第44話 予定変更

新婚旅行から帰った2日後、私たちは余韻に浸る暇も無く、それぞれの日常に戻った。


新婚旅行は…


それは、良かったよ?


『とても楽しかった。』


その一言に尽きる。

旅行先で喧嘩になる様な仲でも無いし…。

2人の思い出が増えて嬉しい。

ユンのとびきりの笑顔を、スマホの待ち受け画面に設定した。

見るたびに顔が緩んでしまう。


振り返るのはまた、、


今度にしよう。




――――――――――――――――――――


「ヒョヌ先生!おはようございます。」


「あぁ、おはよう。」


サークル活動の前に職員室に向かうと、タイミングよくヒョヌ教授を捕まえる事が出来た。



「チケット。ありがとうございました!」


「いやいや。その様子なら楽しかったようだね(笑)」


「はい。とっても(笑)これ、お土産です。」


「これはこれは。わざわざありがとう(笑)」



ヒョヌ教授とバスケ部のスヒョン監督へのお土産は、地酒と海産物のおつまみセットにした。

今頃ユンも監督に渡しているだろう。



「やっぱり良いものだな(笑)」


「なんですか?」


「娘が幸せになる事だよ。この歳になって知るとは夢にも思わなかったよ…。良かった。本当に良かった。」


ヒョヌ教授が私の肩を叩きながら目を細めている。

娘さんが生きていたら今頃は、お孫さんも大きくなっていただろう。

ヒョヌ教授は辛い体験を乗り越えいま、他人の幸せに目を細めている。

私はヒョヌ教授の為にも、幸せな姿を見せ続けなければいけないと、使命感の様なものを感じていた。



「皆んなの所に先に行ってくれるか?準備してすぐに行くから。」


「分かりました。」




サークル部屋に入ると、半数程のメンバーが来ていて4年生は3人とも来ていた。

説明もそこそこにお土産で用意しお菓子を配る。

箱に並べられているチョコと、クッキーの2種類にした。




「チェジュ島!?」


ウソクがお菓子の箱に書かれている文字を読みながら驚いている。


「あ、うん…。」



「もう夏休みの旅行、行って来たんだ?」


ハナが食べながら聞いた。


「う〜ん。そ、うだね。」



「あ!もしかして!新婚旅行なんじゃない?」


ハミンが満面の笑顔で言った。


「バレたか(笑)よく分かったね。」


「そうなの!?」


ハナが元々大きな目を、落っこちそうな位に見開いている。


「あはは!(笑)3人には違うお土産もあるから。後で渡すね。」


その時、ヒョヌ教授がサークル部屋に入って来た。




「おはよう。」


『おはようございます!』


「今日、君たちに撮って貰うのは夏だ。」


皆んなで顔を見合わせた。

全員の顔に『夏ってなんだ?』と書いてある。


「写真でも、映像でも良い。スマホを使い夏を撮って来て貰おう。誰がどう見ても夏を感じられる作品を作りなさい。制限時間は、そうだな2時間にしようか。今日もなかなか暑いから、水分補給をしながらやるんだよ。では行ってらっしゃい。」


