第43話 誕生日プレゼント

夏休み初日、私は朝から頭を抱えていた。


パジャマのまま自分の机に座り、バスケ部のスケジュール表とヒョヌ先生の作ったスケジュール表を並べて、文字通り頭を抱えている。





「こっちには気を使わないでさ、やりたい事やれよ?」


「どっちもやりたいから悩んでんのっ。」


「あっそ。」


「体が2つあったら良いのにな。」


「アミが2人居たら、すんげー面倒くさそう(笑)」



――ガチャ




ユンはそう言うと、笑いながら部屋を出て行った。





ヒョヌ先生はこの大学生活最後の夏休みに、沢山経験をさせてあげたいと色々な撮影スケジュールを入れてくれていた。

先生の撮影助手や映画撮影の見学など、やりたくてもやれない事ばかりだった。




バスケ部の方は地方遠征も来て良いと言ってくれていて、3人の女性マネージャーと同じ部屋で良ければ、皆んなと同じ安い宿泊費で泊まれるという。

3人の女性マネージャーは元々好意的にしてくれていて、すでに普通に話せる仲だし問題はない。

遠征先では私も部員の一員として、洗濯や掃除などのお手伝いをするつもりでいる。

人手があればバスケ部的にも助かるから、ぜひ来て欲しいと誘ってくれた。


地方の遠征先は自然の豊かな所で、夜は河原でバーベキューをしたり花火で遊んだりするらしい。

スイカ割りをしたり天体観測をしたり、イベントが沢山あって昼の練習や試合がキツくても総じて “楽しい” が勝つとユンが言っていた。



ユンと一緒にそんな事が出来たら

絶対に楽しいに決まっている。



――ガチャ


「あぁあ!!!全部やりたいぃ〜!!!」




「うるせっっ(笑)」




今日はユンの両親が、私の誕生会を開いてくれるらしい。

本当は7月9日なのだけど、私でさえも忙しくて誕生日を忘れていた。


お父さんに、

「何か食べたいものはある?」

と聞かれて

「ローストビーフ!」

と即答すると、嬉しそうに笑って

「よぉし、任せとけ!」

と言ってくれた。


今日は私の父も単身赴任先から帰って来てくれる。

今日を一番楽しみにしているのは、私の父親かもしれない。

私やみんなの体調を気にして、数日前から毎日電話をかけて来ていた。





夜のパーティーまでの間、ユンと私は部屋に篭らせてもらう事にした。

ユンの両親にも、部屋に来ないでねと頼んである。

外に出れば暑いし、部屋に居ればお金も使わなくて済むから、部屋の中で誕生日デートのていで過ごす。

映画を観たり、ホテルに行ってやる様な事を…したり?


プレゼントも買わないでと頼んであるから、外に出る必要が無い。

ユンと部屋で2人だけの時間を過ごす。

私にはこれ以上の幸せは無い。



ユンはペットボトルの飲み物を両手に抱えて持ってきていた。

その飲み物を簡易冷蔵庫に補充してくれている。


ポットやコーヒーに紅茶など、温かい飲み物も既に用意済み。

お菓子も沢山ある。




「悩むのは後!早く来て。」



ユンは私の腕を取ると椅子から立ち上がらせ、ベッドに倒すと自分も横になり抱きついた。



「こっちが先なの?」


「映画を観てからもあるよ(笑)」


「ホントバカだね(笑)」 


「だってアミが好きなんだもん。」


「ユンくんのそうゆう、バカなとこも好きだよ(笑)」


「バカ付けないで言って。」


「ユンくん…大好きだよ…。」







大好きなユンと過ごす何もない日は、どうしてこんなに早く時間が過ぎるのだろうか。

これでは早く歳を取ってしまいそうだ。

カーテンの向こうはすっかり暗くなっている。


素っ裸のままベッドに潜り込み、眠りそうになっていた時だった。

家の前に一台の車が停まった気配がした。


 

