第2話 攻略において地雷がある事は珍しくないが、スマホのソシャゲでここまでの地雷は後にも先にももう無いだろうと思う

 改めていうが、この世界は『ラストアルカディア』と言うタイトルのスマートフォン向けソーシャルゲームの世界だ。


 そのゲーム内容を一言で表すとキャラ育成を楽しむ"ロールプレイングゲーム"…つまりはRPG。

 ガチャを引き強いキャラや武器を手に入れ、ダンジョンなどのステージを周回して育成素材を集め、キャラを強化してストーリーを進める。


 そんな感じのよくあるゲーム。


 ゲームを始めてからガチャを引けるようになるまでが最初は10分、2回目以降はスキップすれば1周3分程度。


 アプリをわざわざアンインストールしなくてもタイトル画面でデータを削除する事でリセマラ出来たので良心的な部類だった…と思う。

 ちょっと記憶があやふやだが間違ってはいないはずだ。


 そして確率も最高レアリティが3%だったはずなので、ちまたによくある最高レアリティの排出確率が1%を切っているゲーム等に比べたら確率は十分高いと言えるだろう。


 その代わり、同じキャラを何人も重ねて覚醒させ、星をあげる事が必須級に必要ではあった。が、そんなのは他のゲームでもだいたい同じだ。


 じゃあなんで半年でやめたのかと言われれば、なんとこのゲーム…専用装備ガチャもあり、ある程度先に進むと各キャラ専用武器と合わせて専用防具まで必要な上にアーティファクトとかいうアクセサリー枠の専用装備のガチャまであるのだ。


 俺はそのアーティファクトガチャで大爆死をし、コア厳選でもゴミばかりが続き、キャラを覚醒させるのための素材のひとつを集めるためのリタマラ──リタイアマラソンでも欲しい素材が全然出てくれず…


 そんな事が続いていた時に、ちょうど仕事やらで忙しくなった事でポッキリと心が折れてゲームをやめたのだ。


 ゲーマーじゃない人のために説明しておくとリタマラってのはリタイアマラソンの略。


 日ごとや週ごとでクリアできる回数が決まっているのに、  そこでしか欲しい素材が落ちない…などの理由から、クリア報酬が確率で変化するタイプのステージで欲しい素材が落ちるドロップパターンがくるまでリタイアとバトル開始を延々と繰り返すというものだ。


 狙いのアイテムが出なければリタイアするので、当然キャラへの経験値やゴールドは一つも増えない。

 その上、ゲームにもよるが、スタミナはリタイアする度に1ずつ減っていく。


 つまりリタマラとは、その素材が落ちないともう他に何も出ないという所まで来た1部のプレイヤーが虚無感と戦いながらそれでも誰よりも早く強くなりたくてやる事だ。


 ゲーム開始時の無料ガチャで欲しいキャラが出るまでリセットを繰り返すリセマラ(リセットマラソン)と同じく、アウトなのかセーフなのかが度々議論の対象になっているその行為は、ラストアルカディアでは普通に攻略法として確立していた。


 暗黙の了解というやつだ。


 公式が『推奨はして無いけどやるなら止めはしないよ』と言った様なスタンスだったのも大きいのだろう。


 さて、ここで現実に戻ろう。


「問題はここがどこまでゲームと同じかという点…」


 当時はゲームだったから気軽にリセットできたが、リアルな世界になった今、それはできないだろう。

 だからどう行動するかは自分の死に直結する。


 そしてそれと別で問題もある。


 この先どう考えてもドロップ確率が超低確率なとある育成アイテムが手に入らないと詰む場面が出てくるのだ。

 リタマラしてた原因のその素材が必要になるのはまだまだ先だが…それ以外にも必須なものはたくさんある。


 ゲームでは、運が悪くてもこっちの準備が整うまでいくらでも時間があったが現実になったと考えると敵が待ってくれるとは思えない。


 ……うん。

 今ここであれこれ考えてもしょうがないな。


 実際にその時が来るまでにいい案が思いつく事を祈っとこう。


 未来の俺よ、ガンバレ。


「そうと決まればとりあえず、目先の危険を何とかしないといけないな」


 俺達2人は今、最上階だというさっきの部屋を出て、昇降機があるというこの階の北へと歩いている。


 長い間、仮死状態だったらしいのにも関わらず、特に違和感を感じない。

 転生特典的なやつなのだろうか…

 なんにせよありがたい事だ。


 そんな事を考えながら黙々と歩いていると、隣にいる少女がこちらをじっと見ている事に気がついた。


「なんだ? 」


「いえ、ただ先程記憶が無いご様子だったのに、迷うことなく先へ進まれているので、不思議に思いまして…」


「あぁ、その事か…何となくどう行ったら出られるかがわかるだけだ。そちらの事情はまだあまりわかっていないが、とりあえずこの塔からは出るだろう? 」


 このマップはリセマラで散々やったからわかる。

 最初のステージだからシンプルなマップだしな。


「はい、昇降機を降りた先と塔の入口にそれぞれ仲間が安全確保して待ってくれているはずですので…」


「わかった」


 昇降機降りた先と…塔の入口に…仲間…?


 ラストアルカディアの戦闘編成画面は最大4人。

 サポートキャラも別枠であったが、この塔から脱出した後じゃないと枠が解放されなかったはずだから今はいいだろう。

 パーティ4人の内、1人は今隣にいる子として残りは3人か…


 あー…だんだん思い出してきた…


 確か、本来なら最上階のさっき目が覚めた部屋で、主人公がうだうだしてる内に結構時間がかかる。

 そして、よくやく部屋を出たと思ったら暴走したセキュリティロボットに襲われる。

 その戦闘で結構な重症を負った少女を心配して…主人公が謝って…その流れで名前を聞いて、お互いに自己紹介して、ちょっと仲良くなるんだ。


 それで、さっき俺も聞いた『はじまりの地』とか『終わりの塔』とかのあれこれを説明してもらう。

 ここは確かアニメーションだったからリセマラ中はずっとスキップしてた。


「で、その話の途中…昇降機を降りた所で敵に襲われて…昇降機降りた先で合流する仲間と2キャラで戦う…んだったか? 」


 結構前の事でも案外思い出せるもんだな。


 でもその戦闘ってどうなって勝つんだったっけな。

 チュートリアルだし何とか無事に勝つはずだけど、その戦闘で少女がさらに怪我を負って…それを主人公が心配したら『道具の心配するなんて変わった指導者様ですね』って言ってくるんだ。

 それは何となく覚えてる。


 そこでちょっとだけ喧嘩になりかけるけど主人公が『ほかは知らないけど俺は人を道具扱いする様な人でなしには慣れそうにない』って言って…それでその場は落ち着いてたはず。


「肝心な所が思い出せない…」


 その後は…えーっと…


 あ、そうだ!


 最初に会った白髪美少女ちゃんが実はこの任務中だけの臨時メンバーだって事がわかったり…

 臨時メンバーだから拠点に帰ったらお別れだって言われて、記憶喪失な主人公が初めて会った仲間である白髪美少女ちゃんと何となく別れたくなくて自分の仲間に誘ったり…

 白髪美少女ちゃんがその誘いを受け入れたのもつかの間、その白髪美少女ちゃんが塔の入口であるチュートリアル最後のボス戦闘で死んでしまったり…


 うん。


 この白髪美少女ちゃんをなんとしてでも死なせないようにしよう。


 チュートリアルでしか出てこないと言うのもあって、そこそこ強いスキル持ってたはずだしチュートリアル後も仲間に残っててくれたら心強いだろう。


 そのためにはまずはある程度強くなっとかないといけないな。


 確かラストアルカディアの主人公は、適合者であり戦闘員であるサクリファイス達を指揮と援護をしつつ、より良い未来へと導く事のできる力を持っている…とか、そんな設定だった気がする。 たぶん。


 主人公の役割にも何か名前があった気がするけど思い出せないな…


 なんか聞き馴染みが無い単語だったような…

 ブリーダーじゃなくてなんだっけ。

 まあいいや。

 そのうちわかるだろ。


 そんな事を考えながら先を進んでいるとふと見覚えのある分かれ道が目に入った。


 ここは確か…


「なあ、少し寄り道していいか? 」


「……少しなら可能だと思いますが、下の階で安全確保をしている仲間が心配ですので時間はかけられません」


「わかった…なら、なるべく手早く済ませよう」


 今目の前にあるこの分かれ道をまっすぐ行くと昇降機の方へ出る。

 だが、ここであえて出口では無い右の方に曲がるとゲームだった時は宝箱があった。


 そして、その中にはとある装備が入っている。


 ゲーム時代に物議を醸し、『すぐに取らない方がいい』という結論を出された装備だ。

 そんな問題のある装備ではあるが、ステージを選択することで簡単にやり直せた当時と違って、またここまで取りに来れるかわからない。


 かなり重要な装備だし、ここで回収しておかない手は無い。


 宝箱よ、ちゃんと存在しててくれよ…!


 願いつつ右へ曲って少し歩くとゲームだった頃の記憶と同じ場所に宝箱があった。


「これは[不思議な宝箱(金)]!? 」


「やっぱりあったか」


 よかった…


 俺は宝箱へ駆け寄ると、ドキドキする気持ちを落ち着けるように深く息を吐いてから宝箱を開けた。


〈 SSR 戦乙女の魔槍×1 を手にいれた〉


「っ!? 」


 ゲームだった頃にはUIに文章という形で知らされていた情報が頭の中に直接音声という形で突然叩き込まれ、びっくりして槍を落としそうになった。


「指導者様? 大丈夫ですか!? 」


「あぁ、驚かせてすまない…突然頭の中に声が響いたからびっくりしてな…」


「頭の中に声…ですか? 」


「あぁ、この槍は〈戦乙女の魔槍〉と言う装備らしい」


「っ! それは本当ですか!? 」


 少女が驚くのも無理は無い。

 この魔槍はこの少女にとってとても重要なものだからだ。


「本当だ…この後昇降機を使って降りて仲間の一人とおぼしき人物と合流した後、敵と戦闘になるみたいだからこの槍は君が使うといいだろう」


 俺はそう言って少女に〈戦乙女の魔槍〉を手渡した。


 すると、少女はその槍を受け取った後に軽く降り、その使い心地確かめると、俺をじっと見てきた。


「…指導者様は未来がわかるのですか? 」


「断片的にだがな」


「それはすごいです! それが指導者様の固有スキルなのですか? 」


 固有スキル?

 そんなのゲームにあったか?


 あぁ、あれかな…キャラスキル。

 ラストアルカディアの主人公にも不思議な力があるって設定だった気がする。


「それはわからんな…断片的な未来はわかっても目覚める前の過去の事は何も覚えてないのでな」


 寝落ちしてから、この塔の最上階で眠る事になるまでになにかあっているはずだ。

 手の甲に覚えのない傷痕があるからな。


「そうですか…」


「わからない事が多いのでいろいろ話は聞きたいが、それは安全な場所についてからにしようと思う。だから昇降機へと急ごう! 」


「はい! 」


 俺達は宝箱の中に取り残しが無いことを確認すると、来た道を戻って昇降機へと向かうために歩き出した。



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 お読み下さりありがとうございます!


 2023/12/04

 言い回しなどを修正しました

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