「は〜い。」



「4年、ちょっと集まってくれ。」



ヒョヌ教授に集められた私たちは、ひとまずイスに座らされた。


「スケジュールの変更があるんだ。」


「変更?ですか?」


「うむ。8月3日から3日間、イ・ジョンウ主演の映画の撮影見学の予定だったが、中止になってね。」


「中止!?」


ハナの大きな目が、また大きくなった。



「撮影中に怪我をしてな。まだおおやけにされてないから口外しない様に。」


「怪我!?大丈夫なんですか?私、楽しみにしてたのになぁ(哀)」


「怪我はそこまで酷く無いらしいから、再開されたら見学出来るようにするよ。」


「じゃじゃじゃ!その、その日!から3日間どうなるんですか!?」


「あはは!アミちゃんどうしたの?(笑)」


早口で質問する私を、ウソクが笑った。



「う〜ん。どうしようか?」


ヒョヌ教授は逆に、私たちに問いかけた。

4人で顔を見合わせ、頭をフル回転させる。

何も思い付かなければ、このまま予定が入らないか、サークル活動になる。

私は心の中で予定が入らない事を祈った。


「何も浮かばない。へへ(笑)」


ハミンの笑顔に釣られて皆んなが笑った。


「じゃあ、休みにしようか。暑いしな。」


「はい!そうしましょう!!」


予定が無くなった事に食い気味になっている私を、4人は不思議そうな顔で見ていた。


「ユンくんと何かあるんだね。」


「アミちゃんは分かりやすいからね。」


ハナとウソクが呆れた顔で言った。



「話しはこれだけだ。君たちも夏の切り取り。行って来なさい。」





――プルプルプルプル


何を撮ろうかを考えながら、ユンの携帯に電話を掛けたが出なかった。

バスケの部活中は、休憩でしか携帯は触れない。

だから出ない事は想定内。

着信履歴を残す事が目的だった。


(お昼にでも掛かってくるかな。)




ユンからの折り返しは、想定よりも早かった。

ハナと一緒に構内を周り、あっと言う間に写真を撮り終え、サークル部屋で涼んでいる時だった。





「もしもし。」


「どうしたの?何かあった?」


「8月2日からの合宿さ、撮影が無くなって行けるようになったんだけど、もう遅いかな?」


「何で無くなったの?」


「帰ってから説明する。」


「じゃあ、監督に聞いてみるよ。」


「うん。お願い。」


「それだけ?(笑)」


「それだけだよ?(笑)」


「まぁ良いや(笑)じゃあな。」


「うん。頑張ってね(笑)」





「何よ、そうゆう事?(笑)」


「うん(苦笑)夏休み中、2回合宿があってさ。2回とも行きたかったんだけど、映画の撮影はやっぱりさ、行きたいじゃん?だから2日からの合宿の方は諦めてたんだよね。」


「合宿って暑くて大変そう(苦笑)」


「大変だけど楽しいんだって!運動部に入った事ないから、全然想像つかないんだよね。」


「私も!未知の世界だわ(笑)」





――――――――――――――――――――


映画の撮影見学は主演俳優の怪我で無くなってしまった。

怪我の原因は分からないが、右ふくらはぎの肉離れらしい。

「3週間程で撮影を再開するのではないか。」

と、ヒョヌ教授は言っていた。

私は念の為に、2回目の合宿の日程を伝えておいた。

「一応は頭に入れておくが、新しい撮影日程によっては合宿を休む様に。」

と、言われてしまった。


これとは別の映画撮影の予定もある。

もし、全ての予定が被らずに経験出来たら…。

不謹慎だがほんの少しだけ期待してしまう。


大学生活最後の夏休みは、私にとって楽しみがいっぱいだった。

ユンは通話の後すぐ、監督に話してくれて

ついでに合宿参加同意書を書いて、提出までして帰って来た。

大型バスの座席は空いているし、泊まる場所は宿泊所を丸ごと一棟借りる為、問題は無い。

頭数が増えた事で、一人当たりの負担額が少し減ると逆に感謝された。


私は、ユンの机に置きっぱなしにされていた、合宿の予定表を持ってベッドに入った。

参加できる事が嬉しくて、3泊4日の全ての日程を覚えてしまいそうな程、何度も繰り返して読んでいる。

ユンはそんな私を、

「可愛いなぁ。」

と、笑いながら眺めていたが、いつのまにか眠ってしまった。

私は予定表を置いて、夢の世界にユンを追いかけに行く事にした。


諦めていた合宿に行けることが嬉しくて、興奮しているからなかなか眠れないだろうと思っていたけど、思った以上に早く


記憶が途切れてしまった。

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