「ねぇ?」


「ん?」


「そろそろ降りる?」


「もうちょっと、良いじゃん。」


「ふふっ(笑)」



ユンは私を抱き寄せるとキスをした。

ユンには申し訳ないが、長く続くキスに集中する事が出来なかった。

なぜなら、部屋の前や下の階をバタバタと足音が行ったり来たりしているから。




「ムリ。降りよ。」


「くっそー!(苦笑)」




――――――――――――――――――

素早く着替えて、2人で一緒に一階まで降りて行くとリビングに美味しそうな匂いが充満していた。

一気にお腹が空いてくる。

ユンの両親は、沢山の料理の調理をすでに終わらせていて、テーブルの上には料理も食器も全て揃っていた。



私の両親との挨拶もそこそこに、6人がテーブルに着くとユンのお父さんが、シャンパンのコルクを抜いてくれた。

一連の動作が慣れていてカッコ良い。


6人で久しぶりの乾杯をして、パーティーが始まった。



「ローストビーフ美味しそう!」


「今日は特に上手く焼けたよ。さ、最初にアミちゃんに切り分けてあげよう(笑)」


「ありがとうございます(笑)」



お父さんのローストビーフは、やっぱり美味しい。

私の両親も大絶賛で、なぜか私が鼻高々で気分が良かった。


4人は、ユンと私の元気になった姿を見ながら目を細めている。

心から安堵している様だった。




「さ、ケーキの準備をしましょうか。」


パーティーが始まって2時間ほど過ぎた頃、ユンのお母さんがそう言って冷蔵庫にケーキを取りに行った。

ユンのお母さんの作った糖質を抑えたケーキには、数字の『2』の文字を模ったロウソクが2本立っていた。

バースデーソングを歌って貰ってロウソクを吹き消すのは、やっぱり少し恥ずかしい。

だけど、いつも祝ってくれる人が両親しか居なかった私にとって、沢山の愛する人達にお祝いしてもらえて心から嬉しい。



「じゃ、ここでプレゼントを渡さないとね。」


ユンのお父さんが嬉しそうに席を立ち、テレビラックからA4サイズの茶色の封筒を取り出すと戻ってきた。



「え?何かしてくれたの?」


「いや、知らない。」


ユンに聞くと首を横に振り私と同じ顔をした。

ユンのお父さんが席に着き封筒を私に渡した。



「アミちゃんに。と言うより、2人にプレゼントだよ。」


ユンと目を見合わせ封筒の中身を出した。


航空会社の社名の入った封筒と、ホテルやレストランのパンフレットにエクセルで作ったスケジュール表が1枚入っていた。


航空会社の封筒の中には航空券が入っている。

確認するとチケットが4枚。

ユンと私の名前が入っていた。



「何ですか?これ。」


「僕達だけじゃなくて、アミちゃんのご両親と一緒に4人で用意したんだけどね(笑)」



4人の顔を素早く順番に見ると、穏やかに嬉しそうな顔をしている。



「チェジュ島に行く飛行機の往復チケットだよ。ホテルも予約してある。この夏休みしか時間は無いだろうし、3泊4日で新婚旅行に行っておいで。」



ユンが目を丸くして4人の顔をキョロキョロと見ている。

その顔を見て4人が笑い出した。

私は、涙で視界がボヤけてしまっている。


言葉に詰まる私に代わって、ユンがお父さんと会話を始めた。


「って、いつ?」


「明後日、出発(笑)」


「明後日!? 俺たち、スケジュール…」


「大丈夫。ちゃんと相談したから。スヒョン監督には休みを入れてあるし、ヒョヌ教授は撮影の予定を入れないでいてくれているよ。」


「はぁ??(苦笑)」


「監督からはレストランのコース料理とワイン、ヒョヌ教授からは映画歴史博物館と美術館のチケットを頂いてる。結婚祝いと復帰祝いだそうだ(笑)」


「人たらしも、ここまで来たら怖いって…。」


「人たらし?」


「アミの事!アミに関わる人は皆んなアミが好きになるんだよ。だから人たらしって言ってんの(苦笑)」


「あぁ、なるほどな!分かる気がする(笑)」


「お父さんっ(泣)」


「あはは。褒めてるんだよ?(笑)」



2人の母が私の姿を見て、笑いながらもらい泣きをしていた。

私の父はお酒で気分が良いのか、褒められて気分が良いのか満面の笑みで私を見つめていた。





ケーキを食べた後、男性3人は外にお酒を飲みに行ってしまった。

私たち女3人はテーブルの上を素早く片付け、順番に入浴を済ませた。

その後リビングに集まり、紅茶を飲みながら話しをした。


女が集まると話が止まらないのは、どうしてなのだろうか。


楽しい夜はあっという間に更けていき、笑い疲れた私たちは話を切り上げ、それぞれの部屋に入る事にした。

私の両親は客室で泊まることになっている。



私はユンが気になり、ベッドの上で帰りを待とうと頑張って起きていたが待ちきれず、

知らぬ間に眠ってしまっていた。



一体、今は何時なのだろうか?

そっとベッドに入るユンの気配で起きた私は

目を瞑ったまま、お酒臭いユンを抱きしめた。

ユンは私の腕の中で、声を発する事も無くあっという間に眠りに就いてしまった。

安堵した私もユンを追いかけ

すぐにまた、眠りに就いた。



こうして


私の人生で一番幸せな誕生会は

幸せなまま幕を下ろした。





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