第4話

 ゴドフリー暗殺から数週間が経った。

 世間というものは良くも悪くも移りゆくもので、散々盛り上がっていた彼の不正疑惑や黒い噂は気がつけば話題にもならなくなっていた。ゴドフリーのゴの字も見なくなったと言っても過言ではないだろう。


 世間は今、また別のゴシップに熱を上げている。


 人々の記憶からテップス·ゴドフリーという人物が消えていく。



 彼女たちはというと


“スースー……”


 太陽が南の空に高く輝く頃、エマは机に突っ伏しながら、穏やかな寝息を立てていた。

 彼女のそばには一冊の本が落ちている。どうやら読書中に寝落ちてしまったようだ。


 ゴドフリー暗殺で組織からたっぷりと報酬を得た彼女は現在、仕事暗殺任務もなく毎日を自由に使える状態だ。


 そのためエマはこの日々を悠々自適に―買い物や昼寝、読書、昼寝、料理―したいことをしながらのんびりと過ごしている。


 リビングに姿のないこの家のもう一人の住人、リサはどうしているのだろうか。

「私は暇じゃないわよ。研究があるもの」

 ピシャリとそんな声が聞こえてきそうな面持ちで何かを調合している。


 2人の住む家の地下には彼女専用の研究室がある。ここ数週間リサは毎日のようにそこに籠もって研究を続けている。


 また研究に必要なものの買い出しはエマに頼んでしまうため、自宅の敷地から一歩も出ることがない。結果として彼女はエマ以外の人間と全く会話していない。


 そこまで熱中している研究―それはやはり毒だ。新たな毒、様々な目的にあった毒を作り出すこと。それこそが彼女の研究の最大の目的だ。


 もちろん、その研究の中で薬になるようなものを見つけたりもしている。まさに薬と毒は紙一重というやつだ。


 それぞれがそれぞれの時間を好きに使い、自由に生活している。いつ次の暗殺の命令が来るか分からないため、今この時を最大限好きに使う。


 それが彼女たちのスタンスだ。



 こんな生活――好きに時間を使い、たまに仕事をする。そしてまたのんびりとした時間を迎える。そんな2人にとっての日常がいつまでも続く、彼女たちはそう思っていた、それを望んでいた。




そう、あの時までは…




――嘘つき


――そっちだって


 月夜、2人は対峙する。


 月光に輝く銀と、陰に溶け込む黒が交錯し…


 朝日が登る頃○○は静かに告げる。

――さようなら◇◇。


 そして、彼女は死んだ。

 彼女はの手によって殺された。


 彼女たちはまだ知らない。


 これからいくつかの出来事を乗り越えたその先にある、この物語のエンディングを。

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