第五章 お師匠の家で(2)

 居間に入って一番最初に目につくのは、奥の壁一面を占領している、床から天井まで届く大きな本棚だ。本がぎっしりとつめ込まれている。そしてそこからあふれ出すように、居間の床にもあちこちに無造作に積み上げられた本の山。


 その真ん中に、テーブルとソファーが置かれていて、お師匠はそこに座っていた。読んでいた本から顔を上げて、白髪交じりの金髪をばさりと振る。青い瞳がじろりとこちらを見た。


「遅かったね。待ちくたびれたよ」


「すみません、お師匠。ここ数日お客さんが増えて、時間どおりに店を閉められなかったんです」


 お師匠は、興味なさげに、ふん、と鼻を鳴らした。


「そっちの事情はどうでもいいよ。私はもう腹がぺこぺこだ。さっさと料理をよそってきておくれ」


「はい。――あ、その前に紹介しますね。あたしの幼なじみのルチルカルツ・シアです。今うちに泊まってるんです」


「はじめまして。ルチルと呼んでください」


 にこりと微笑むシアを、お師匠はまじまじと目を見開いて見ている。


「リューリアの幼なじみだって? ってことはあんた、まさか〈神々のめぐ〉なのかい?」


「はい、そうです」


 シアがうなずくと、お師匠の瞳が興奮で爛々と輝いた。


「こりゃあ驚いた。〈神々の愛し児〉に会うのは、赤ん坊のリューリアを引き取りに来た夫婦以来だから……もう十五年ぶりか。よく来たね。歓迎するよ。ささ、お座り」


 お師匠は、自分の向かい側にあるソファーを手で示した。シアがお礼を言ってソファーに座り、パンの皿をテーブルに置く。


「名乗りが遅れたね。私はイァルナだ。この町で魔術師をやっている」


「お聞きしています。ルリ……リューリアがお世話になっているとか」


「そこは利害の一致ってやつさ。リューリアが一人前の魔術師になるのは私も助かるからね。町のことはリューリアに任せて、私は研究に専念できる」


 お師匠がシアの方に身を乗り出す。


「それよりもさ、あんたが〈神々の愛し児〉だっていうなら、訊きたいことがあるんだ。四ヶ月くらい前にカリューラの近くで魔獣が出たって話を聞いたけど、何か知ってるかい?」


「あの辺りはわたしの里の管轄ではないので詳しいことは知りませんが、簡単な話なら聞いています。何でも……」


 話し込み始めたシアとお師匠の邪魔をしないように、あたしは潜めた声でラピスに言った。


「台所に行くからパンの皿持って」


 ラピスがパンの皿を取ると、気づいたシアがこっちに視線を向けた。


「あ、それはわたしが――」


「いいのいいの。シアはここでお師匠と話してて。料理の準備は、あたしとラピスでするから」


 立ち上がろうとしたシアを抑えて、ラピスと台所に向かう。


 他人の家ながらすっかり使い慣れた台所に立って、チバル羊のモツ煮が入った鍋から一食分を椀によそう。この料理はお師匠の大好物で、あたしがお師匠に魔術の授業を受けに来る時は、いつも差し入れに持ってくる。


 残りのモツ煮が入った鍋は、蓋をして冷蔵庫にしまう。


 ちなみに冷蔵庫のような魔道具は、魔力をこめた宝石と魔法陣を刻んだ素材で作る物で、かなり高価だ。一般庶民が気軽に買えるような物ではないので、あたしの家にはない。


 お師匠は自分で作ってるから、買うよりはお金がかかってないはずだけど、宝石が必要だし、他の素材もかなり質が良い物を使っているそうだから、やっぱり庶民にはそうそう手を出せる物じゃない。


