第34話 ロザリーの調査結果

ウィルと二人でロザモンドを訪ねた翌日の午後。


アランは書庫で一人作業をしていた。


まだ最後まで調べ終えてはいないが、やはり目録の中の一部の本が歯抜けのように見当たらない。


いったいどうしたことかと考えていると、静かな足音がして、エレノアがやってきた。


「王女様がお呼びです。ご都合がつくようでしたら王女宮までおいでいただきたいとおっしゃっています」


「大丈夫だ。すぐにうかがう」


アランは出口に向かおうとしたが、机に積み上げていた本に肘が当たって雪崩を起こした。


やってしまった、と本を拾っていると、エレノアもかがんで本を拾い始めた。


「ありがとう。助かる」


「いえ。本は適当に重ねてしまって大丈夫ですか?」


エレノアにそう訊かれて、アランはエレノアが抱えていたうちの一冊に目を留めた。


「そのマルニークの『フィンデル地方の風土記』だけこっちに渡してくれるか」


稀覯本なので、落として傷めたりしていないか確認しようと思ったのだが、エレノアはやや困った様子でアランを見返した。


「すみません、どの本でしょうか?」


アランは失言に気づいた。


自分が字を読めるからといって、国中の誰もが字を読めるわけではない。


アランはエレノアが抱えていた本を丸ごと受け取った。


「すまない。重たかっただろ」


「いえ」


いったん本をすべて棚にしまって王女宮へ向かおうとすると、エレノアは書庫が珍しいのか立ち止まったまま周囲に視線をさまよわせていた。


「エレノア?」


声をかけると、エレノアは何事もなかったかのようにアランと一緒に書庫を出たが、アランは先ほどのエレノアの様子が妙に心に残った。




ロザモンドの呼び出しは昨日の件だった。


昨日の今日ですぐに確認してくれたらしい。


「王宮外門で押収された物品のリストを確認してみたが、ここ数年で本は一度も見つかっていない」


それを聞いてアランはとりあえずほっとした。


しかしそうなると、書庫の棚にない本はいったい今どこにあるのだろうか。


ひとまずソロンに状況を報告する必要がありそうだと考えていると、ロザモンドは「ところでウィルは?」とアランに尋ねた。


「今日は見かけてない」


「そうか。どうせアランの所にいるんだろうと思ったんだが」


いつも一緒にいるわけではないのだが、ロザモンドは昔からアランとウィルをひとくくりで認識している節がある。


「ウィルに用事か?」


「火の玉について昨日ウィルが話してただろ? 噂の出どころの目ぼしがついたから、いちおうウィルにも伝えておこうかと」


「わざわざ調べたのか」


アランは驚いた。


眉唾だと言っていたのに、こちらもきちんと調べるところがロザモンドらしい。


「俺にも教えてくれ」


アランの好奇心がうずいた。


怪談話にはさほど興味はないが、怪談話の真相はちょっと気になる。


ロザモンドが話してくれた。


「少し前になるが、遅くまで働いていた役人が帰る時に書庫のすぐそばを横切ったそうだ。その時、窓から書庫の中に明かりが見えて、慌てて走り出したらしい。巡回中の兵士がそれを見つけて問い質し、書庫まで行って外から様子を隈なく確認している。役人はひどく怯えていたそうだが異常は見当たらず、役人の勘違いとして処理されている」


「……それだけか?」


「そうだ。人騒がせな役人だな」


ロザモンドもややあきれた様子でうなずいた。


噂話の真実とは、大半がそんなものなのかもしれない。


アランは気を取り直すと、これからすぐに学術院を訪れることにした。

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