第15話
部屋の窓はカーテンで覆われ、室内は洒落たシャンデリアが放つ光のみ。
座り心地が良さそうなソファに座り、態度も体格も大きな男が話を切り出した。
「先日国内に侵入した集団についてだが、民間人が立て続けに殺されたことによって、警察が本格的に動き出した」
自分が聞いてもいい話なのかとサツキは不安になったが、追い出されないので居てもいいのだろう。
民間人が連日殺されていることについて、ニュースで知っていたが、本格的に動き始めたというのが気になる。今までは手抜きだったということか。
「ふむ、ならば我々はこの件に関して積極的に関わらない方がよさそうですね」
「逃げ腰になる必要はないんじゃない?今まで通りにやればいいでしょ。警察に怯えてどうするのよ」
「怯えているわけではありません。我々の存在に気付かれると後々仕事に影響が出ます」
「それを怯えているというのよ」
「怯えていません」
「はいはい」
その集団に対してどんな距離感で接するのかを検討する会議のようだ。
接するというより、積極的に殺すか殺さないか。
警察が関わっているならば、目立つ行動は避けた方がいい。会社はお国のためにマフィアや敵対組織と殺り合っているわけではない。邪魔になれば民間人であっても殺すし、意味もなく女子供を殺す殺人鬼だっている。真っ黒な会社である。
「集団が持っている情報は、情報部に任せる。奴等は目標ではないし、態々こちらが動く理由はない」
態度の大きい男がそう言い、四人は意見しなかった。
会議の主旨は理解したし、態度の大きい男が出した結論も理解した。しかし、一つ分からないことがあったサツキは、疑問符を頭の上に出す。それを察知したかのように態度の大きい男はサツキに視線をやった。
「そこの女、不服そうだな。何か言いたいことでもあるのか」
いきなり声をかけられ、背筋が伸びる。
その場の視線はすべてサツキに注がれ、注目の的になった。
「意見があるなら言ってみろ」
威圧感で身が縮みそうだ。
マルクは振り向かず、前を向いたまま。フォローしてくれる気配はない。期待はしていなかったが、素振りくらい見せてくれてもいいだろうに。
「いえ、意見なんて」
「ならば何故不服そうな顔をした。見間違いか?」
ただの人間に殺気を遠慮なく飛ばす男。
この空間に女は一人しかいないのだから気を遣ってほしいものだと心の内で言い返す。
「いえ、あの、私は昨日専属になったばかりで、持っている情報はそれ程ありません。先日、上から仲間が一人殺されたとの通知がありましたので、その際に取り逃がした敵によりうちが集団の標的になっているのなら、警察よりも先に叩き潰した方がいいのでは、と思いました」
仲間が殺された、との通知だったが、殺されたということは取り逃がしたということではないのか。一人で殺り合ったのか複数で行ったのかは知らないが、集団がこちらの存在に気付いて情報収集をしているのなら、警察が関わってくるより先に潰した方が得策なのではないか、と思った。集団が収集したうちの情報を警察が知ることになると厄介だ。
「取り逃がしていませんよ。よって、我々の存在は気づかれていません。マルク、情報共有をしていないのですか」
「うっせえな。俺の勝手だろ」
「情報共有をしていれば、この場で今のような質問はなくなります。非効率なことをさせないでください」
堅物と呼ばれていた、七三分けの眼鏡が答えた。
見た目も堅物、話し方も堅物だ。こんな人、前職の取引先にもいた。サツキがミスばかりするものだから、サツキの上司に直訴していたのを思い出す。
「貴女も、分からないことがあるのならその時にマルクに聞きなさい」
無茶を言うなと切り捨てたい。
ただの運転手が殺人者に聞けるわけがない。
サツキは引き攣った笑みを浮かべ「はい」と返した。
「マルク、仕事はきちんとしてください。ただでさえ規律を守らないのですから、情報共有くらいはできるようになってください」
「うっせえな。分かったから早く話を終わらせろよ」
嫌そうに舌打ちをするマルクは、不機嫌だ。
サツキは堅物を恨んだ。お前のせいでマルクの機嫌が悪くなった。この状態のマルクを車に乗せて連れ帰るのは誰だと思っているのだ。
どうすれば機嫌がよくなるのか、どうすれば機嫌が悪くなるのか、まだサツキは掴めていない。そんな中、マルクの機嫌を損ねることはしないでほしい。
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