第45話 ロシュフォールド伯爵

エドモン・ロシュフォールド伯爵――。


商人の息子として生まれ、幼少期より家業の手伝いをしながら、後に奨学金を得て大学で法律を学ぶ。


卒業後は地方の徴税官として王国全土へ赴任し、各地で着実に実績を残す。


その堅実な仕事ぶりが時の高官の目に留まり、中央の行政府に栄転。


異例の大抜擢と評されたが、エドモン・ロシュフォールドの躍進はここからが目覚ましかった。


行政手腕だけでなく時流を読む能力にも長け、レオナール王政末期の混乱のただ中でその辣腕を遺憾なく発揮し、内政の瓦解を防ぐ。


ジェラール王即位後も、その腹心として新政権の確立に貢献。


その功績により、エドモンは一代貴族として伯爵に叙勲された。


王国の長い歴史を紐解いても、個人の実績により爵位を得た人物はほんの数えるほどしか存在しない。


性格は謹厳で華美と豪奢を嫌い、性格と同じくらい角ばった顔立ちのせいか、周囲からは「中身も外見も厳めしい人物」と評されている。


そんな堅物…もとい傑物の父とアランは近頃めっきり疎遠になってしまっているが、決して仲が悪いわけではない、とアラン自身は思っている。


むしろロシュフォールド家の家族関係は総じて良好といえるだろう。


それはひとえに母クロエの朗らかな人柄によるところが大きかったが。


別邸に移り住んでから約三か月。


舞踏会の時にも顔は合わせたが、会話らしい会話はなかった。


今なら父と少しは話し合えるかもしれない。


そんな期待もあり、今回アランは帰ってきたのだった。




家人に総出で出迎えられ、クロエの給仕で遅めの夕食を終えたエドモンは、大晦日の夜にも関わらず、寸暇を惜しむように書斎にこもっていた。


アランが思いきって書斎のドアをノックすると、無愛想な声で「入れ」と返事があった。


ドアを開けて中に入ると、エドモンは机で書き物をしていた。


「父上。少しお話しがしたいのですが」


そう言うと、エドモンはちらりと顔を上げた。

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