第16話
会議はすぐに終わり、ソファに座っていた者たちは立ち上がり部屋を出て行く。
サツキはマルクの後ろを歩き、これ以上機嫌を損ねないよう、話しかけることはせず黙ったまま車に乗り込む。
「どちらへ行きますか」
「昨日降りたとこ」
「承知しました」
マルクが助手席に乗り、車のドアを閉めたことを確認して駐車場を出た。
機嫌が直ったのか直っていないのか判別ができない。
分からないことがあればマルクに聞け、と堅物が言っていた。聞きたいことはたくさんあるが、今のマルクに聞いてもいいものか。
ちらちらとマルクを気にしながら安全運転を心がけていると、「なんだ」とマルクが呟いた。
「は、はい?」
「聞きたいことでもあんのか」
「は、はい」
意外にも答えてくれるようで、サツキは頭の中を整理する。
どうやら機嫌は直っているようだった。
「先程の人たちは、誰でしょうか」
「幹部と犬」
あれが幹部か。
五人で会議、となると幹部だろうと予想していた。
しかし、犬とは。
「犬、というのはもしかして運転手のことですか?」
「それ以外に何がある」
マルクと自分があの場に居たのだから、座っていた男たちと後ろに立っていた男たちの関係性は同じ。
立っていたのが運転手で、座っていたのが幹部。
メインのときは、同業者と会うことがなかった。しかし、専属になると会うことが増えるのか。
「まだ何かあんのか」
なんだか優しい気がする。
質問があるか、とマルクの方が聞いてくれる。
機嫌の良い今がチャンスだ。聞きたいことをすべて聞いておこう。
「あの場にいた幹部と運転手の名前を教えてください」
「あ?運転手なんて知らねえよ。幹部はシナ、ブロック、ガナー、アリサだ」
説明が下手だなとは言えない。
マルクが運転手の名前が分からないのは仕方がない。恐らく話す用さえないのだろう。ただ、幹部の名前だけを言われても、誰が誰だか分からない。
「すみません、幹部の特徴も併せて名前を教えてください」
「はー、だる」
すみません、ともう一度言う。
「オカマがシナ、でかい態度がブロック、無口がガナー、堅物がアリサ」
「ありがとうございます」
あの堅物はアリサというのか。絶対に名前は気に入っていないだろう。
そしてふと、気になった。
「付けられる名前は、誰が決めているんですか?」
「上だろ」
「上、ですか」
「ボス含め三人主軸がいるから、その誰かじゃねえの?」
主軸が三人いる。
ボスが一人と、副ボスが二人だろうか。
「集団に殺されたうちの暗殺者ですが、殺されたきっかけが運転手だと聞きました。詳細を知っていますか?」
「当たり前だろ、お前、俺を誰だと思ってんだ殺すぞ」
吐き捨てるように言うので、機嫌を損ねてしまったかと焦る。
「集団の内数人とうちのモンが一人で殺り合ってたが、撃たれてそのまま死んだ。運転手が車でドライブをしてたらしいから、そいつさえ現場にいれば撃たれても車で逃走できたかもな」
「なるほど」
「運転手は当然消されて、集団は応援に行ったうちのモンが殺した」
自分の時でなくてよかったと、心の底から思った。
だから現場から離れるなというお達しがあったのか。
「マルクさんは、何故殺しをやってるんですか?」
「あ?」
「えっと、その、お顔は綺麗だし、スタイルもいいし、モデルでも稼げそうだなと思ったもので…」
しまった、地雷だろうか。
「腹立ったら殺したくなるだろ。腹立たなくても殺すけどよ」
意味が分からない。
もしかして家庭環境が悪くて義務教育を受けていないのだろうか。それか、幼少期からうちで暗殺者として育てられていたのか。
「なんだその目は生意気だな殺すぞ」
「い、いえ」
「殺しをやる人間の半分くらいは、理由なくやってんだろ。できるからやってる、そんなもんだ」
人を殺したことなんて一度もないので、人殺しの気持ちは分からない。
確かに、自分もできるからやっている。運転ならできると思い、ここに就職した。これが暗殺や解剖なら就職しなかった。そんなこと、できないからだ。
なるほど、そう考えれば殺し屋も運転手も似ている。
「で、まだあんのか」
「はい。もう到着しそうですが、到着後も聞いていいですか?」
「あ?無理」
断られたので、サツキは減速した。
法定速度を下回るとマルクが殺す殺すと騒いだので、仕方なく法定速度を維持して運転した。すべてを聞くことはできなかった。
そして想像していたより、マルクはサツキを殺す気はなさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます