第3話

 毒についての話―主にリサからの説明―から2週間ほどが経った。


 彼女たちは準備を進めていく。エマがターゲットの行動などの情報を集め、リサがそれを基に計画を練る。


 筋書きはこうだ。

『エマがメイドの一人に変装し、潜入。

ターゲット《ゴドフリー》と2人切りになったところで麻酔を打つ。そして最後に毒を刺す』

 たったこれだけ。書き出してしまえば至ってシンプルな計画だ。


 当然すべての行動が予想通り、計画通りに行くとは限らない。暗殺を成功させるためには入念な準備が必要だ。


 不測の事態を予測し対策を考える。


 暗殺者を暗殺者たらしめるのは強い武器でも身体能力でもない。それは様々なリスクを想定した計画だ。


  暗殺は始まる前に終わっている。




◇◆◇◆◇◆◇

「ホント、計画通りになって良かったわ」

 この一ヶ月を思い返しながらリサが呟く。


「あとは無事に病死だって判断されるのを祈るだけだね」

 今回の指令―病死に見せかけること―を達成するために出来ることは全てやったと言ってもいいだろう。


 もうすぐ彼が見つかる。

そう、リサの毒でエマが殺した彼が。そこで彼の死因が何と判断されるか…病死、あるいは―――




 翌朝、彼女たちの手元には一部の新聞があった。その一面にはデカデカと強調された見出しが見える。

『テップス•ゴドフリー氏死去』


 読み進めると、彼の死因についての一文が見つかる。

『ゴドフリー氏の死因は持病の悪化による心筋梗塞と思われる。』

 ほぼ同時にその一文を読み終わった2人は顔を見合わせて、ホッとしたような笑みを交わす。

「これで今回の仕事も完全に、終わり!」

 エマが高らかと宣言する。




――テップス•ゴドフリーの死に対し、世間の反応は冷たかった……いや熱かったのかもしれない。


 新聞社は彼の生前の不正や黒い噂などをピックアップし特集を組んだ。横領、脱税、恐喝……他にも彼が今の地位を手にするまでの様々な疑惑が書かれていた。


「なかなかの言われようね」

 記事にざっと目を通したリサがシニカルに言い放つ。


「これってどこまでがホントの話なんだろうね〜」

 エマがほんわかした調子で尋ねる。


「8割方本当でしょうね。ほら、私達が調べてる中でもあったでしょ、怪しげな取り引き」

 約一ヶ月間、密着する中でゴドフリーと怪しい黒服との取り引き―大きな金の動きというものを目撃している。

「それにしても、これだけの情報をこの早さで発表するなんて…組織が一枚噛んでるのかしら……」

 リサが思案しながら呟く。



 彼女たちに命令を出している組織―その全貌は彼女たちには分からない。

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