第24話 ロザリーの書斎にて
侍女に案内されて書斎の間に入ると、ロザリーは机に肘をついて椅子に座ったまま、しばらく無言でこちらを見つめていた。
「どうしたの、ロザリー。黙りこくって」
ウィルが気楽な調子で口を開いたので、アランは肘でウィルの脇腹を軽くごついた。
「すまない、ロザリー。急に押しかけてしまって」
「ねぇ、アラン。なんか僕の時と態度が違くない?」
「うるさい。ちょっと静かにしてろ」
すると、それまで口を閉じていたロザリーが小さく笑い声をもらした。
「久しぶりだな。こうして二人がそろって一緒にいるのを見るのは」
その声音はどことなく嬉しそうで、ロザリーは立ち上がって暖炉前に移動すると、ソファに腰を下ろしてアランたちにも座るよう目線で促した。
「で、ウィルはともかく、アランまで急にやってきてどうしたんだ」
アランは事情をかいつまんで説明し、ロザリーにこう尋ねた。
「書庫で出火したと聞かされていたんだが、話が全部人づてな上に、あやふやな点が多い。ロザリーは何か知っているか?」
「いや。その件は把握していなかった。それよりも宮廷内で火の玉の噂が流れているというのが気になるな」
ロザリーはちょっと渋い顔をした。
「火の玉とか幽霊とか、みんな怖いと言いつつ面白がって噂してるだけだと思うけどね。まぁもし陛下が耳にしたら機嫌を損ねるかもって心配する人間は多そうだけど」
「おい、ウィル。そういう言い方をするな」
アランはロザリーに気を遣ってウィルをたしなめた。
「いいよ、アラン。気にしなくて。本当のことだから。陛下の前でその手の話題は禁忌だと誰もが知ってるだろ」
ロザリーの言葉に、アランはうんともすんとも答えることができなかった。
今から二十年前、先王が魔術や呪法にのめり込み、女祭司パラミアが宮廷を牛耳った。
そのために治世が乱れ、今から十六年前に前王が崩御して今上陛下が即位した際、パラミアを処刑して国中で大粛清を行ったという過去がある。
傾きかけた政情はどうにか持ち直したが、先王に端を発した黒歴史の爪痕は人々の記憶の中でまだ色濃く残っており、王都では特にその傾向が強い。
アラン自身は当時何があったのかはっきり覚えているわけではないが、魔法や心霊の類の話は人前でしてはいけない、と周囲の大人たちに教えられて育ってきている。
が、ウィルはあっけらかんと言った。
「みんな気にしすぎじゃない? 陛下も噂話くらいでいちいち目くじらを立てたりしないでしょ」
「おまえは少しは自分の言動を気にしろ。ロザリーが反応に困るだろ」
「いや、私は時々ウィルの能天気さがうらやましくなる」
そう言うと、ロザリーはアランに顔を向けた。
「私も火の玉の噂が気になってきた。衛兵が常時王宮内を巡回しているから、書庫の近くも通ったはずだ。問題がなかったか後で確認しておこう。わかったら連絡する」
アランは礼を言うと、ウィルと二人で書斎を出た。
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