第12話

 次の仕事は早く、翌日にメールが届いた。

 そのメールの中には相棒の連絡先があり、次からは直接やり取りしろとの命令だった。幹部だからか、第三者を介してメールを送る必要はないのだろう。


 夜空に星が輝くのをガラス越しに眺めながら、待ち合わせである場所まで車を飛ばす。

 昨日のようにただの送迎ではなく、仕事中の相棒と合流した。

 助手席に乗り込んだ相棒は昨日よりも疲れて見えた。

 横から見ただけだが、隈が酷い。


 今日は仕事終わりの相棒を拾い、別の場所でおろし、相棒は仕事に行く。それが終わってやっとサツキの仕事が終了する。

 相棒は仕事の次も仕事。

 幹部はやはり忙しいのだ。椅子に座って威張るのが幹部についているイメージだが、どうやらそうでもないらしい。


 軽自動車を走らせ、次の目的地まで運ぶ。

 ドライブが禁止になった今、相棒が仕事を終えるまで車内で待機するしかない。面白くない。

 ため息を吐こうとしたがぐっと堪え、海の近くにある古びた倉庫の横に停める。

 相棒が車から出るのを待ったが、出て行く気配はない。


「…どうかしましたか?」


 不思議に思い尋ねるも、返事はなくただ前を見ている。

 何を見ているのか、サツキも同じ方向を向くが、変わったものはない。

 幽霊でも見えているのか。


 相棒が何も言わない上に動かないのでサツキは黙って停車させたままだ。


「おい」


 暗い車内に相棒の低い声が響く。

 まさか喋るとは思わず、驚きながらも「はい」と答えた。


「車を出せ。すぐにだ」

「はい」


 よく分からないが、アクシデントか。

 相棒の言うとおり、車を発進させる。


「もっとスピードを出せ。来るぞ」


 何が来るというのか。もっと詳しく言ってくれなければ、ただの運転手には見当もつかない。こんなときに日頃のコミュニケーションが役立つのだ。


 相棒の指示に従い、アクセルを強く踏むと左から車が突っ込んできた。

 そこに道はない。故意に車をぶつけようとするので、躱して広い車道に入る。

 周囲を確認するが、人気はない。灯りも少なく、暗闇の中、躱したはずの車が後を追ってくる。


 負けてたまるかと、スピードを上げる。


 相棒は特に何かをするわけでもなく、足を組んで座っているだけ。

 車を撒くことを期待しているのか、持っている武器を出す気配はない。

 こういうのもすべて運転手任せか。

 敵を殺すのがお前の仕事だろう。

 愚痴が喉まで込み上がるので、必死に呑み込んだ。


 後ろから物凄い速度で車が走ってくる。

 速度で劣るようなことはないが、早々に決着をつけたい。

 サツキは思わず舌打ちをする。


「少し揺れますので、気をつけてください」


 急カーブを見つけ、タイミングを見てハンドルを切る。

 相棒の頭は勢いより窓にぶつかり、大きな音を立てた。

 ざまあみろ、と心の中で小さく呟く。


 カーブを曲がると道路は真っ直ぐに伸びていた。

 チャンスだと思い、ルームミラーで後ろを確認しながらも、前方の確認も怠らない。

 ルームミラーに車が映った瞬間、左手でハンドルを少し動かし、右手はボタンを押す。


 すると、車の後ろからいくつか塊が勢いよく転がり出て道路に引っ付き、数秒後、爆発した。

 追跡車は吹っ飛び、道路に打ち付けられて海に落ちていく。

 爆弾を落とした位置が良かった。

 軽自動車は小回りがきくので手放せない。


「おい、お前の名前なんだ」


 低い声が再び車内に響く。

 先程ぶつけた部分が痛いだろうに、頭を押さえる素振りはない。

 強がっているのか、感覚が麻痺しているのか。前者なら面白い。


「サツキです」

「そうか。俺はマルク」


 自己紹介ができることに驚いた。

 初日のあれは何だったのだ。


「さっき、俺の頭をぶつけたな?」


 そう言い、サツキの米神に拳銃を突きつける。

 引き金を引かないまま、サツキの返事を待つマルクに表情はなかった。


 突きつけられた拳銃を一瞥し、サツキは前を向いて運転する。どくどくと心臓が少し早く動き出した。

 逆上させないよう、言葉を選ぶ。


「申し訳ありません。私の技術が未熟な故、お怪我をさせてしまったようで」

「己惚れるな。怪我なんてしてねえよ」

「左様ですか」


 しれっとするサツキに、マルクは続ける。


「お前、これが見えてねえのか?」

「見えています。しかし、運転中ですので」

「ハッ、死ねよ」


 そう言って、引き金を引くと、サツキの耳元で銃声がした。

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