第27話 エスコート

ウィルからロザモンドのエスコートを任されたアランだったが、当初、大広間の入口までつきそった後は中には入らず、すぐにウィルの屋敷へ向かおうと考えていた。


エレノアのことが気になっていたし、主役のロザモンドが姿を現せば、大勢の人間が立ち代わり入れかわり挨拶にやってくるはずなので、自分は自然とお役御免になるだろうと思ったのだ。


庭園を大回りして王宮の中に入り、大広間の扉の手前で組んでいた腕をほどこうとすると、ロザモンドにガシッと腕をつかまれた。


「アラン、頼む。行くな。このままずっと隣にいてくれ。私のことをどうか支えてほしい」


必死の形相で、アランの知っているロザモンドとはどこか様子が違っていた。


「ロザリー? どうしたんだ」


そう尋ねると、ロザモンドは一瞬ためらった後、小声でぼそりとつぶやいた。


「足を…くじいた……」


アランは絶句した。


先ほどエレノアが「そちらの女性が飛び蹴りして助けてくださいました」と言っていたが、まさかその時だろうか。


「無理しないですぐに医官に診せたほうがいい」


アランはそう勧めたが、ロザモンドは首を横に振った。


「いや、このまま行く」


目がすわっている。


こうなるとアランでは止められない。


やはりウィルがこちらに残るべきだったかと思ったが、今さら言ったところでどうしようもない。


後ろの随身たちからは、どうして中に入らず立ち止まっているのかといぶかしむ気配が伝わってくる。


こうなったらもう腹をくくるしかなかった。


「辛くなったら合図を送れよ、ロザリー」


松葉づえに徹するつもりでささやくと、ロザモンドは無言でうなずいた。


腕を組み直して広間の中に入ると、一瞬の静寂の後、ラッパの音と共に王女の到来が高らかに告げられた。


それから後はアランの予想どおり、ロザモンドは終始大勢に囲まれ、息つく暇もなかった。


老貴族にダンスの相手を乞われた時も優雅に一曲踊りきり、相手に対して終始笑みを絶やさなかった。


父のロシュフォールド伯爵もロザモンドに挨拶をしにやってきた。


けれど隣に立っていたアランにはちらりと視線を向けただけで、特に親子の会話を交わすこともなく立ち去っていった。


「話さなくていいのか?」


ロザモンドはそう気にしていたが、アランはこういう時に父と何を話せばいいのか正直よくわからなかった。


しかも仮面。


「俺のことは気にしなくていいよ。それよりそっちの父上は?」


舞踏会が始まってからずっと、アランは国王の姿を見かけていなかった。


「今日はおまえが主役だから衆人の前に姿を出さん、との仰せだ。でもどうだかな。仮面をつけて会場にまぎれ込んでいるかもしれない。気まぐれな方だから」


ロザモンドはぼやいた。


そんなこんなで舞踏会はつつがなく進行し、日付が変わる直前、アランとロザモンドは大広間をどうにか無事に退出した。


扉が閉まった瞬間、アランはほっとして息をついたが、ロザモンドは限界だったのか、よろりと体が傾きかけた。


アランがとっさに横から両腕で支えると、ロザモンドはすぐに背筋を伸ばした。


「大丈夫でございますか?」


後ろに控えていた侍女の一人が心配そうに声をかけると、ロザモンドは力強くうなずいてみせた。


「心配するな、マーサ」


人前では決して弱音を吐かない。


筋金入りの王女っぷりである。


立派ではあるが、足は相当痛んでいるはずだ。


今日はもう無茶するなと言いかけたところで、衛兵がつかつかと廊下の向こうからやってきて、ロザモンドの前で敬礼した。


「殿下。先刻捕らえた男の件で、少し問題が起きております」


アランとロザモンドは互いに顔を見合わせた。

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