第40話 スホside:生き証人
大学3年の12月。
アメリカの体育大学が姉妹校提携を結ぶための大学を探してるとかで、うちの体大が飛びついたらしい。
それも、バスケ部を使ってプレゼンをすると聞いた。
キャプテン、副キャプテンと学年一の注目選手5人の紹介映像を使って姉妹校提携を目指すらしい。
俺たち3年からはユンが選ばれた。
まぁ、そうだよな。みんな納得してる。
でも驚いたのが、その映像を作るのが外部の人間でさらには学生らしい。
藝術大学の3年生4人が撮影に来た。
初めての撮影があった次の日、ユンの様子がおかしい。
ため息ばかりでミス連発。
さぞ、シオンキャプテンに怒られる。
と思いきや…。
慰めてる?
訳わかんねぇ。
監督やコーチはめっちゃ怒ってる。
俺、ユンが怒られてるトコあんまり見たくないんだけどな。
だってさ…
中2の時からユンの隠れファンなんだもん。
中2の夏の大会。
バスケ部男子の試合にバスケ部女子がたくさん見に来てた。
その時付き合ってた同じ学校のバスケ部の彼女に聞いたら『みんなソン・ユンって人を見に来てる。』と言った。
教えてもらった奴を見たら体は華奢で肌は真っ白。
笑いもしないし話す様子も無い。
何が良いんだ?
理解が出来なかった。
ユンの学校の試合を知らせるアナウンスが入った。
見に行ってみる事にした。
奴は同じ中2のクセにスタメンだった。
試合前あんなに静かだったのに、積極的に動いて点数を入れまくる。
スリーポイントを2回連続で入れたのを見て
「かっけぇ!」
テンションが上がった。
試合が勝って終わって、どんな顔すんのかな?って思ったら、
ふっ。
と、笑っただけ。
それだけなのに女子は倒れそうになってた。
「マジかよ?(笑)」
俺がファンになれたのは、俺もスタメンだったしポジションが違ったからだと思う。
俺みたいに、かっけぇって思う奴もいたけど
嫌いだと言う奴も居て男子からの人気は好き嫌いがハッキリ分かれてた。
ユンの何がカッコいいって、俺みたいに必死にならないでもモテるところ。
俺は性格上ふざけるしか出来ない。
女子を笑わせてバスケではビシッとキメる。
この方法で今までずっとモテて来た。
一応今まで、彼女が居ない時はない。
ユンのファンが言う
『クールなところ』
に、俺もファンになった。
中3の冬、風の便りでユンがソウル西校の推薦を貰って進学すると聞いた。
俺も行きたかったけど家からはちょっと遠い。
寮も無かったから諦めた。
俺の高校のバスケ部の女子にもユンのファンは居て
そいつらに試合の時の写真を撮って来るように頼まれた。
俺は元々ユンのファンだし嫌では無いが
「何で俺なんだよ?」
とか何とか言いながら引き受けた。
・
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高2の春
大きな大会で俺たちの高校とユンの高校が決勝まで進んだ。
結果、俺たちは負けてしまった。
悔しかったけどシオン先輩とジェヒョン先輩、おまけにユンも居て勝てる訳がない。
全力を出し切ったし悔いは無かった。
その大会で待機場所がソウル西校の隣になった。
写真を撮るには絶好のポジション。
友人たちは、お昼休みとかオフの写真が見られるのが嬉しいらしいが今回は見せて良いものか悩んだ。
ユンが彼女とずっと一緒にいたから。
俺の友人たちは、女とつるまない硬派な感じも好きと言っていたからめちゃくちゃ悩んで、休憩中の写真は撮れなかったと誤魔化して見せない事にした。
その彼女はどこか個性的で、可愛いって事は分かるんだけど、俺の好きなタイプでは無い。
こんな感じの子が好きなんだ?と意外だった。
その彼女はユンと居られる事が嬉しいってオーラを放っていてニコニコと幸せそうにしてた。
ユンの方は、その彼女がよそ見したり誰かと話している時にだけ
ちょっとだけ嬉しそうにうっすら笑ってる。
(え?高2だよな!?恋愛初心者かよ。なんか、恥っずっ!!)
