第11話

 仕事の連絡はすぐに届いた。

 人事の男は相棒と呼んでいた人間の写真と仕事内容を記憶する。

 暗殺のために送り込むのではなく、ただの送迎。今は駆り出されて遠征に行っているようで、今日の昼に帰ってくるらしい。

 拠点エリアは広範囲であり、エリアの端に到着したらそこから車で中央部まで送迎して終わり。ただの足に使われる仕事だった。

 こういう仕事こそサブがやればいいのに、と思う。

 サブがただの送迎で殺人鬼との空間に慣れた後、殺しのための送迎をする。これが一番優しいと思う。

 サツキの知らない何かがあってのことかもしれないので、あまり批判はできない。


 朝早く、車に乗って家を出た。

 エリアの端まで行かなくてはならないが、その端が遠い。

 写真で見る限り、相棒は垂れ目と隈が特徴の綺麗と可愛いを兼ね備えたような男だった。恐らく年齢はサツキとそれほど離れていない。若い男で、芸能界にいてもおかしくはない容貌だった。

 人殺しの雰囲気はなく、ちょっと怖い兄ちゃんという印象だ。


 人事の男に詳しく聞いた話では、暗殺班の中に幹部は五人。その内の一人がサツキの相棒だ。若くして幹部になったということは凄腕なのだろう。

 余計な事を言って逆上させると、秒で頭に風穴を開けられそうだ。


 怒らせないよう、感情を出さないよう注意しなければならない。

 初日に殺されるなんて御免だ。


 一体どんな男だろうか。

 人事が言うにはクセが強いとのことだったが、人殺しが普通なわけない。クセしかないだろう。


 緊張しつつも、楽しみだった。


 車を走らせて数時間経つと、目的地にたどり着いた。帰りのガソリンくらいはあるが、念のため途中でガソリンを注いだ。

 停車させて待っていると助手席が開き、男が乗り込んできた。

 後部座席じゃないのか。そんなことを思いながら男を確認すると、写真通りだった。


「お疲れ様です」


 取り敢えず口から出した言葉に、返事はない。

 感じが悪いと思うが、お喋りをしたいわけではない。特に話すことなく運転する。

 車内は沈黙になり、ラジオが小さく音を出すのみ。

 男は寝ているわけではないようで、前を向いている。

 最初こそ気まずかったが、一時間も経てば沈黙に慣れた。


 数時間程運転し、目的地に着くと何も言わず下車した。

 バンっと扉が閉められ、男は見えなくなった。


「なんだったんだ」


 本当に足として使われたような感覚。

 礼も言わず去る姿は、思い描く暗殺者そのもの。

 下っ端の方がまだ礼儀を持っていた。やはり幹部になると人間性が変な奴が多いのだろう。


 疲れた体を風呂で癒し、触り心地の良い高級パジャマを身に纏い、ベッドに寝転がる。

 あれとずっと仕事をするのか。

 最低限のコミュニケーションはとっておきたい。

 危機に直面した時、日頃からのコミュケーションが役立つ場合もある。

 次は少しだけ話しかけてみよう。返事がなくとも天気の話とか、独り言のように「今日は眩しいですね」とかなんとか言っておけば、返事がなくても問題はない。


 そう決めているうちに睡魔に襲われ、そのまま意識を手放した。

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