第2話
あてもなくドライブをして時間を潰し、行きとは違う待ち合わせ場所でリースを拾った。
返り血ひとつ浴びていない様子に感心した。
「あー、楽しかった」
「予定時間より随分と遅かったですね」
「まあねん。痛みに苦しんでいる顔を見ると、ぞくぞくしちゃうの」
「そうですか」
「ちなみに絞殺はやめて、ナイフでめった刺しにしちゃった」
「なるほど、お上手なんですね」
「あら、わかっちゃう?」
「返り血がついていないので」
「結構気をつけているのよ。ほら、ナイフって接近用じゃない?どうしても血がついちゃうのよねー。アタシは上手だから、飛び散らないように、服につかないようにやっているのよぉ」
行きより上機嫌であることが分かり、サツキは苦笑した。快楽殺人者かと思ったが、話は通じるし、話している内容さえ違えば普通の人に見える。
「えっと、貴女名前なんだったかしら?」
「サツキです」
「アタシ、ついこの間このエリアの配属になったのよ。というか、このエリアが初担当なの!」
リースについての簡単な情報は上から先に貰っていたため、それは知っていた。
サツキはこの仕事をして三年が経ったが、初出勤の人間は総じて同じ。返り血をこれでもかというくらい浴び、態度が悪いか無口な人間の方が多数派だからだ。
楽しくお喋りができるリースは貴重であった。
「エリアごとに運転手さんがいるのよね?このエリアはサツキちゃんだけ?」
「いえ、私はメインですが、サブの運転手が結構いますよ。仕事がダブると人手が必要になるので」
「へえ、そうなの。まだよく分からないのよねぇ。たくさん仕事できるわけでもなさそうだし」
不貞腐れるリースをルームミラーで見た後、ハンドルを切った。
「所属して、最低三か月はずっと同じエリア内での仕事です。毎回色んなエリアで仕事をしていると何がなんだかよく分からなくなるので」
「ふうん、そうなのぉ。ところで、貴方の名前も偽名なの?」
「はい。ドライバーを含め、お仲間はすべて上から名前を頂きます」
「サツキちゃんとアドレス交換とかは?一緒にショッピングとかしたいなぁ」
「プライベートのやりとりは禁止されています。どうしてもというときは、上を介して依頼や要求をお願いします」
「面倒ねぇ。ところで、まだ着かないの?」
もう飽きた、と態度で示され、素直なのだなとサツキはリースに好感を持った。暗殺者は何を考えているのかわかりにくい人間が多いため、分かりやすい態度を示してくれると助かるのが本音だ。
「いえ、尾行の車がいましたので。撒いていました」
「えっ!そうなのぉ?」
「リースさんを乗せてすぐですね。現場を目撃されましたか?」
「うーん、どうかしら。あっ、もしかして帰りにナンパしてきたオッサンかしら。ちょっと応えてやったらその気になったとか、やーねぇ」
くすくす笑うリースと、尾行していた車がいなくなったことをルームミラーで確認し、目的地まで車を走らせた。
リースがどこに住んでいるのか、本部がどこにあるのか、そんなことは下っ端のサツキは一切知らない。知る必要がない。そのため、リースをおろす場所も何故ここなのか理解はしていない。何かの、誰かの都合が良いのだろう。
人気のない、あたりに建物もない、あるのは不気味な山道だけ。
そんな場所でリースをおろすと手を振って見送ってくれた。
腕時計を見ると日付が変わっていた。
ガソリンがあと少ししかない。腕時計を見ると十二時をまわっており、ここから一番近いガソリンスタンドは当然開いていない。
仕方ないのでガソリンは明日足しに行こう。
運転は好きだが、ガソリンを注ぐのは面倒だから好きではない。少し憂鬱な気分で帰宅した。
電気をつけずに部屋へ入り、そのままベッドに倒れ込んだ。
シャワーは事前に浴びており、帰ったら寝るだけの準備で仕事へ行ったため、そのまま深い眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます