第5話

 新たな指令が届いた。彼女たちの新たな非日常にちじょうが始まる。


 ターゲットは街の一等地で喫茶店を営む店主。そして今回も例に漏れず組織が店主をターゲットにする理由は記されていない。それでも彼女たちは店主を消すだろう。


 彼女たちにはそれ以外の選択肢はない。


 今回の指令書には珍しく一言付け加えられていた。

『追伸 最近、組織の者が襲撃を受けている。相手は単独だが、相当な手練だ。真っ赤な髪の女とのことだ。気をつけるように』


「暗殺自体は簡単そうね。気になるのはこの襲撃者…」


「―――うん…そうだね」

 怪訝な表情を浮かべるエマに問いかける。

「どうかした?」


「ううん、何でもない。大丈夫」

 笑顔で答えた彼女だが、すぐに物思いに耽るように目を伏せた。



◆◇◆◇◆◇◆



 彼女たちは準備を始める。


「――ちょっと、リサ…」


「な、なに?」


「コソコソしてると逆に目立っちゃうよ」


「で、でも…みんなが変な目で見てくるから…」


「それはリサがそんな風にしてるからでしょ?普通に歩いてればなんてことないよ」


 現在エマがいるのは街の大通り。昼間ということもあり、それなりに賑わいを見せている。


 そしてエマの陰にもう一人――エマの背中をつまみ、縮こまり、不安そうに視線を動かしながら歩いている人物――リサだ。


 リサがエマにしがみつくような形で大通りを歩いている。当然、好奇の視線を集めてしまう。


「―――ぅぅ…帰りたい…」


「え?」


「もう、帰りたい……」


「もう少し、もう少しで着くから!」

 必死になだめながら目的地へと向かう。


 それにしても滅多にいや、一切外出しようとしないリサがなぜエマにくっついて歩いているのか。それはほんの30分前の出来事。


『じゃあ私、その喫茶店に行ってくるね』


『―――私も…』


『ん?』


『私も、行くわ…』


『わかっ……ん?―――ええ!? リ、リサがそ外にでる…の?』

 衝撃を露わにするエマに対し、ゆっくりと首肯するリサ。


『ど、どうして?』


『心配なのよ。襲撃者のこともあるし…』

 

『そう…ありがとう』

 そのような会話を経て、現在に至る。


「到着っ! ほらお店に着いたから、手離して。ね?」

 エマの呼びかけには応じず、背中を摘んだままリサが問う。

「――混んでる?」


「いや、全ぜ………」


「どうかしたの?エマ?」

 窓から店を覗く。店は混んでいなかった。それどころか一人も客がいなかった。

なぜなら――、

「――――臨、時、休、業……」

 エマが扉のかけ看板を静かに読み上げる。


「「――――」」


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