第17話
リョウはな、めちゃくちゃ頭が良いんだぞ。
一緒に組んでるなら知ってると思うがな、あいつは冷静沈着って言葉が一番似合うし、洞察力も優れてて、他部署から引く手数多なんだよ。
あのルックスで女にもモテてな、行く先行く先で女を堕としてくるんだぜ。顔が整ってる奴は違う。俺みたいな骨太の男じゃ誰も振り向かないのによ。
お前と組む前は別の女だったんだがよ、この女もリョウの…おっと、これは別に要らねえ情報だよな。とにかく、リョウのモテっぷりは凄くてよ。嫉妬しようにも欠点がないもんだから、指くわえて見てることしかできないんだ。
リョウは優しいから困ってる奴がいたら助けることもある。まあほとんど打算なんだが。それでも助けることに変わりないだろ。情報部の奴等に対してもそうなんだよ。パイプを作っておいた方が色々と便利だから、って理由で力を貸してやってたわけ。
情報部が思ってた以上にリョウが使える奴だから、死体の回収だけさせておくには勿体ないって、上にかけあったって話だ。
死体を回収する人間は特別な能力がなくともできる。だが情報部は違うだろ。情報収集や潜入、ハッキングとか色んな技術が求められる。人手不足の中、どっちが優先的に必要か明らかだ。だから、まあ、リョウが選ばれたのは当然だし、引き抜かれてもおかしくはない。
リョウが抜き出て仕事ができる男だったが、仕事ができる奴は他にもいる。もしもリョウが異動になったとしても、別の人間が相方になって面倒みるから、心配すんな。
二度と会えなくなるわけじゃねえし、それになによりただの噂だからな。
落ち込んでいるように見えるカナを慰めるように、ワタリは一気にまくしたてた。
それでも何の反応もない。
どうしたものか、とワタリが困惑していると休憩室の扉が開き、電話を終えたリョウが戻って来た。
リョウの姿を確認するとワタリは立ち上がり、あとは任せた、と逃げるように部屋を出て行った。
何のことか分からないリョウは元気のないカナを視界に入れ、ワタリが余計なことを言ったのではと眉を上げた。
「行きましょうか」
カナに声をかけると無言のまま立ち上がり、小さく頷いた。
ショックを受けているのか、怒っているのか、リョウには判別できない。
車に乗り込むまで言葉を発することはなく、カナが運転を初めて五分が経過したところで漸く口を開いた。
「先輩、情報部に異動するって本当ですか?」
そんな話が出てくるとは思わず、数回瞬きをした後、「話があったのは本当です」と答えた。
一体どこから漏れたのだろうか。
カナの態度からしてワタリが話したのだろうが、情報源はどこだ。
「本当なんだ!!」
「えぇ、まあ」
「何でですかぁ!?情報部に異動するんですかぁ!?」
泣き声かと錯覚するくらいには、悲痛な叫びだった。
だから元気がなかったのかと腑に落ちた。
ぐすん、とすすり泣く音が耳に入ると、リョウは居心地悪く息を吐いた。
カナの目には薄っすらと涙の膜が張られている。
「何も泣くことはないでしょう」
「だって…だって!もう先輩のご尊顔を拝めないんですよ!?憎き情報部に先輩を渡すなんて耐えられません!」
唇を噛みしめるカナの瞳からは一筋の涙がこぼれた。
リョウは見ない振りをする。
「何で異動なんかするんですか。もしかして私が嫌なんですか!?」
「信じられないような目で見ないでください。もしかしなくても、いつ死ぬのかと嬉々として聞いてくる後輩は嫌に決まっているでしょう」
「そ、そんな...!」
あからさまに肩を落として沈むカナに、悪い事をしたなと一瞬でも思ってしまう。
純粋な少女を弄んでいるようで良い心地はしない。
「私、諦めません」
「はい?」
「情報部なんかに渡しませんから!」
「いえ、あなたの一存では…」
「絶対に!!渡しませんから!!」
大声で宣言をしたカナは、切実だった。
大好きなリョウを情報部なんかに渡さない。渡してたまるか、と気持ちを強く持つ。
まるで恋愛が絡んだ三角関係のようだ。
カナがぐすぐすと泣いている隣で、リョウは慰めることなく視界からカナを消していた。
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