第3話 武器は装備しないと意味ないが、この武器は装備させない方がよかったというレアケース

さて、もうすぐ昇降機に着くわけだが…ここでゲームだった頃に『なぜ〈戦乙女の魔槍〉がすぐに回収してはいけない装備だと言われていたのか』について語っておこうと思う。


まず先程手にいれた〈戦乙女の魔槍〉がどういったものなのかと言うと、専用装備の材料となる武器の1つだ。


専用装備は基本的に武器ガチャで手に入れる事が多いが、そのガチャで排出されるのが専用装備作製時に核となる武器であり、この〈戦乙女の魔槍〉も核となる武器─通称"核武器"の1つだった。


専用装備は核武器さえ手に入れば残りの素材は全て素材ダンジョンを周回するだけで簡単に揃う。

そのため、この〈戦乙女の魔槍〉は実質、最序盤で専用装備が1つ手に入るのも同然だった。


しかもこの〈戦乙女の魔槍〉を材料にして作られる専用装備は初期キャラ4人の内、唯一専用武器を抜きにしたキャラ評価が高いキャラでもある。


そのため、ゲームだった頃も超重要アイテムとされていた。


そしてここまで聞くと『すぐに〈戦乙女の魔槍〉を取った方がもう一度来る手間がかからなくていいんじゃないか』と思うかもしれない。


だが、ここでネックになるのが装備変更チュートリアルだ。


なんと、ここですぐに〈戦乙女の魔槍〉拾ってしまうと、装備変更チュートリアル時に全武器の中で1番先頭にある武器が〈戦乙女の魔槍〉になってしまう。

そして、キャラ編成画面で1番先頭に編成されているキャラに強制的に装備させられてしまうのだ。


その1番先頭のキャラというのが何を隠そう今真横にいる白髪美少女ちゃんだ。


名前をルシル。


実は今隣にいる方の白髪美少女は姉で、妹の方とは、ゲームでは塔から帰った後、拠点で上官に『ルシルの妹だ』と紹介されてその時初めて会う事になる。


その妹が初期キャラ4人の内の一人だ。


その子と昇降機降りてすぐに1人、塔の入口にいる2人を合わせた計4人がラストアルカディアの初期キャラメンバーとなるのでプレイヤーにとってはメインストーリーなどで1番馴染みのある4人でもある。


妹の方とはまだ合流してないのでこっちの世界でも同じかどうかはわからない。

だが、宝箱がゲームと全く同じ場所と位置にあったのでたぶん同じだろう。


そして、ゲームだった頃と同じなら、初期キャラ4人中最強で白髪ぺったんこの詰んでる…じゃない、ツンデレな美少女のはずだ。


名前はソレア…だったと思う。


ゲームでは姉を失って落ち込んでいた姿が印象的だったが、あんな風にはしたくないのでルシルをなんとしてでも守らないといけない。


「お、昇降機に着いたな」


「そうですね指導者様…どうやら3階と5階、15階…他にもいくつか止まれる階があるようですがどうされますか? 」


「え? 」


この段階じゃまだ1階にしかいけないはずなんだが…


「ほんとだな…光ってるって事は行けるんだろうな…」


3階にある宝箱だけでも拾ってくか?


この段階で拾えたら絶対強いよなぁ…

でもなぁ…チュートリアル戦闘もまだな無強化レベル1なのにあそこの敵に勝てる気はしないんだよな。


うーん…やめとくのが賢明だな…


「今は1階でいい、おそらく3階の敵にすらまだ勝てないだろうし合流を優先したい」


「わかりました、1階ですね」


俺の言葉を聞いてルシルが[1]と書かれているボタンを押した。

すると、どこかからガコンという音がし、浮遊感を感じた。


見た目がかなり古そうだったから心配してたが無事に動いてくれたようだ。

最初のチュートリアル戦闘飛ばしたからどうなるかと思ってたがどうやら大丈夫らしい。


この塔かなり高さがあるはずだから1階までは少しかかるな。


「なぁ、お前の名前はルシル…で合ってるか? 」


「はい、私の名前はルシルです」


「ソレアという名前の妹がいるか? 」


「はい、いますが…よくわかりましたね。それも未来がわかるというお力ですか? 」


「あぁ、まあ、そうだな…と言ってもそんな大層なものでは無いんだがな」


名前を覚えていたのは、死亡シーンが当時ストーリー見て衝撃的だったからという理由だし。


だからルシルとソレアは何とか顔と名前が一致するが、他のキャラは現状顔は出てきても名前はさっぱりというお粗末さだ。


あまり記憶をてにしない方がいいだろう。

当てにしすぎていたらどこかで致命的な失敗をしそうだ。


「だとしても指導者様のそのお力はすごいと思います! 」


ルシルがそう言ってキラキラと見つめてくる。


あれ、この子こんなキャラだっけ…?

もっとこう…大人というか…真面目というか…そんな感じの性格じゃなかったっけ。


俺がその眼差しに耐えきれなくなり、ルシルにさらなる説明をしようとした所でチーンという音が鳴り、昇降機が止まった。


どうやら1階に着いてしまったようだ。


昇降機のドアが自動で開くとそこには1階のロビー…ではなく、ドアいっぱいにみっちりと隙間なく黒い何かが塞いでおり、その何かについた大きな1つの目がギョロリとこちらを見た。


「うお!? 」


「ヒッ! 」


ルシルは可愛らしい悲鳴とは裏腹に、先ほど渡した〈戦乙女の魔槍〉を構えて臨戦態勢をとっている。


「ちょ、攻撃は待っ──」


〈武器を装備させよう! 〉


1つ目のバケモノを見てここでのイベントを思い出した俺がルシルを止めようと声をかけていると、頭の中に機械的な声が響いた。


「は? 」


びっくりして周囲を見渡すと、どうやら俺以外の時間が止まっている様だ。

白と黒だけのモノクロな世界でルシルが石のように硬い。


これは…何が起こっている?


〈武器を装備させよう! 〉


戸惑う俺の頭に再び先ほどの機械的な声が響いた。


あぁ! こ、これ!

さっき最上階の部屋をすぐ出たせいで戦闘が起こらず発生しなかった、チュートリアルだ!!?


本来なら、戦闘チュートリアルも兼ねた戦闘の後にそのステージで装備がドロップしていたらそこで起こる。

か、もしくは宝箱から〈戦乙女の魔槍〉を入手していたらその時に起こるか…


さっき〈戦乙女の魔槍〉拾った時に起こらなかったから、現実になった影響でチュートリアルは無くなったんだとばかり思ってたのに…


どんなタイミングだよ!?


キャラが武器をかまえて戦闘に移ろうとするのがチュートリアル開始のフラグだったとかか?

だとしても起こるチュートリアルはバトルチュートリアルであるはずだろう!?


なんで装備チュートリアル!?


というか、冷静になって目の前の目玉の化け物見てみると見覚えというか心当たりがある。

この目玉は敵じゃない。


確かこれは、ここで合流する予定のキャラが暇を持て余して仕掛けたイタズラだったはず…


ほんとチュートリアル起こるタイミングよ…


「わけわからないが…このままじゃこのエレベーターから出れないし、音声通りにチュートリアルを──って、あれ? 」


装備させよう! はいいが、どうやって装備させるんだ?


ここにはタップする画面なんて無い。


時間が止まってるせいで、当のルシルも石のように硬いから手を動かして装備させられたりもしなさそうだ。

というか、今普通にさっき渡した〈戦乙女の魔槍〉を構えてるんだが…まさか装備判定になってないのか?


