第19話

 今日も今日とてマルクを乗せて、サツキは増えたエリアの探索をしていた。

 色や数字だらけになった地図をマルクは横から見て、絶対に書き込みすぎだと呆れる。

 マルクを乗せての探索は意外に楽しく、停車の時に雑談をするのがサツキの密かな楽しみだった。


「おい、隣の車線を走る赤い車を追え。バレるなよ」


 朝から探索をし、今は星が際立つ程辺りは暗くなっていた。

 朝と昼と夜では交通量も景色も違う。それを知りたくてサツキは一日中探索に費やしていた。


 マルクが何かに気付いたように、追跡するようサツキに指示する。仕事になったのだと察し、赤い車を注視しないよう、しかし視界から消さないよう努める。

 マルクはフードを被ると、カチャと音を立てた。

 武器を取り出した音だと気づき、サツキは緊張する。

 まさかこのままドンパチやるのか。車に乗ってバトルなんて映画の中だけにしてくれ。


「この先は確か、交通量が少ない道です。恐らく赤い車とこの車の二台のみになると思いますが、追跡を続けますか?」

「無論だ。そん時はバレても仕方ねえ、殺るだけだ」


 いつ殺るんだ。車内から発砲するのか、停車させてマルクを降ろすのか、どうするんだ。

 必要な情報を与えてもらえないが、この先の展開が最悪の形になるのだという予想が外れるとは到底思えなかった。


「この車、上は開くか?」

「あ、開きます…」


 会社に改良を頼んだので開く仕組みになっている。サンルーフでないのはサツキの好みによるものだ。


「開けろ」

「はい…」


 あぁ、最悪な形だ。

 車の屋根部分を開けるとマルクが座席を下げて立ち上がる。手にはいつの間にかライフルが握られていた。空になった大きなケースがサツキの足に当たった。持ち歩くのは重いからと車内に置いているものだった。


 車道には二台しかいない。反対車線にも車はなく、静かな夜道を二台が進む。

 マルクが立ち上がったことで赤い車は気づいたのだろう。窓から人の頭が出て、こちらに銃口を向けている。

 タイヤに当てられたら最悪だ。

 窓は特殊な強化ガラスにしており、撃たれたところで割れることはない。


「このまま真っ直ぐだ。ハンドルを動かすなよ」

「はい」


 照準が合わせにくいからだろう。

 一ミリのズレも許されない。


 マルクが引き金に指を当て、発砲した。

 一発目で一つの頭に命中し、二発目にもう一人。運転席の人間に当たることはなかったので、車は止まらない。

 三発、四発で二つのタイヤが潰れ、車は速度を落とした。


「すごっ」


 気持ちいいほどの命中率だ。


「車を追い越しますか?」

「いや、手前で止まれ」

「はい」


 赤い車を追い抜くことはせず、言われた通り手前で停車させた。

 マルクはドアを開けて、タイヤがパンクした車の元へ歩み寄ると、運転席から拳銃を持った男が飛び出して銃声を立てるが、当たらない。

 マルクが一回発砲すると、男は倒れ込んだ。

 男の倒れ方を見るに、頭を撃ち抜かれたようだった。

 マルクが振り返り、親指と小指を立てて電話のポーズをとったので、サツキは回収班に電話をかけた。


 電話が終わると視線をマルクに戻す。

 何やら死体の服を漁り、奪ったようだ。


 用が済むと車に戻ってきたので、何を盗ったのか問う。


「やる」

「はい?」


 サツキの方に投げられたのは財布だった。

 中を見ると一万円札が十枚以上入っており、免許証やクレジットカードもあった。


「えっ、くれるんですか?」

「あぁ、チップ代わりだ。要らねえならその辺に投げておくが」

「要ります。ありがとうございます」

「ハハッ」


 この世界に入った時から、手を黒く染めているようなもの。

 殺人は犯していないし、犯そうとも思わないが、金目を貰うくらいはしている。自ら奪うことはないが、落ちていたら拾う程度だ。


「他人の金なんて貰えないだとか、綺麗事を抜かすかと思ったぜ」

「そんな綺麗事を言えるならこの世界に入っていません」

「そりゃそうだ」

「それに免許証って裏で売れますよね、売ったことはありませんが」

「お前はやめておけ。潜入班にでも売りつけろ」


 外部の人間に売りつけるならともかく、同じ会社で働く人間に売りつけるのは間違いではないか。

 きっとマルクが幹部である故の発言だろう。

 サツキは売りつける度胸がないので、財布に入っている札だけ抜いて後はすべて情報部に引き渡そう。潜入班は情報部の所属になるので、情報部の窓口に渡せば役立たせてくれるはずだ。


「ちなみに先程の男たちは何だったんですか?」

「うちの雑魚が逃したゴミ」


 あの一瞬でよく判別できたものだ。

 そんな男の運転手になったのだから、自分ももっと頑張らなければとハンドルを強く握った。

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