第45話 人間像の不一致①
8月2日
ユンのお父さんの運転する車は、午前7時の集合時間より10分早く、ソウル体育大学の駐車場に着いた。
駐車場には2台の大型バスが既に停車していて、その周りに選手たちが集まっていた。
「じゃあ、気をつけてね。」
「うん。」
「ありがとうございました。」
お父さんはトランクを閉めると、ニコリと笑って手を振り、車に乗り込み帰って行った。
監督やコーチ達に挨拶をして、ユンは4年の集まっている方へ向かった。
私は女子3人男子2人のマネージャー達の方へ向かう。
「おはようございます!宜しくお願いします。」
頭を下げると、5人が和かに歓迎してくれた。
「1・2年と3・4年別れて乗るんだけどさ。」
「あぁ、バス?」
「うん。マネージャーも2台に別れて乗らなきゃいけないの。私たち6人じゃん?2人席なのに3人ずつじゃ寂しいから、4、2で別れよっかって話になったんだけど良い?」
「私に聞かなくても大丈夫だよ?私は新人マネージャーって事でお願いします。」
「そう?じゃあ、アミちゃん!私とペアになろう?(笑)」
「うん!宜しくね!(笑)」
マネージャーの中で、一番話をする4年のチェリンが申し出てくれた。
男子2人がペアになり、自然と3つのペアが出来た。
4人のマネージャー達は、私たちが1、2年の方に乗るからアミちゃん達は3、4年の方に乗りなと言ってくれて、背番号8番のジヌの事が少し怖かったがせっかくの好意なので、ユンの居るバスに乗る事にした。
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目的地は
渋滞がなければ、ソウルから車で3時間半位で行けると聞いた。
途中の大きなSAで休憩が2度あるそうだ。
旅行カバンから一眼レフを取り出し肩に掛けた。
いち早くトランクに旅行カバンを置いて、荷物をトランクに詰め込む選手達の姿や、乗り込む姿をカメラに収めた。
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一度目の休憩は1時間後にやってきた。
1番前に座る私たちの横を我れ先にと3、4年の選手達が走って出ていく。
その途中、ユンに声をかけられた。
「アミ、外!」
バスを降りると、ユンが待っていてくれた。
トイレを出たら売店で集合と、一旦別れた。
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トイレを出て、売店へ向かおうと向きを変えた時、ジヌと目が合った。
その瞬間、ジヌは私に向かって歩き出した。
身構えていると声を掛けられた。
きっとまた、文句を言われるに違いない。
「あのさ。」
怖くて返事が出来ず固まってしまった。
顔を見上げる事が出来ず、お腹の辺りを見ていると
「俺の事、怖い?」
と、言われた。
「え?」
顔を見るとジヌは、困った表情を浮かべていた。
「そんな、事は…。」
「いや、怖いよな。良いよ。」
「あの…。何か?」
「ホームページのフラッシュ動画って、アンタが作ったの?」
「うん…。」
「親がさ2人とも…、良い写真だって…。」
「うぇ!?」
「他にも写真があるなら…貰えないか聞いて来いって言うんだよね。」
「いいよ!あげるよ!」
嬉しくなって声を上げてしまった。
ジヌは少し驚いた顔をしたあと、真顔に戻った。
「どうしたら良いかな?」
「USBでも、ディスクでも、持って来てくれたら写真を入れて返すよ。」
「わかった。言っとく。」
ジヌはそう言うと、ふり返り行ってしまった。
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売店に向かうと私に気付いたユンが笑顔で迎えてくれた。
ユンは両手にお菓子やパンなど、美味しそうな物を沢山抱えていた。
それなのに、まだ足りなそうに物色している。
「いいね。ダイエットと無縁の人は。」
「これ買ったらソフトクリーム食おうぜっ。」
「話し聞いてた?」
「ソフトクリームなんか、暑さで無くなるって。」
ユンは私に甘い。
私はユンの誘惑に弱い。
ソフトクリームを一緒に食べているとまた、ジヌに声を掛けられた。
「デート気分かよ。」
「そうだよ?(笑)へへっ(笑)」
ユンが満面の笑みで答えると、舌打ちをして行ってしまった。
「あんまり煽ったりしないでよ。」
「人のことなんか放っておけっつうのな。突っかかって来てんのあっちだからな?」
「そうだけどさ…。」
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ソフトクリームを食べた後、バスに戻りそれぞれの座席に戻った。
2回目の休憩は買い物はせずにトイレだけ。
それだけの事を、ユンと一緒に行動せずにはいられなかった。
自分でも少し場違いな気がした。
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道路は少し混んでいて、予定より1時間遅い13時に宿泊施設に着いた。
そこは三階建てのアパートの様な造りの大きな建物で、中には大浴場もあるらしい。
と言っても、監督やコーチを含めた男子が60人程居る為、女性用大浴場の方も男子が使う。
女子は4人しかいないから、近くの銭湯に行くそうだ。
宿泊施設を切り盛りしている40代のご夫婦が、スポーツや勉強に励む学生を応援したいと学校行事専門の施設にしているという。
ご夫婦は離れから出てくると、ニッコニコの笑顔でお出迎えしてくれた。
部屋割りは背番号順で5人ずつだった。
2人の男子マネージャーは4年と、3年で学年が違う。
それぞれの学年の選手と同じ部屋だそうだ。
部屋には班長がいて、率先して役割を果たそうと動いている。
班長が部屋の鍵を貰い、混乱する事なくあっと言う間に部屋に入って行った。
私たち女子4人は、監督の部屋とコーチ2人の部屋の間の部屋だった。
男子ばかりなので、一応間違いがない様にとの配慮らしい。
私たちの部屋の向かいの部屋にも、コーチが3人。
安全管理がなされている。
(コーチと間違いが起きたらどうするんだろう?これって意味があるのかな?まあ、選手の隣の部屋はちょっとね、とは思うけど…。)
少し疑問に感じたが、言わないでおいた。
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