 これまた町長さんから聞いた話だけど、お師匠はどこかに土地を持っていて、そこからの収入でかなりのお金持ちなんだとか。それを聞いた時には色々と納得したものだ。


 火魔法で椀の中のモツ煮の温度を上げて熱々にしたら、お茶の準備に移る。


 お師匠はお茶にはうるさくて、高級な茶葉を使っている。

 お茶の淹れ方にもこだわりがあって、たとえば火魔法で沸騰させたお湯を使うのはだめだと言う。だから、かまどの火で時間をかけて水を沸騰させる。

 その水も、裏庭にある井戸からくみ立てでないといけないから、ラピスに言って、水をくんでこさせる。いつものことなので、ラピスは素直に従った。


 ラピスがくんできた水を清潔な目の細かい布でこしてヤカンに入れる。ヤカンを火にかけてお湯が沸くと、お師匠に指導されたとおりティーポットと陶器製のティーカップをお湯で温める。ティーポットに四人分の茶葉を入れて高い位置からお湯を注ぎ、蓋をして蒸らす。

 台所に常備されている砂時計を引っくり返して、時間を計る。砂時計の砂が全部下に落ちたら、茶こしでこしながら、四つのティーカップにお茶を注ぐ。


 モツ煮も熱すぎずぬるすぎないちょうどいい温度になっているのを確かめて、お盆に乗せる。パンの皿から丸パンを二つ取って、小皿に乗せる。あとは椀にスプーンを添えて終了だ。残ったパンは布をかぶせて冷蔵庫にしまった。


 一人分の食事と四人分のお茶を盆に乗せて、居間に戻る。


「そりゃあね、自分にはできないこともあるって認めるのも大切ではあるさ。だけど、魔術は日々進歩してるんだ。十年前できなかったけど今ではできるようになってることなんて、いくらでもある。最初はなっから諦めて努力もしないなんて、魔術師の名折れってもんだよ」


 熱弁しているお師匠の前に、お盆を置く。


「お話し中失礼します、お師匠。食事をどうぞ」


 湯気の立つチバル羊のモツ煮を前にして、お師匠の顔が少し緩んだ。さっそくスプーンに手を伸ばし、モツ煮をすくって口に入れる。


「ああ、おいしいねえ。やっぱりモツ煮はチバル羊に限るよ。特にあんたの父さんが作ったのは最高だ。いくら食べても飽きないよ」


 シアと会えて話せたのが嬉しいのか、今日のお師匠は上機嫌だ。


 あたしはシアの隣に座ってティーカップを一つ取り、お茶を飲む。高級な茶葉を使って丁寧に淹れただけあって、おいしい。

 お茶の味を堪能していると、シアがそっとささやきかけてきた。


「イァルナさんは、ウルファンさんのこと、特に悪く思ってはいないのね」


「ああ、うん。お師匠の方には父さんを嫌う理由ないからね。父さんに嫌われてるのは知ってるみたいだけど、お師匠、そういうの気にしない人だから」


 あたしはひそひそとささやき返した。


 そう、父さんとお師匠の間に確執があるって言っても、それは父さんからの一方通行みたいなものなんだ。お師匠の方にはこだわりはない。だから、あたしを弟子にするのも嫌がらず受け入れてくれた。


 もっともその裏には、あたしが魔術師として仕事できるようになれば自分が楽になる、とか、あたしがシアの里で学んだことを知りたい、とか、そういう思惑があったようだけど、何にせよ弟子にしてくれたことには感謝している。


 魔術の基本はシアの里でレティ母様とヨルダ父様に教わったけど、魔法陣みたいな応用の部分を教えてくれたのはお師匠だ。


 まあ、ラピスが生まれてから数年は、『赤ん坊を連れてうちに来るのはやめとくれ。うるさくて気が散って仕様がない』って言われて、魔術の授業受けられなくて、ちゃんと弟子って言えるようになったのは、ここ一年半くらいだけど。


 隣に座ってお茶を飲んでいたラピスが立ち上がる気配に、あたしは現在に意識を戻した。


「俺、裏庭に行ってる」


 そう言い残してラピスは居間を出ていく。いつものことなので、あたしは特に何も言わずにその背を見送った。


 シアはお師匠の話に相槌を打っている。


「魔術師一族ってのはどこも困ったもんさ。研究内容やその成果を一族外に隠して、魔術の進歩を妨げてる。あいつらが広く情報を共有するようになれば、魔術の発展は目をみはるくらい速くなるだろうに」