俺がそう思って途方に暮れていると目の前にゲームの時と同じ画面が出てきた。


「うお!? どういう仕組みだ!? 浮いてるし…着いてくる…? 」


目の前に突然現れたゲームだった頃と同じグラフィックのUIは俺の目線の先の何も無い空中に表示されている。


そのメニューの項目のほとんどがグレーアウトしていて選択できないが、キャラクター一覧のみ文字が白くなっており選択出来るようだ。


「【キャラクター】…【ルシル】…【武器1】…【SSR 戦乙女の魔槍】…これでいいのか? 」


装備させる武器を選択すると『装備させますか?』という問いがポップアップで出てきた。


それに【はい】を選ぶとルシルの攻撃力と素早さ、防御力の所の数値の右に『+15』『+8』『+11』という表示が数秒だけ表示され、ルシルのステータス数値が上昇した事がわかった。


「これで装備できた…のか」


だとしたら、これまではどういう扱いだったんだろうか…もしかしてシステム的には俺の持ち物のままで、ただルシルに荷物持ちさせてただけ…とかそういう…


女の子に荷物持ちさせるとかどんなクズ男だよ。


いや、考えるのはよそう…


これから気をつければいいんだしな。


【×閉じる】っと!


〈『キャラクターに武器を装備させよう! 』をクリアしました〉


「お、無事クリアできたな」


頭にさっきと同じ機械的な声が響くと、グレーアウトしたままでまだ開く事ができない掲示板の様なマークのアイコンの右上に小さな赤色ビックリマークがついた。


「あー…リリース記念とかでよくある初心者クエストだったのか…なるほどな」


という事は全部クリアすれば、クエスト報酬でいくらかはガチャれそうだな。 楽しみにしておこう…


ところでこの停止した時間はどうやったら動き出すんだ?

この画面を消したら戻るのか?

ずっと視界にゲーム画面あるのは普通に邪魔なんだが。


俺は消えてくれる事を願って、目の前の半透明なゲーム画面に向かって『閉じろ』と念じた。


するとゲーム画面が消えて世界に色と音が戻った。


「おお、戻って来た…」


もう一度ゲーム画面開くにはどうしたいいんだ?


「うーん…」


念じたら閉じたし、同じ様に念じたら開くか?