2人を見ているとタイプが全然違ってて、面白かった。
俺、もしかしてユンと友達になれるんじゃね?
ってちょっと嬉しかったんだよな…。
後にも先にも試合の時に女と居るのはその時しか見た事が無かった。
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――――――――――――――――
で、大学3年の12月。
ユンが落ち込んでいる。
何年も見て来てるし分かる。
何かあったに違いない。
ユンは絶対に言わないけど。
藝大の撮影2回目、珍しくユンが俺に頼み事をした。
「あのさ、背の高い方の男いるじゃん?」
「あん?ああ、何?」
「なんでも良いから話しかけてさ、気引いといてくんない?」
「はぁ?気引くってなんだよ。めんど。ヤだよ。」
「頼むって。」
「理由言えよ。じゃないとやらない。」
「チッ。」
今も隠れファンなのは変わらない。
だから単純に知りたいだけ。
内容によってはしてやらない事も無い。
「はぁ!!」
「なんだよ。」
「あの!ハーフの子じゃ無い方の女いるだろ!?」
「うん。」
「昔好きだったから話したいんだけど、あの男と付き合ってて隙がないから手伝ってくれ!」
「はぁ?普通に話せば良いじゃん。」
「頼むって…。」
「もしかしてまだ好きだったりなんかしちゃったりしてっ? ははは!(笑)」
「…………。」
「うぅええ??マジかよ!? … しゃあねえなぁ。」
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「なんかぁ、藝大の人てぇオシャレだねぇ(笑)」
「え!?そう?(笑)ありがとう。」
「俺なんか普段着もジャージとかで変わんないからさぁ。こんなオシャレな服とかどこで買うの?」
ユンの方を見ると藝大のハーフの子じゃ無い方の女の子と話していて、デカいビデオカメラを担いだりしていた。
どんぐらい気引けば良いんだ?
この彼氏とやらの話が耳に入って来ない。
「へー。そこ知らないや。」
「僕は逆にスポーツ出来る人凄いと思うけどね(笑)」
「俺らはこれしかしてないから(笑)」
「ちょ、ちょっとごめん!」
彼氏がユン達の方へ走って行ってしまった。
あんま役に立たなかったな。
ごめん。
・
・
「もう1個いい?」
「凝りねぇ奴だな。なんだよ。」
ユンが自分のスマホを俺に渡した。
「撮ってくれ。」
「もっと詳しく話せよ。」
「さっき話したろ。」
「向こうはユンが好きなの知ってんの?」
「知らない。」
「奪っちゃえば良いのに。お前なら簡単だろ。」
「これで終わりにする…。」
再会したら彼氏が居て落ち込んでたんだろ?
なのに写真撮って終わりにするってか?
色んな女を相手にして来たクセにどうしたんだよ。
今までユンが連れてた女は万人受けするような、誰が見ても可愛いとかキレイとかって言う
俺も羨ましくなるような女ばっかりだった。
今ユンの代わりに撮ってる、目の前のだっせぇスエット上下の女は俺の好きなタイプとは全く違う。
だけど、目の前の子の方がユンの本当の好きなタイプなのかと思ったら切なくなってしまった。
(これ……ガチじゃん…)
なんで俺がユンの代わりに泣きそうにならなきゃいけねぇんだ。
近くでバレないように写真を撮っていると、ユンの好きな子が笑った。
どっかで見たことある気がする。
俺はまだその子が誰だか気付いて無かったんだ。
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――――――――――――――――――
2月になって、その藝大の子が土曜練に来る様になった。
明らかにユンと付き合ってる。
(結局付き合うんかい。俺の涙返せよ(苦笑))
(でも流石っすね!(笑))
「シオン先輩とヒョヨンさんも知り合いだったんだ?」
「高校一緒だったから。」
こうこういっしょだった??
んん?
あれ??
その日、練習が終わってから急いで下宿先に帰って、押し入れから段ボール箱を引っ張り出して探した。
昔のスマホ!
