第22話 待ち合わせ

舞踏会の当日。


アランは王宮の門前に立っていた。


結局ウィルに押し切られる形でアランは出席を承諾し、会場の前で落ち合う約束をしていた。


入口付近が混雑するのはわかっていたので早めに到着するようにしたのだが、すでに周辺は参列者と馬車の行列でごった返していた。


アランはなるべく目立たない地味なデザインの仮面をつけていたが、いったん外したほうがいいかもしれないと考えた。


ただでさえ人が大勢いるのに、これでは顔の判別ができない。


仮面を留めているリボンに手を回すと、着替えを手伝ってくれたグエルがしっかり結んでくれたのか、結び目が固くてなかなかほどけなかった。


「アラン様?」


呼び声につられて視線を上げたアランは、正面を見て驚いた。


正装したエレノアがすぐ目の前に立っていた。


「アラン様。どうかなさったのですか」


黙っているアランに、エレノアが再び声をかけた。


化粧のせいなのか、いつもはどことなく青白い顔に、ほんのりと血が通って見える。


仮面を外さなくてよかった、とアランは思った。


でなければ間抜け面をさらす羽目になっていたかもしれない。


「そのドレス、ウィルが選んでくれたのか?」


「はい。どうしても自分が選びたいとおっしゃって。こんなにしていただかなくてもいいと何度も申し上げたのですが……」


エレノアが遠い目をした。


二人の間でどんなやり取りがあったのか、アランはなんとなく察した。


きっとしつこいウィルにエレノアが根負けしたのだろう。


大変だったかもしれないが、ウィルの見立てはさすがで、エレノアによく似合っていた。


ドレスは落ち着いた色合いのロングドレスで、スカートの裾がきれいに広がり、首周りや袖口にはレースの刺繍が細やかに施されている。


そろいの意匠の首飾りと耳飾りをつけ、編み込まれた髪にはこれまた花びらのように小さな髪飾りがいくつも散りばめてあった。


飾り立ててはいるが、けばけばしい派手さはなく、上品で繊細な華やかさだ。


ウィルの満足げな様子が思い浮かぶようである。


「そういえばウィルは?」


アランは周囲を見回したが、近くにそれらしき姿は見当たらなかった。


「約束が重なっているからとおっしゃって、私とは別の馬車で先に出発なさいました」


アランはそれ以上尋ねなかった。


ウィルの交遊関係が派手なのは、別に今に始まったことではない。


「そろそろ中に移動しようか」


そう言うと、エレノアは手に持っていた仮面をつけようとしたが、髪型がくずれないように自分で装着するのは大変だろうと気がついた。


「悪い。気がきかなかった」


アランはエレノアの手から仮面を受け取り、背中側に回った。


「申し訳ありません。つけてから出発しようと思っていたのですが」


「どうしてそうしなかったんだ?」


アランは手元に意識を集中させたまま尋ねた。


「ウィリアム様が絶対に仮面は持ったまま行くべきだとおっしゃって。そうすればアラン様がきっと面白いものを見せてくれるはずだからと。どういう意味なんでしょうか?」


「……さぁな。あいつの考えてることは俺にもよくわからん」


そう答えながら、アランはウィルを見つけたら絶対になぐろう、と決めた。


人をおちょくって楽しんでいるとしか思えない。


手間取ったが、アランはどうにかエレノアの仮面をつけ終えた。


「できたぞ。行こうか」


アランが腕を差し出すと、エレノアは一瞬わからなかったようだが、すぐに悟ってアランの腕を取った。


二人で衛兵の立つ門へと進んでいく。


もうすぐ舞踏会が始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る