第5話 ゲームじゃ強かったが、リアルとなると怖くて使えないスキルもある



「指導者様! 今のは再発動にどれくらい時間がかかりますか!?  」


「ルシルの【スラッシュ】は10秒!  ティナリーの方は…12秒だ!  」


 だからそれまではもうひとつのスキルと通常攻撃だけしか使えない。


「それと、さっきの様な強化技は1人につき2種類ある。そして、それとは別にチャージする事で使える必殺技の様なものもある!  」


「必殺技!?  ティナリーそれがいい!  」


「……すまないが、必殺技はゲージがたまらないと使えない」


「ゲージ?  どうやったら溜まるの?  」


「ティナリーが活躍したら少しずつたまってくぞ」


「活躍…わかった!  ティナリー頑張る!  」


 ティナリーが意気込んでアイちゃんの上に乗っかった。

 ……それなら頑張るのはアイちゃんの方なのでは?


「指導者様、今少し離れた所から機械の音がしました!  敵の増援が来るかもしれません!  」


 ルシルがそう言って、近くにいたセキュリティロボットtypeAに攻撃をした。

 槍装備時の通常攻撃である突きのモーションと同じ動きだ。


「おぉ、やっぱり強いな…思わず『タンクとは…? 』と言いたくなる…」


「申し訳ありません! 指導者様! 倒しきれませんでしたっ! 」


 え…?

 おかしいな…セキュリティロボットtypeAがスキルを使った…?


 セキュリティロボットtypeAがスキルを使うのは[終わりの塔 3階]から先のはずなんだが…


「……どうやらそのセキュリティロボットtypeAには1回だけ敵の攻撃に耐える事のできる機能がついている様だ! だからどんなにルシルが強くても一撃では倒せない様になってるから気にするな! 」


「っ! そんな機能が!? 気づけないとは…私もまだまだの様ですね…!」


 ルシルはそう言ってかなり悔しそうにしている…が、本当に気にしなくていいと思う。


 だってゲーム画面に表示されてるダメージが9999でカンストしてるんだもん…


 通常攻撃なのに。


 攻撃してるのがtypeAだからスキルが発動してしまって倒せてないが、普通なら倒せてる。確実に。


 本当、レベル差があるとはいえ、通常攻撃ですらダメージがカンストしてるのは心強すぎる。


 なんでゲームでは死んだんだ…


 ……いや、ゲームだから死んだのか。


「通常攻撃って威力の数値そんなに高く設定されてないはずだよな…いやー…ルシル本当に強いわ」


 ゲームだった頃のラストアルカディアでは通常攻撃とはスキルやFVスキルを発動してない時にキャラ勝手に攻撃してるものといった認識だった。


 そんなラストアルカディアでの通常攻撃だが普通とは少し違っていて、右手に装備している武器によって属性とモーションが変わるシステムだった。

 それが楽しくて好きなキャラに色んな武器を持たせて楽しんだものだ。


 具体的にどんなものだったのかと言うと、槍装備ルシルの通常攻撃は突属性の突きだが、盾装備ルシルは盾を構えて敵に突っ込んだ後に盾でぶん殴るという打属性となる。そんな感じだ。


 そして、武器種ごとの戦闘面での強さだが、武器を変えてもダメージ量自体はさほど変わらない。

 キャラそれぞれのステータス数値を参照した威力となるからだ。


 じゃあ武器種はなんでもいいのかと言う話になるが、それは違う。

 各キャラのFVフルバーストスキルにはそれぞれ適正武器が設定されているからだ。


 適正武器以外だと、FVスキルの1部効果が発動しなかったり、威力が落ちたりする。


 だから、基本的に装備させるのはそのキャラの適正武器という事になるだろう。


「敵のHPはどっちも残り1割強…ここは全体攻撃だな。ティナリー!  」


「は〜い!  」


 俺は出しっぱなしにしているゲーム画面の下の方にあるティナリーのスキル1に触れた。


「今度のは全体攻撃だ!  さっきみたいに強化するからティナリーがこれだと思う方法で攻撃しろ!  」


「うん!  アイちゃん『薙ぎ払っちゃえ!』」


 ティナリーを抱えたアイちゃんはその声を聞いて右手を振り上げると右から左に大きく振った。


 振った瞬間だけ巨大化したアイちゃんの右腕。

 それによってセキュリティロボットtypeAとtypeRはそれぞれぶっ飛ばされ、大きな音と共に壁に激突。機能を停止した。


 リアルに見るとすごい迫力…


「これで1ウェーブ目終わりだ! 」


「わあぁぁ!!  アイちゃんもお兄ちゃんもすごい!!  」


 興奮した様子のティナリーがアイちゃんの上ではしゃぐ。


「2つ目が全体攻撃と言うからどんな感じかと思って見ていましたが想像以上に強力ですね…」


「他人事の様にしてるがルシルにもさっきのと別にもうひとつ技があるんだぞ」


 俺がそう言うとルシルがキラキラした眼差しでこちらを見た。


「どんなものなのですか?  」


 ルシルのスキル2…ねぇ…えーっと…


 俺はゲーム画面でルシルのスキル2【リベンジスタンス】の詳細を見るためにスキルアイコンを長押しした。


「あー…ルシルのもうひとつの技は敵からのヘイト──って言ってもわからないよな…えーっと、ルシルはタンクだから敵からの[注目]を自分に集めつつ、それによって敵からダメージを受けるとそのダメージに応じて自分の攻撃力をあげるバフ…自己強化を付与できる…そんな感じの技になってるぞ」


