第30話 ソロン

不思議な路地裏に迷い込んでから一週間後。


ついに論文を完成させたアランは学術院を訪れていた。


事務所の窓口で正本と写しの二部を提出し、恩師にも挨拶していこうと中庭の回廊を歩いているところで、たまたまその後ろ姿を発見した。


「ソロン先生」


アランの呼びかけに、ソロンは足を止めて振り返った。


背はそれほど高くないが、かっちりと頑丈そうな体つきをしていて、太い眉の下では理知的な目が鋭い眼光を放っている。


「アランくんか。ここにいるということは、論文が完成したのか」


「はい。さっき提出してきました」


ソロンは大きくうなずくと、立ち話もなんだということで、そのままソロンの研究室に場所を移すことになった。


学士の少年がお茶を用意してくれ、二人はしばらく互いの近況を話し合っていたが、ソロンはふと何か思いついたような表情を浮かべた。


「王宮から学術院に協力要請があってな。書庫整理のために若手を何人か派遣する予定なんだが、もし都合がつけば君も手伝ってくれないだろうか? 論文の審査はしばらく時間がかかるし、君は王宮についても詳しいだろうから、まさにうってつけだと思うんだが」


論文を提出したばかりなので、することといえば散らかりきった書斎の片づけくらいである。


王宮の書庫の収蔵数は十万冊以上にものぼり、貴重な書物や文献が数多く保管されていると聞く。


アランは一も二もなくソロンの話を了承した。

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