第17話 お断り
アランの行き先は昨日訪れた食堂だった。
往来で馬車を拾って店の前にたどり着くと、まだ時間が早かったのか、店内の照明は消えていて、客の気配もなかった。
出直すかどうか考えていると、裏からちょうどエレノアが出てきた。
目が合うと、エレノアはアランに声をかけてきた。
「開店まで中でお待ちになりますか?」
「いや、大丈夫だ。今日は君に謝りに来ただけだから」
エレノアが怪訝な顔をした。
「昨日は迷惑をかけてしまったから。すまなかった」
そう謝ると、エレノアはさも不思議そうにアランのことを見つめた。
「昨日すでに謝っていただいています。それで十分です。そのために、わざわざいらしてくださったのですか?」
「そうだが……」
「変わった方ですね」
エレノアの言い方は素っ気なかったが、アランに対して怒っているわけではなさそうだった。
そのせいだろうか。
ふと心にきざした思いつきが口をついて出た。
「エレノア、うちで働かないか?」
「あなた様のお宅で、ということですか?」
アランはうなずいた。
「人手が足りないんだ。どうだろうか」
「いえ、結構です」
にこりともせずエレノアは即答した。
それは一瞬の迷いもない、見事な断り方だった。
「その……理由を聞いても? 給料はここで働くよりも少しは優遇できると思うし、君にとってそう悪い話でもないと思うんだが」
「お金の問題ではありません。私が王都に来た理由は人を捜すためです。このお店には大勢の人が毎晩集まりますし、仕事中にそうした人たちの話を聞くこともできます。情報を集めるには都合がいいんです」
エレノアは、仕事がありますので、と言って店内に戻っていった。
アランは、以前エレノアが言ってたことを思い出した。
『私は王都に行って、草の根をかき分けてでもあの兵士の正体をつきとめて捜し出したいんです』
聞いた時はまさかと思ったが、どうやらエレノアは、あの言葉を本気で実行するつもりらしい。
アランはやや呆然と立っていたが、ここへ来た本来の目的は果たしたのだと気を取り直し、帰ることにした。
店から少し離れた場所では、そんなアランの後ろ姿を凝視する人影があったのだが、アランはそのことにまったく気づいていなかった。
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