「イァルナさんは、そういうことがご不満で家を出られたんですか?」


 シアが単刀直入に訊くから、あたしはぎょっとしてしまった。


「ちょ、ちょっと、シア……」


 あたしはおろおろとシアとお師匠を交互に見た。


 お師匠は食事の手を止めてじっとシアを見つめていたけど、少しして、ははっ、と笑った。


「随分ずばっと訊くじゃないか」


「お気に障ったならすみません。ただ……わたしの一族も一種の魔術師一族ですから、家を出る、一族と縁を切る、ということの重みはわかっているつもりです」


「それで、私の選択が気に入らないってかい?」


 シアはわずかに首を傾けた。


「気に入らないというわけでは……非難したいのではありません。ただ……そうですね、わたしは知りたいんだと思います。人がどうしてそのような選択に至るのか。なぜ一族の教えに背いて一族を離れるのか。その心理を」


 お師匠は、ふん、と鼻を鳴らした。


「別にご大層な理由があるわけじゃないよ。単に一族のやり方が好かなかったってだけさ。私には合っていなかった。私がやりたいことを、一族にいたらやれなかった。だから出てきた。それだけさ」


「ですが、自分を育んでくれた一族の存在は大きかったはずです。それを捨ててしまうことに、ためらいはなかったのでしょうか」


 お師匠は、少し遠くを見るような目をした。


「全くなかったとは言わないよ。けどまあ、私は元々家族とはうまく行ってなかったからね。唯一仲の良かった祖母が死んだ後は、情に足を引っ張られることもなかったよ」


 それに、とお師匠は強い瞳でシアを見据えた。


「自分が自分らしく生きられないなら、生きることに何の意味があるっていうんだい。自分を殺してただ一族の利益のために生きる一族の駒としての生き方も、見ようによっては立派なのかもしれないね。でも私にはそんなのはただ虚しいだけだとしか思えなかった。私はそんなことのために生まれてきたわけじゃない、そんなことのために生きてるわけじゃない、って思ったのさ。そして、本当の意味でこれから先生きていきたいなら、このまま一族にいたらだめだ、ってね。だから一族と縁を切って出てきたのさ」


 お師匠は一気に話し終えると、ふーっと息を吐いて、お茶を飲み始めた。


 シアはお師匠の言葉を咀嚼するように考え込んでいる。その表情は、はっとするくらい真剣で、声をかけるのはためらわれた。


 お師匠はティーカップを空にすると、さて、と言った。


「私がここまでぶっちゃけて話したんだ。あんたにもお返しに私の質問に正直に答えてもらおうかい」


 シアが、はっと我に返ったように顔を上げる。


「質問、ですか?」


「あんたの一族、〈神々の愛し児〉についてだよ。知りたいことが色々あるのさ」


 シアは苦笑した。


「わたしに答えられる範囲であれば。わたしは、あなたと違って一族の掟に縛られている身ですから、お答えできないこともあります」


「そこを少々融通きかせてほしいもんだね」


 シアは答えず、微笑んでお茶を一口飲んだ。お師匠はそんなシアの様子を目を細めて見つめていたけど、あたしに向かってティーカップを突き出した。


「リューリア、おかわり」


「え、あ、はい」


 あたしはぱちぱちと瞬いてから慌てて立ち上がった。お師匠のティーカップを受け取って、台所に向かう。背後でお師匠がシアに質問を始めるのが聞こえた。


「まずは、あんたたちが一族の人間とそうでない人間を見分ける方法なんだけどね。書物にはいくつかの方法が載ってたんだが、どれも根拠不明な怪しい説なんだよ。一体〈神々の愛し児〉は普通の人間とどう違うのか、教えちゃくれないかい」


 あ、それはあたしもちょっと知りたいかも。あたしは足を緩めて耳をそばだてたけど、シアは落ち着いた声で答えた。


「申し訳ありませんが、お答えできません」


「最初の質問からそれかい。手ごわいねえ」


 なーんだ。話せないことなのか。それじゃ仕方ない。あたしは軽く肩をすくめて普通の速さで歩き出した。


 お師匠は、どうにかシアから答えを引き出そうと、まだ交渉している。けど、シアは譲るつもりはないようだ。多分シアの口を開かせるのは無理だろう。シアは柔和に見えて頑固だから。


