第24話
リョウから任される仕事が増え、それが定着してきた頃。カナは家で大きな溜息を吐きながら、「人を駄目にする」という謳い文句を見て即購入したソファに身を任せていた。
ここ最近、何故か異様に忙しい。
少し前までは余裕があり、リョウと楽しくドライブデート気分で仕事をしていたのが、最近は忙殺されて、会社を呪う言葉が多く出てしまう。
現在何連勤したかすら記憶にない。恐らく十連勤はしている。暗くなってから駆り出され、家に帰るのは大体朝日が昇る時だ。稀に昼間も働かされるため、カナは疲弊していた。
飾っている女子高生の顔をぼーっと眺める。ハナコと名付けた。ハナコの隣にはジロウがいる。ハナコと歳が近そうな男だ。ジロウもハナコと同じ場所で拾った。
自殺名所に毎日死体があるわけではない。そろそろできたての死体があるかも、と期待して行ってみても、虫が集っていたりして状態が良いものではなかった。カナは虫を持ち帰る趣味はないので、そういう死体は触らずに帰る。
ハナコとジロウ以外の飾り物も欲しいし、リョウの顔も欲しい。しかし忙しさを理由に、何一つ取り組めていない。
どうしてこんなにも忙しくなったのか。五連勤くらいならしたことはある。けれどここまで連勤なのは初めてだ。
リョウは他の仕事もしているようで、カナとの仕事が終われば家には帰らずラボへ行っている。
どうしてこんなにも忙しいのか、リョウには聞けていないがきっとリョウなら理由を知っていることだろう。
ぼーっとハナコを見ていると携帯が鳴った。仕事の連絡だった。
リョウと同じタイミングで鍵を閉め、いつもの車に乗り込む。
疲れているカナとは反対に、リョウは涼しげな表情だった。
「絶対、車を別のものにした方がいいと思うんですよ」
疲れ気味のカナを気遣い、リョウが運転をする。
「最近、死体の数凄いじゃないですか。絶対、何体も運べるトラックとかがいいと思うんですよ」
「気持ちは分かりますが、それだと道が制限されてしまいますので、仕方ありません」
「現場とラボを何往復してるんですかね。昨日、途中まで数えてたんですけど、気づいたら忘れてました。ガソリン代の無駄ですよ。費用削減って必要だと思いませんか?」
「気持ちは分かりますが、規則なので仕方ありません」
いつもより元気のないカナを見て、さすがに働きすぎかとリョウは眉を寄せた。
リョウ自身は大して疲れていない。忙しいとも思っていない。普段が暇なくらいで、今くらいが普通の感覚だ。自分がおかしいのだろうか、と心配になる。
今日で十三連勤目である。実働時間は大体八時間前後で、たまに寝ている時でも呼び出しがある。十三連勤といっても、ただ死体を運んでいるだけだが、もしかして他部署の人間とうまくやれていないのだろうか。それとも初めての十連勤越えで疲れているだけだろうか。
「あ、現場、この近くでしたっけ」
「はい。死体は三体と聞いているので、三袋用意してください」
「はーい」
死体を入れる袋を取り出し、現場に到着するとその三つを持って降りる。
辺りは暗く、街灯は少ない。
道路脇に死体があるらしい。さっさと回収して寝たいな、と欠伸を噛み殺しながらカナが道を歩いていると、目の前の光景にぎょっとした。
「えっ、三体ですよね?」
「連絡ミスでしょうか」
三体と聞いていた死体が、その倍はある。
携帯の光で照らして転がっている死体を数えると、七体もあった。
一度にすべて運ぶことはできない。
三体。頑張って四体なら運べるだろう。
「先輩、どうするんですか?応援呼びますか?」
「そうですね…」
カナが言うまでもなく、リョウは携帯で近くにいる仲間を探したが、全員ここから離れた場所にいる。そしてカナの携帯が、新たな仕事を知らせる通知音を鳴らした。
次の仕事が待っている。けれど、目の前の死体をすべて運ぶことはできない。
「仕方ありませんね、三体のみ乗せましょう」
「頑張れば四体いけそうですよ?」
「いえ、三体です」
「分かりました」
リョウの指示通り、カナはリョウと一緒に三体を車に運び、再び助手席に乗った。
残っている四体を窓越しに見つめ、勿体ないなと思った。
ラボに向かう車内で、カナは疑問をリョウに投げかけた。
「他の回収係、近くにいなかったんですか?」
「えぇ。そして彼等も同様に、他の仕事があるはずです。恐らく、頼んでも来られないでしょう」
「やっぱり皆忙しいんですか?」
「ほぼフル稼働ですね。死体の回収もですが、死体の状態などについて情報部と連絡を取り合ったり、その他面倒なことまでやっている人もいますから」
「面倒なこと?」
「死体が持っていたはずの薬品がないから探して来い、と指示されたペアがいました」
「な、何ですかその面倒な仕事」
「暗殺班が殺した時にはまだその死体が薬品を持っていたそうですから、回収班が到着するまでの間に第三者が持ち去ったか、或いは道に落ちたか。落ちたのなら探せ、ということでしょう」
「そんな面倒な事をやってるペアがいくつかあるんですか?」
「半分くらいのペアはそういう指示を受けたそうです」
「うわー」
そんな指示が降ってこないだけマシか。
カナは素直にそう思った。
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