第38話

 ラボの薬品室へ入るとゲンダが気づき、カンファレンス室へ二人を通した。

 ゲンダは小さな箱と資料を持って二人の前に置く。


「これが爆弾です」


 箱を空けると太いスプレー缶らしきものが入っていた。

 サツキは初めて見る爆弾に興味津々で覗き込むと、資料に目を通す。


「缶の中に毒ガスと可燃性の粉、それから爆弾が入っています」

「粉?爆弾があるなら要らねえだろ」

「敵地に侵入して爆弾を設置するので、小さい物になりました。威力はそこそこ強いのですが、少しでも補おうと隙間に粉を入れています」

「小さくてもクソ威力のあるやつを作ってたろ」

「改良中のようで、渡したくないと開発班に言われてしまいまして…」


 話を聞いていると、爆弾に関しては開発班、ガスは薬品班で作ったらしい。

 今回は爆弾よりもガスが重要なようで、マルクは開発班の人間を呼ぶことをしなかった。


「粉なんて申し訳程度の量しか入ってねえだろ」

「缶の大きさからして、そうですね」

「馬鹿なのか?」

「爆発威力を少しでも高めようと、彼等も頑張ったみたいです」


 粉が入っているのは粉塵爆発を狙っているからだ。可燃性の粉に火がつくことで、爆発する。小麦粉に着火し、爆発が起きて一軒家が燃えたニュースをサツキは以前見たことがある。

 どの程度の粉でどの範囲を爆破できるのかサツキには想像できないが、少量の粉では拠点を思い切り吹き飛ばすことはできないのだろう。国外からの侵入者とはいえ、拠点に使用している建物は国内のとある組織のものだ。侵入する際に手助けした組織を拠点にしている。拠点は大きい上に強度も高いだろうから、多数の爆弾が必要になる。

 この程度の粉は、あってもなくても関係ないのだろう。

 それでも申し訳程度に入っているのは、マルクに怯えたのか、少しでも力になりたいという善意からか。


「ま、ガスで殺す予定だから問題ないけどよ」

「はい。それで、ガスについてですが」


 テーブルの上に置かれた資料をそれぞれ手に取り、ゲンダが簡潔に説明する。


「口から吸い込まなくとも皮膚からもガスを吸収します。微量の摂取ですと呼吸困難、全身麻痺、嘔吐などの症状が現れ最終的には窒息死です。思い切り吸い込んだ場合は即死です」

「なんだ、普通だな」

「普通です。ただ、毒性が強いのですぐに効果が出ます」


 資料は専門用語が多く見受けられ、サツキは完璧に解読することはできなかった。

 神経ガスと記載があるので、神経に異常が出る毒ガスということだろう。


「段ボールに全部詰めていますので台車ごと持って来ます」


 そう言ってゲンダはカンファレンス室から出て行った。

 サツキは再度資料を読む。


「お前、これ読んで分かるのか?」

「…神経ガスということは分かりました」

「一番上に書いてあるからな」

「…はい。マルクさんは分かるんですか?」

「神経ガスなのは分かるぜ」

「書いてありますもんね」

「書いてあるからな」


 銃で人を殺せるどころか毒ガスについての知識もあったら怖いものなしである。

 マルクも完璧には理解していないと分かり、気持ちが軽い。


「拠点を爆破ということは、集団を手助けしている国内の組織も潰すのですか?」

「当然だ。邪魔だからな」

「ちなみに、爆弾の設置は潜入班が行うのですか?」

「あぁ、数人潜らせてあるから、奴等に任せる。爆弾をゲンダから受け取ったらそいつ等に渡しに行くぞ」

「はい」


 サツキがこくりと頷くのを見て、従順だなとマルクは口角を上げた。

 マルクの専属から外れたくない一心のサツキを見るのは面白い。サツキが寝ている間の運転手について聞く様は、嫉妬心が露わになっており、マルクは満たされるものがあった。


「悪くない」

「はい?」


 マルクの呟きを拾ったが、返答はなかった。

 ゲンダが台車に段ボールを六つ乗せて運んできたが二人ですべてを持つことは難しいので、ゲンダに車まで運んでもらい、ラボを去った。

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