 あたしは台所にティーカップを置くと、水差しを持って裏庭に出た。しゃがんで地面に手をついていたラピスが、あたしに気づいて顔を上げる。


「もう帰れるのか?」


「残念。お茶のおかわり淹れるのに水をくみに来ただけ」


「ちぇー」


「あんたはおとなしく魔術の訓練でもしてなさい。お師匠がシアと話し込んでるから、帰るのはぎりぎりになるだろうし」


「マジかよー。つまんねえのー」


 不平を言うラピスをあしらって水をくみ、家の中に戻る。シアの分と自分の分もお茶のおかわりを淹れて居間に戻ると、相変わらずお師匠がシアを質問攻めにしていた。


 三人分のお茶が入ったティーポットから、お師匠のティーカップにお茶を注ぐ。ティーカップをお師匠の前に、ティーポットをテーブルの真ん中に置いて、ソファーに座った。お茶を飲みながら、二人の会話に耳を傾ける。


 お師匠の質問のほとんどにシアは答えることを拒否していたけど、いくつかは答えられるものもあった。たとえば、こんな質問だ。


「〈神々の愛し児〉はみんな魔力量が普通より多い、ってのは本当なのかい」


「それは本当です」


「多いっていうのは、具体的にどのくらいだい?」


「そうですね……」


 シアは少し考えてからあたしを見た。


「わたしの一族の魔力量の平均値は、無属性の人の平均値を上回るくらい、と言えばわかりやすいでしょうか」


「へえ。それはすごいねえ。無属性以上かい」


 お師匠が感心したように言う。無属性の人間は他の四属性の人より魔力量がかなり多い。それを上回るってのは、確かによっぽどのことだ。


 そんな感じでお師匠は次から次へとシアに質問を投げかけていく。お師匠は、興味のあることには熱中するたちだから。


 この調子じゃ、今日はあたしへの魔術の講義はなしだろう。まあ、たまにはそういう日があってもいい。お師匠にはお世話になってるし、その恩返しってことで。質問攻撃にさらされてるシアには申し訳ないけどね。


 あたしは意識の半分でシアとお師匠のやりとりを聞きつつ、そこら辺に置いてあったお師匠の本を拾って流し読みしていた。そこそこ時間が経ったところで、頃合いかな、と本を閉じる。


 ティーポットと空になっている三つのティーカップ、お師匠が食事に使った食器を台所に持っていき、水魔法で洗って乾かし、棚にしまう。置いていくモツ煮の鍋とパンの皿のかわりに、前回来た時に置いていった鍋と皿、布を棚から出して、持つ。


 帰る準備ができると、居間に戻ってお師匠に声をかけた。


「お師匠。すみませんが、あたしたちそろそろ帰らないと。夜の営業時間が始まってしまうので」


 お師匠は残念そうな顔になった。


「もうそんな時間かい。――あ、そうだ。最後にもう一つだけ。〈ラ・テイユの惨劇〉、あれは本当にあったことなのかい」


 その質問に、シアの顔が少し曇った。


「……ええ。一般に広まっている話はいくらか誇張されているそうですが、概ね真実だと教わりました。あの事件をきっかけに、わたしたちの一族では新しい掟が作られて、国に仕えることは禁止されたんです」


 お師匠はうなずいた。


「本に書かれていたとおりだ。――今日はありがとうね。色々興味深い話が聞けたよ。もっとも、あんたたちがここまで秘密主義でなかったら、もっと楽しかったんだがね」


 最後にちくりと皮肉を言いながらも、お師匠はシアに手を差し出した。シアがその手を握る。


「質問にあまりお答えできなくてすみません」


「まあいいさ。ぜひまた来ておくれよ。まだ訊きたいこともあるし、次は魔法陣の話もしたいねえ。私は今、いかに少量の魔力で大きな効果を出すかの研究をしていてね。作成中の魔法陣をあんたにも見てもらいたいのさ」