あった!
(実家から持って来といて良かったぁ。)
充電コードを刺し電源が入るのを待つ。
長く感じた。
写真フォルダを開けてバスケのアルバムを開く。
スクロールして遡った。
高2の時の春の試合。
休憩中のユンが写っている写真をタップした。
ニコニコと笑う女の子…。
この子だったのか…。
女子、怖ぇ。
髪型とかで別人じゃん…。
この時から…5年?
そりゃ、変わるか…。
ユン……
良かったな…。
なんで、俺…
泣いてんだ…。
――――――――――――――――
「俺さ、アミちゃんの事ずっとどっかで見た事あるなぁって思ってたんだよね。」
「ん?どこだろ?レンタルDVDのお店でバイトしてたよ?」
「ううん違う。もっと前。」
「もっと前??いつ?」
「高校ん時。」
「高校!?」
「高2ん時、春の試合でユンと弁当食ってんの見た事ある。」
「へぇあ?何で覚えてんの??(苦笑)」
「ユンの隠れファンだから。」
「隠れファン?じゃ、内緒にしといた方がいい?(笑)」
「うん、内緒にしといて。」
「わかった(笑)ユンくんの隠れファンなら、ずっと見てたでしょ?」
「うん。」
「ユンくん、モテるだろうしファンも多いし正直、不安なんだよね(苦笑)今まで色んな人と付き合って来たみたいだし…。」
「ユンの事、見くびってやんなよ。」
「!!」
「こんなに長く休むなんてさ。大変だったんだろ?アミちゃんも病気だったって聞いたよ?そんな時に2人で決めて結婚したんだろ?なのに裏切ったりする奴じゃないよ。」
「そっか…。そうだよね…。はぁ。何考えてるんだろう…。」
「遊びたい男はそもそも1人と付き合わないからね。モテるならなおさら絞る必要ないじゃん。」
「うん…。」
「中2の時からユンを知ってるけど」
「中2!?」
「うん。 今までユンを見て来て、女に浮かれてんなって分かったのって、高2の時だけだよ。去年の12月は辛そうだった…。」
「それって…(泣)」
「ユンはずっとアミちゃんが好きだったよ。俺には分かる。アイツは今幸せだと思うよ。好きな人と一緒になれたんだから。」
「スホくん(泣)うぅ。」
「ヤバい…。泣き止んで!ユンこっち来てる。」
「そんなの無理だよぉ(泣)」
「わかった!泣くほど笑ったって事にしよ!とにかく笑え!」
スホの気持ちが嬉しくて、ユンに隠れファンだと話さなくてはいけない状況にはしたくない。
急いで涙を拭いて笑う努力をした。
「何してんだよ?」
「4年生の写真撮るのを手伝って貰ってた。」
「全員撮れたの?」
「うん。」
「ユン、練習試合出んのか?」
「うん、出ろってよ。」
「私、撮らなきゃ!カメラの準備して来る。」
泣いたことはバレていないようで、触れられずに済んだ。
スホのおかげで不安が完全に解消された。
これで心置きなく撮影に集中出来る。
スホを見ると目が合った。
心からの感謝を込めて笑うとスホも笑ってくれた。
カメラの準備をしながら2人の母へ連絡をしてない事を思い出し、ユンと一緒に帰るとメッセージを送った。
2人の母は直ぐに返事をくれた。
顔を上げると、ユンがすぐ側に居て私の背中をさすった。
「もしかして、さっき泣いてた?」
「ユンくんの周りには良い人ばかりだね。」
さっき流しきれなかった涙が溢れ出てしまった。
「スホに何言われたの?(苦笑)」
「ユンくんを見くびってやんなって。」
「ふ〜ん(笑)」
「ユンくんごめんね。私もう大丈夫だから。」
その時ホイッスルの音が体育館に響いた。
選手達が集合する。
ユンは微笑むと背中をポンポンと叩き
走って行った。
私はカメラと名簿を持ってゆっくりと選手達の後ろに近付き
みんなと一緒に、監督の話に耳を傾けた。
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