第6話

 警察のこともあり、安易にドライブをするのは危険だと思ったが、街を離れる程の時間はなく、結局いつものように街灯と車のライトを眺めてのドライブに落ち着いた。

 三十分が経過したころ、そろそろだと思い迎えに行った。


 行きとはまた違った場所。高層ビルが並び立っている。恐らくどこかのビルの屋上から狙撃したのだろう。


 車を止め、数分待機していると三人が行きのときと何ら変わりなく戻ってきた。


「回収班が近くまで来ているようです」

「全部殺したのに何を回収すんだァ?」

「あんた馬鹿すぎ。死体は有効に使うんだよ」


 所属する会社は大きく、やることも多い。死体の回収もその一つだ。

噂では、人体実験もいくつか行っていたり、実験機関に売ったりするのだという。人体実験なんて考えるだけでも恐ろしい。自分は運転手でよかった、一番楽な仕事だ。


「では目的地に向かいます」


 三人が乗ったことを確認し、高層ビルの間から抜けた。


 長い前髪で視界がよくないが、運転に支障がでるほどではない。夜の運転は慣れすぎて、昼の運転よりスムーズにできる。夜の住人になったなと実感する。


「あー、眠いな」

「変な男。フリーのときから夜型でしょ」

「最近仕事少ねえんだよな。今月まだ五回しか出てねえ」

「新入りが数人入ってきたからじゃない?」


 女の方がちらっとサツキを見たのが分かったので「そうですね」と言って、続けた。


「モンドさんの言う通り、新しく入ってきた方がいらっしゃいます。何人かは分かりませんが」

「おお、どんな奴だ?」


 三人とも興味があるようで、やはり同業には関心を捨てきれないよねと内心何度も頷いた。


「私はまだ一人としかお仕事をしていないので、なんとも。とても楽しい方でしたよ」

「ってことはサブの方に新人が行ってるんだな。俺らの陰に隠れての殺しかァ」


 新人は数名で、リース以外はすべてサブの方に行っていることに少し苛ついていた。

 メインはサツキである。そのサツキの車に乗らない、或いは乗せないのか。サブもエリアを知り尽くしているとはいえ、自分を差し置いて何度もサブの車に乗られると、メイン交代の可能性を考えてしまう。サブになると重要な仕事は減り、給料も比例して減る。それで食べていけないわけではないが、今の給料を手放したくはない。どうせ同じことをするなら高い給料が良いのは至極当然の考えだろう。


「運転手さんさー、どうして運転手になろうと思ったわけェ?」


 彼等を下ろす場所までまだ時間はあり、暇つぶしだろう。

 寝ていればいいのに、と思いながらもサツキは悩んだ。真面目に答えるべきか。


「以前勤めていた会社を辞めたので、転職ですね」

「でも一般人だったでしょ?こんなとこに足突っ込んだのは何でかなァ?」

「色々ありますけど。給料は良いし、運転は嫌いじゃなかったので、いいかなと」

「確かに給料は良いよなァ。フリーの方が稼げてたが、こっちのが楽だなァ。名前もギーカスって格好良いもんなァ」


 女のモンドは既に夢の中のようで、窓に頭を預けている。

 助手席の男は常に前を見ており、会話を聞いているのか聞いていないのか判別できない。

 車内にギーカスの笑い声が響くも、モンドは起きずにぐっすり寝ている。


「運転手さんから見て俺らどう?」

「どう、とは。仕事相手ですが」

「ほら、そういう仕事してたらたまに頭おかしい奴とかいるだろ?そういうの、ねェの?」


 興味津々といった雰囲気を出すギーカスを鏡越しに見る。殺人を仕事にしている時点で頭がおかしい奴だろう。

赤信号が見えたので少しずつブレーキをかけ、完全に停止したところで答えた。


「常識的な人は多いですね。前の職場の上司より好きです」


 そう言うとギーカスは腹を抱えて笑った。


「俺ら常識人だってよ。運転手さん面白いねェ」


 何度か一緒に仕事をしているが、一向に名前を覚える気配はない。

 覚えてほしいなと思うものの、覚えなくても支障はないため、もうそれでいいと思っている自分もいる。


 信号が青になり、ゆっくりアクセルに圧をかけていく。


「いやァ、俺、メインの運転手さん好きだわ。サブの人も嫌いじゃねェけど、雰囲気とか会話とか総合して好きだわァ」

「ありがとうございます」


 口では冷静にそう言ったものの、心臓が飛び出そうなくらい歓喜していた。

 気を抜くと涙が出そうなくらい嬉しかった。


 名前は憶えてくれないけれど、その言葉で次の仕事もギーカスだったらいいなと思う程単純な心だった。


 褒められると俄然やる気が起き、いつも以上に丁寧な運転を心がけて目的地まで連れて行った。

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