「機会があれば、ぜひ」


 二人が挨拶をしている間に、あたしは裏庭にいるラピスを呼び入れて、皿を持たせた。シアがお師匠の手を離して立ち上がったのを見て、お師匠に向き直る。


「それじゃ、お師匠。今日は失礼します。また――」


「そうだ、リューリア。あんたに言っとくことがあるんだった」


 言葉を遮られて、あたしはきょとんとお師匠を見返した。


「何ですか?」


「今度町会の会合があるだろう。橋の修繕の件で」


「ああ、はい。明後日ですよね」


「あれ、私のかわりにあんたが出ておくれ」


「えっ」


 あたしは目を見開いた。


「あ、あたしがお師匠のかわりにですか?」


 これは、誰が会合に出るかってだけの話じゃない。橋の修繕時に魔術師に求められる仕事を誰がやるかって話だ。


「ああ。もうあんたもそれくらいできるだろう。もし一人じゃ不安だってなら、ルチルだったか、このお嬢ちゃんにも来てもらえばいい。それで問題はないだろうさ」


「けど……」


 あたしは口ごもった。魔術師として仕事をこなしたことは何度かあるけど、こんな大きな仕事は初めてだ。その責任の大きさに腰が引けて、すぐにはうなずけない。


 ためらうあたしの肩に、優しく手が触れた。視線を動かすと、温かな紫の瞳とぶつかる。


「大丈夫よ。ルリならできるわ、きっと。それにあなたは一人じゃないもの。イァルナさんがおっしゃるとおり、わたしだってついているんだし」


 やわらかなシアの声が体にしみ渡って、胸の奥から勇気がわいてくる。シアの瞳を見つめて、あたしは、うん、とうなずいた。シアからお師匠に視線を移す。


「わかりました。やってみます」


「ああ、がんばりな。じゃあまた再来週」お師匠はひらひらと手を振った。「そっちのお嬢ちゃんを連れてくるんなら、もっと早く来てもいいけどね」


 あたしは苦笑した。


「考えておきます。行こ、シア、ラピス」


 お師匠の家を出て、ラピスに扉の鍵を閉めさせて、大通りに向かって細い道を歩いていく。


「シア、ごめんね。大変だったでしょ? お師匠の質問攻めにつきあうの」


「ふふ、そうね。あんなにたくさん質問されるとは思ってなかったわ。でもわたしも立ち入った質問に答えていただいたし……それに、興味深くもあったわ。外の人がわたしの一族をどう見ているのかの一例を知れたもの」


「そう? なら、いいんだけど……正直なところ、もうお師匠とは話したくない? シアがそう言うなら、次にお師匠の家に行く時は、あたしとラピスだけで行くよ?」


 シアは首を振った。


「いいえ、わたしも一緒に行くわ。二週間後でしょう? その頃はまだこの町にいると思うし」


「ほんとにいいの?」


「ええ。あ、でも、もしかしてルリにとっては、わたしが一緒じゃない方がいいのかしら。今日はわたしがいたせいで、イァルナさんから魔術の講義受けられなかったでしょう?」


「あー、そこは大丈夫。シアが嫌じゃなくてお師匠が満足なら、数回講義を受けられないくらい何てことないし。それに、次回は魔法陣の話もするかもしれないんでしょ? 二人の話を聞いてるのも勉強になるだろうし」


「だといいわね。わたし、ルリの勉強の邪魔になるのは嫌だもの」


 あたしはシアから目をそらして、道の先を見た。


「……べ、勉強が進むより、シアと一緒に過ごせる方が、あたしは嬉しいよ」


 口にするのは照れくさい台詞だし、相手がシアなら尚更恥ずかしいんだけど、シアにはあたしの気持ち知っておいてほしいとも思う。


「ルリがそう言ってくれて、わたしも嬉しいわ」


 本当に嬉しそうな声でシアが言った。横目で見ると、幸せそうな微笑みを浮かべている。ああ、シアがこんな顔してくれるなら、やっぱり正直に気持ちを伝えて良かった。


 ほわほわとした気分で、あたしは家路をたどっていった。




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