 上昇するパーセント数値もそこそこ高く設定されている、けして弱くは無い。

 その証拠にゲームだった頃のチュートリアルでは大活躍してくれた。


 だが、現実になったとなると話は変わってくる。

 ダメージを負わないと効果が活かしきれないこのスキルの使い勝手はあまり良くない。


「味方を守り自身を強化する技ですか…使い所を気をつけないと逆にやられてしまいそうですね」


「そうだな…だから強力でもできれば使いたくない技ではある」


 現在進行形で死亡フラグが完全に折りきれていないルシルだからなおさらにな。


「ルシルはスキルよりもFVフルバースト…必殺技の方が強いから、さっきの技【スラッシュ】以外に使うとしたらまずはそちらになるだろう」


 攻撃力をあげるルシルのスキル2との相性もいいし、あのサウザンドレイン絶対ルシルのFVスキルだ。


「そうなのですか?  」


「あぁ…おっと、2ウェーブ目の敵が来たか…話は後だな」


 2ウェーブ目の敵は1ウェーブ目の敵とは反対側の左奥の方の通路から来た。

 中型のセキュリティロボットtypeRが2体だ。


 そのため弱点は先ほどと変更無しだ。


「さて、これで3ターン目だな…ルシル! 最初にやった【スラッシュ】をもっかいいくぞ!  」


「はい!  」


 俺はルシルのスキル1のアイコンを押した。


 すると、押した瞬間すぐにルシルの槍が光り始めた。


「なるほど…時間が止まってない時に押すとこうなるのか」


「やあ!!  」


 ルシルが声と共に左側のセキュリティロボットtypeRをスラッシュで切り裂いた。


 そして、切り裂かれたセキュリティロボットは綺麗に真っ二つなって機能停止した。


「おぉ…中型も一撃…」


 ほんと強い。

 さすがチュートリアル専用キャラ…


「残り一体もこの調子でサクッといこう!  ティナリー最初にやった方の技発動させるぞ!  」


「わかった〜!  」


 俺はティナリーのスキル2のアイコンを押した。


「『アイちゃん、やっちゃって!』」


 そう言ったティナリーはさっきと同じようにまたアイちゃんの首にぶら下がった。


 そして、さっきと同じ様にアイちゃんがセキュリティロボットtypeRをその大きな体でぶん殴った。


 1ウェーブ目でビームチャージ中の中型の腕をへし折った時にも使用したティナリーのスキル2である【アイちゃんののろいパンチ!  】は闇属性単体攻撃スキルだ。

 そして、その攻撃をあてた敵単体に2ターンの間攻撃力低下中を付与する。


 デバフメインな技なので攻撃の威力は気持ち低めだが、敵が弱いせいでそんなの関係なくゴリ押しができてしまっている。


 いや、変だな。

 未強化レベル1なのにゴリ押し出来てるのはおかしい気がする。


 さっきのtypeAのスキルの件や昇降機でこの段階では解放されてるはずのない階に行ける様になってた事…

 それに1ターン目に行動順ではティナリーの方が先だったはずなのに敵の方が先に動いた事も…何かが違う気がする。


「【アイちゃんののろいパンチ!】一発で残りHP2割切ったか…やっぱり敵の受けるダメージがゲームだった頃より増えてるな…」


 ルシルが強いのはチュートリアルだけのキャラだからと考えると納得できるけど、ティナリーが強いのはほんとに理解できない…


 チュートリアル終わったら真っ先にティナリーのキャラ詳細確認しよう。


「お兄ちゃん、あいつまたビームのチャージしてるよ!  」


「ルシル、とどめ行けるか!?  」


「はい!  」


 俺の支持を受けたルシルがセキュリティロボットtypeRに槍で一突きすると2体目も機能停止した。


「これで2人ともFVフルバーストゲージがたまった…」


〈『初戦闘で勝利しよう!』をクリアしました〉


 3ターン耐えるどころか応援が来る前に勝っちゃったよ…


 戦闘終了後のリザルト画面を見てそう思った。


「あの…指揮官様、その光ってるものはなんですか?  」


「あー!  それティナリーも気になってたー!  」


 そういう2人の目線は俺の目線の先の空中に表示されているゲーム画面を見ていた。


 え…


「2人にもこの画面見えてるのか?  」


「文字は読めませんが画面自体は見えてます、指導者」


「お金の絵と…わかんないやつと…可愛くないヘルメットの絵と…まだいっぱいあるね。お兄ちゃんこれな〜に?  」


 おおぅ…完全に見えてらっしゃる…


 それはこの戦闘でのドロップ品だぞ、ティナリー。

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