第21話 取引

ひとしきり声を出して笑った後、ウィルは後ろの植え込みに向かって声をかけた。


「出てきていいよ」


すると、かさりと下草を踏む音がして、エレノアが姿を現した。


アランが来た時、ちょうどエレノアから話を聞いている最中だったのだが、二人を会わせないほうがいいだろうと判断し、とっさにエレノアに隠れてもらったのである。


「私が舞踏会に行くとは存じませんでした」


「とっさの思いつきだったからね。心配しなくても大丈夫だよ。ああ見えて情に厚い男だ。口ではなんだかんだと言いつつ、当日はきちんと君のことをエスコートしてくれるはずさ」


「別に舞踏会に興味はないので、行かなくても私は構いませんが」


「僕は構うんだよ。やっぱり君に手伝ってもらって正解だったな。僕が誘っただけじゃ、きっとアランに断られてただろうから」


「よかったです。約束は覚えてますよね?」


エレノアの視線がウィルにつき刺さった。


「もちろん。僕に協力してアランを舞踏会に連れ出すことに成功したら、王都への不法侵入の件は見逃してあげる」


アランとエレノアが話しているのを見かけた後、エレノアの身辺を調べて手に入れた情報である。


「役人をだまして関所をうまく通り抜けるなんて、見かけによらず意外と大胆なんだね。そそられるな~」


その言葉を平然と聞き流すエレノアに、ウィルはほんの少し表情を改めた。


「エレノアちゃん、この手伝いが終わったら王宮で働いてみる気はない? その鉄面皮、向いてそうだと思うんだよ」


「考えておきます」


にこりともせずエレノアは立ち去っていった。


やれやれ、とウィルは肩をすくめた。


今のところ指示どおりに動いてくれているが、何を考えているのかわからない底知れなさがある。


いったいどんな娘なのか。


興味がないと言えば嘘になるが、さりとて積極的に暴き立てようとするほどの関心はなかった。


ウィルとしては、エレノアに近づいた本来の目的が達せられれば、それで上々なのである。


あとは舞踏会の当日にロザモンドがアランと首尾よく話せるかどうかだ。


ある意味それが一番の難題かもしれないが、さすがにウィルもそこまでは面倒を見きれない。


「お膳立てはしたからな。うまくアランを口説き落とせよ、ロザリー」


そうつぶやくと、ウィルはカップに残っていたぬるい紅茶を一息に飲み干した。

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