるのが嫌になってきてしまった。
景気づけにどこか寄って帰ろうかと気移りしながら窓の外に目を向けてみると、馬車は繁華街の通りを走っている最中だった。
「シリル、止まってくれ」
ウィルが突然声をあげると、馬車はすぐに速度を落とした。
「いかがされましたか?」
シリルが御者席から尋ねてきた。
「あそこにアランがいる」
アランは昨日二人で訪れた大衆食堂の前に立っていた。
二日連続で行きたくなるほどアランはあの店を気に入ったのだろうか、とウィルは首をひねった。
「声をかけてまいりましょうか?」
シリルが気をきかせたが、ちょうどその時、店の中から店員が出てきて、なにやらアランと話し始めた。
ウィルは好奇心から、このまま様子を見てみようと思った。
「いや、いい。それよりアランに見つからないよう馬車を路肩に寄せてくれ」
「かしこまりました」
シリルは無駄口をたたくことなく、馬車をうまい位置へと移動させた。
あちらからウィルの姿は見えないだろうが、こちらからは二人の様子がうかがえる。
さすがに会話の内容までは聞こえなかったが、アランが話している店員にはウィルも見覚えがあった。
昨日、路地裏でアランを介抱していた少女である。
そういえばあの店員が料理を運んできた時、アランは挙動不審な動きをしていたな、とウィルは思い出した。
店員はほどなくして店内に戻ったが、アランは店には入らず往来に引き返した。
「何をしに行ったんだ、アランは?」
ウィルはますます首をひねった。
「追いかけますか?」
「いや、必要ない。あの方向はたぶん家に帰るだけだろう。こちらも今日はおとなしく帰るとしよう」
シリルに指示を出しながら、ウィルはもう窓の外を見てはいなかった。
あれはきっと何かある。
ウィルの勘がそうささやいていた。
そしてこういう時の勘はよく当たる。
あの少女を調べてみれば、期せずして面白い手札が手に入るかもしれない。
今日は朝から人にペースを乱されがちだったが、ようやくいつもの調子が戻ってきた感じがして、ウィルは一人満足げに笑みを浮かべた。
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