第31話 書庫

王宮の書庫は他の建物群から離れた場所にぽつんと位置し、石造りのさほど目立たない外観とは裏腹に、中に入るとその印象はくつがえされる。


壁一面に書架がずらりと並び、天井画や内装の美しさは宮殿の大広間にも引けを取らない。


アランたち学術院の一行は、書庫の目録と実際の蔵書を照らし合わせ、問題がないかを確認することになっていた。


初日こそ全員が作業に参加したが、アラン以外は聴講や教授の手伝いがあるというので日に日にその人数は減っていき、一週間も経つと書庫にいるのはアランだけ、という状況になってしまった。


それも仕方あるまいとアランは諦め半分で一人黙々と作業を続けていたのだが、ふと途中で首をかしげる羽目になった。


目録には載っているのに、実物の本が棚に見当たらない、という例が散見されるのだ。


書庫管理の役人に外へ運び出した本はあるかと尋ねてみると、書庫の本は持ち出しが禁止されているので、それは絶対にないという。


状況を説明すると、「私も詳しい話は聞かされていない」としどろもどろに答えるばかりで、要領を得ない。


問いつめると、その役人は朝から夕方の定刻まで書庫の入口で見張りをするのが主な仕事で、書庫の中身についてはまったく把握していないのだという。


つまり門番である。


上役には報告しておく、と言われたものの、案件としてたらい回しにされた後、うやむやになってしまいそうな雰囲気が濃厚に漂っていた。


いったい本はどこに消えてしまったのかとアランが書棚の前でひどく考え込んでいると、背後から声がした。


「なんだか思い悩んでいる様子だね」


振り返ると、ウィルがにこやかな顔で立っていた。

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