第33話 幼なじみ
女官に案内されて書斎に入ると、ロザモンドは机に肘をついたまま、しばらく無言でこちらを見つめていた。
「どうしたの、ロザリー。黙りこくって」
「すまない、ロザリー。急に押しかけてしまって」
「アラン。なんか僕の時と態度が違くない?」
「うるさい。ちょっと静かにしてろ」
すると、それまで口を閉じていたロザモンドが小さく笑い声をもらした。
「久しぶりだな。こうして二人がそろって一緒にいるのを見るのは」
その声はどことなく嬉しそうで、ロザモンドは暖炉前のソファに移動すると、腰を下ろしてアランたちにも座るよう目線で促した。
「で、ウィルはともかく、アランまで急にやってきてどうしたんだ」
アランは書庫の状況をかいつまんで説明した。
合間にウィルが火の玉の噂をねじ込んできたが、ロザモンドは全力で無視していた。
「書庫の本が勝手に持ち出されたとしたら見過ごせないな。大事な国の財産だ。問題がなかったかすぐに確認して連絡する」
「ありがとう、ロザリー。助かるよ」
「れ、礼を言う必要なんてない! 当然のことなんだから」
「ロザリー。僕の話についての感想は? なんかないの?」
ロザモンドはウィルに対して半目になったが、それでも律儀に返答した。
「眉唾だとは思うが、王宮内でそんな噂が流れているというのは、たしかにちょっと気になるな。ちょっとだけな」
「それは陛下が耳にしたら機嫌を損ねるかもしれないから?」
「おい、ウィル。そういう言い方をするな」
アランは慌ててウィルをたしなめた。
今から約二十年前、先王が魔術や呪法にのめり込み、女祭司パラミアが宮廷を牛耳っていた。
そのため治世は大いに乱れ、前王が崩御して今上陛下が即位した際、パラミアを処刑し大粛清を行ったという過去がある。
傾きかけた政情はどうにか持ち直したが、黒歴史の記憶は今なお人々の中で色濃く残っており、王都では特にその傾向が強い。
アラン自身は当時のことを直接知っているわけではないのだが、魔法や心霊現象の類の話を人前でしてはいけない、と大人たちに厳しく言われて育ってきている。
だが、ウィルはあっけらかんと言った。
「みんな気にしすぎじゃない? 陛下もいちいち目くじらを立てたりはしないと思うけど」
アランは肘でウィルの脇腹をごついた。
「おまえは少し自分の言動を気にしろ。ロザリーが反応に困るだろ」
「アラン。それこそ気にしなくていいよ。陛下を恐れて言いたいことも言えない風潮になるのはよくないと私も思うし」
ロザモンドは軽くため息をついた。
立場的に仕方がないとはいえ、父親に対する気の使いようは、それこそアランの比ではないだろう。
アランは心の中で一生懸命ロザモンドのことを応援しながら、ウィルと王女宮を後にした。
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