『開け』


〈今開くことはできません〉


「あぁ? 」


あぁ、そういえばゲームだった頃と照らし合わせると今ってメインストーリーの真っ最中か。

ゲームだった頃、バトル開始を押してそのステージをクリアするまでの間、キャラ編成いじれないのと同じ感じだろうか。


後でこの塔から出た後に開けるか試してみよう。


「あの、指導者様…何やら思案中の所申し訳ありませんが攻撃許可をいただけないでしょうか? 」


ルシルがおずおずとそう言った。


あぁ、そういえば主人公が許可を出してからじゃないと戦闘出来ない決まりだったっけ。


そのせいでこの塔の最上階で本来あるはずだった初戦では戸惑う主人公が戦闘許可を出すまで反撃出来なくて、大怪我を負うというストーリーだったはず。

姉がその時の怪我が原因で死んだもんだからソレアがしばらく主人公を睨んでたっけ。


まあ、回避したからもう関係ないがな。


「指導者様…? 」


おっと、ルシルに返事をしないとだな。


「待て、それはアイちゃんと言って味方だから大丈夫だ」


「アイ…"ちゃん"? 」


ルシルが戸惑った様な声で大きな目玉の化け物を見た。


戸惑う気持ちは大いに共感するところではある。

だが思い出した今となっては、アイちゃんはアイちゃんだとも思うから俺はないも言えないぞ。


人の慣れってすごい。

この化け物をそんな名前で呼んでも違和感が無くなるんだから。


「アイちゃんがいるなら近くにティナリーもいるはずだが…どこだ? 」


俺は思い出したばかりの名前を口にしつつ隙間からどうにか見えたりしないものかと目をこらした。


うーん…

昇降機唯一の出口を影の化け物であるアイちゃんが塞いでいるせいで見通しが悪くてさっぱり見えんな。


「アイちゃん、お前のご主人様の所に案内してくれないか? 」


「…その子、言葉通じるんですね」


ルシルがそう言ってキラキラと尊敬の目で見てきているがちょっと待って欲しい。


「いや、通じるかは俺にもわからん」


「え…」


言って聞いてくれるのかわからないが、どいてもらわないと身動き取れないからな。


「さっきも言おうと思ってたが、俺の力はそんな大層なもんじゃない…現に昇降機のドアが開いてすぐのアイちゃんドアップには気づけなかったしな」


まあ、ドアップ見て思い出しはしたんだが。


ティナリーは初期キャラ4人のうちの一人で、可愛いロリっ子なため人気のキャラだ。


けど、通常ティナリーは弱いんだよなぁ…


その代わりなのか知らないが、季節限定ティナリーはハロウィン限定を筆頭にどの限定もくそ強かったけどな。

ティナリーはデバッファーキャラランキングや総合のティア表で上位常連なキャラだ。

いつどこを見ても何かしらの限定ティナリーが上位にいた記憶がある。


「つまんな〜い! もっとびっくりすると思ったのに〜! 」


おぉ…CV.赤坂芽衣のロリっ子ボイス!


まさか生で聞ける日が来るとは…


「これでも驚いたぞ? 」


このイベントの事を忘れてたからな。


というかチュートリアルはルシル死亡が衝撃的すぎた上、スキップ不可なルシルの死亡シーンムービー以外は何回も見るのがだるくて全スキップしてた。


だからパッと言われて思い出せるのってルシルの死亡シーンだけだ。


まあ、リセマラで何回も死亡シーン見せられてインプットされてたおかげでさっきルシルの顔みてこの世界がラストアルカディアだって気づけたんだけどな。


「ところで良かったらアイちゃんをドアから移動させてくれないか? 早くしないと敵が来る」


「ちぇー…」


ティナリーは渋々といった様子で唇をとがらせつつもアイちゃんを下がらせてくれた。


「お兄さんなんでティナリーの事知ってるの? 」


「おにっ…!? 無礼ですよ!! 『指導者様』ときちんと呼ぶべきです! 」


「え〜ヤダ」


ティナリーの見た目は金色の長い髪をツーサイドアップにしてゴスロリ風の黒と紫のドレスにアイちゃんの目玉がモチーフの髪飾りをつけている。


年齢は10歳くらいだろうか。


アイちゃんの方は大きなひとつ目に大きな口…そしてそれらが大きさの割に小さく感じるほど大きな体は全身が黒いモヤの様な何かで覆われているのが特徴だ。


他の人からは影の化け物などと呼ばれる事もあり、謎の生物だとキャラ説明に書いてあった…気がする。

二足歩行しているが、見た目的にも大きさ的にも人には見えない。


耳は見当たらないが声は聞こえている様子だ。


「今から数分先の未来のティナリーが俺に説明してくれたからな」


「未来のティナリー? 」


「あぁ…まあ、ちょっとした未来予知ができるとでも思っていてくれたらそれでいい」


ゲームとか何とか説明しても理解されないだろうしする気もない。


「未来予知!? お兄さんすご〜い! だからさっきあんまりびっくりしてなかったんだ! 」


「いや、さっきのは知らなくて普通にびっくりしてたぞ? 」


元々感情が顔に出にくいタイプなだけだな。


「えぇ〜…」


「アイちゃん見た瞬間に思い出したから他の人よりびっくりできなかったかもしれんが、これでも結構びっくりしたんだぞ」


いや、ほんとに。

アイちゃん見た目は普通にただのバケモノだから心臓が飛び出るかと思ったくらいにはびっくりした。


「思い出した? お兄さんティナリーのこと忘れてたの? 」


「他のことが衝撃的すぎてな」


「え〜、ひどい! 」


可愛いロリっ子ボイスが返ってくるのが嬉しくてついつい話し込んでいると急に警報が鳴り響いた。


「おっと、来たか…」


「指導者様! まさかこれが!? 」


「あぁ、おそらくな…だから今の内に戦闘許可を出しておく。各自、自分の身の安全が脅かされると思ったら迷わず敵を攻撃、殲滅しろ! 」


「はい! 」


「は〜い」


3ターン経過したらまだ合流できてない仲間2人が異変に気づいて、援軍に来てくれるはずだ。


だから、それまでなるべく被害が出ないようにするのが目標だ。



^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─

お読み下さりありがとうございます!


2023/12/02

言い回しなどを修正しました

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