第38話 アミを癒すユンの想い:後編
今日のサークル活動は、半数以上の部員がバイトで居ない。
それでもヒョヌ先生は数名の後輩部員たちに私の復帰を報告してくれた。
その中には一つ下の後輩で1番仲良くしているヘミが居た。
ヘミが泣きそうな顔を向けている。
「ヘミ。ごめんね?」
「せんぱ〜い!ひどいじゃないですかぁ(泣)」
「ごめんごめん(苦笑)」
「もう大丈夫なんですね?(泣)」
「大丈夫だよ(笑)」
「先輩、噂で結婚したって聞いたんですけど本当ですか?」
「そう、なんだよね(苦笑)」
「もう!水臭いじゃないですかぁ(泣)」
「ごめんよー(苦笑)」
頭を撫でるとさらに泣いてしまった…。
「飲み会やりましょうね!お祝いしなきゃ。」
「うん、やろうね(笑)」
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ヒョヌ先生が新しい部屋を説明して回ってくれた。
新しいサークル部屋は明るくて広い。
パソコンも3倍の6台になっている。
ヒョヌ先生の貴重なコレクションも綺麗に飾られていて、ちょっとしたミュージアムの様になっていた。
以前のサークル部屋は、奥にスタジオがあったが
新しいスタジオはサークル部屋の横にある。
スタジオの方も広くて使いやすそうだった。
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後輩達は俳優科の生徒たちに来て貰って喜怒哀楽について撮影を行っている。
私はその風景をドキュメンタリー風に撮ったり、
他の藝大の学生達が話したり歩いている姿を撮ったりしていた。
直ぐに勘を取り戻せた様な感覚がある。
(やっぱり楽しい!)
「ミャァ。」
「あっ。猫ちゃん!」
イチョウ並木の植垣から白い猫が顔を出した。
毛並みがキレイで真っ白で、30センチにも満たない子どもの白猫だった。
(ここで誰か飼ってるのかなぁ。やけにキレイな子だなぁ。)
ビデオカメラで撮影を始めた。
「ミィ」
「カワイイ♡ ユンくんみたいだねぇ。」
植垣に生える雑草をクンクン嗅いで、鼻がくすぐったかったのか頭をブンブン振ったりしている。
アリや名前の知らない虫を前足で転がしたりするのを夢中で撮った。
――ピロリン♪
(ん?LINE?)
――ピロリン♪
ビデオカメラを置いて、デニム生地のバギーパンツからスマホを取り出し確認するとユンからLINEが入っていた。
『俺の撮影?(^ ^)』
のメッセージと、白猫を撮影している私を左側から撮った写真が添付されていた。
(え!?)
慌てて顔を左に向けるとユンがすぐ側まで来ていて、
嬉しくて笑ってしまう。
ユンも笑ってくれた。
「部活…は?」
「遅れて行く。監督にアミが心配だから様子見に行きたいって言ったら、すぐ行けーって。あの監督もアミに掛かればチョロいな。さすが!(笑)」
「やめてよ(笑)」
「カワイイね。」
「うん。ユンくんみたい(笑)」
そう言われて少し笑うとユンは白猫を拾い上げた。
「ミャァ。ミァ。ミャァ。」
白猫が腕の中でユンを見上げ
一生懸命に鳴き声をあげていた。
「何か言ってるよ!?(笑)やばい!可愛い!これは撮らなきゃ!」
すぐにビデオカメラを回した。
「ミャァ。ミャァ。ミィ。」
「お前もだろ!」
「え?この子なんて言ったの?(笑)」
「お前、白いなぁ。だって(笑)」
「あははは(笑)きゅゅーっ!キャワイイっ!!」
次はビデオカメラを置いて一眼レフで撮影を始めた。
――カシャ
「ミャァ。ミィ。」
「こいつ、すごい何か言って来るじゃん?(笑)」
――カシャ、カシャ
「兄弟か何かだと思ってるんじゃない?(笑)」
――カシャ
「ミャァ!!」
「はぁ!?」
!!!!!!!
(きゃゃー!!!♡)
――カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ
白猫が一層大きく鳴くと、ユンは『はぁ!?』とツッコみ大きく笑った。
その笑顔は今まで見たことのない程の可愛い大きな笑顔で、カメラに納める事が出来て最高の気分だった。
「ミャァ!」
「こいつ可愛い。」
そう言うとカメラに向かって笑ってくれた。
すかさずシャッターを切る。
――カシャカシャカシャカシャ
(ユンくんも可愛いよ!(泣))
ユンは白猫を降ろすと頭や体を撫でた。
白猫は振り返る事なく植垣の中へ入って行った。
「この後、予定決まってるの?」
「決まってない。今日みんなバイトで誰も居ないの(笑)」
「一緒に体大行かない?俺らの練習を撮るのはどう?」
「え。行って良いの?」
「アミも部員の1人だし?(笑)撮影なら監督も喜ぶよ。さっき送ったアミの写真。見た?」
「ん?」
「自分の顔どうなってた?」
「あ、わかんない。」
「見て。」
スマホを取り出しユンから送られてきた写真を確認した。
「え?すごい笑ってる!(笑)」
「アミはやっぱり撮影するのが好きなんだな。」
「うん。やっぱり楽しい(笑)」
「俺の撮影ならもっと楽しいだろ?」
「うん…。へへ(笑)」
「ふんっ(笑) 片付け、手伝うよ。」
ユンはサークル部屋までついて来て、片付けや帰り支度も全て一緒にしてくれた。
サークル部屋に戻るまでの間と、校門に向かうまでの間に3人のユンのファンと、5人のバスケ部のファンと出くわした。
ユンは彼女達のアクションに合わせて笑ったり呼びかけに応えたり大きく反応して見せた。
彼女達は嬉しそうに笑って、
私にも手を振ったりしてくれた。
私も彼女達にニコリ笑って手を振ったりして
ユンの作った〝正の連鎖〟はみんなを幸せな気分にさせた。
駅に向かう道すがら
ユンは私の手を握ると、わざと笑って見せた。
私はつられて笑ってしまった。
「ユンくん。ありがと。」
「何が?」
「え?(笑)色々。」
「何もしてないけど。」
「そうなの? まぁいいや(笑)」
「監督。アミ連れてったらどんな顔するかなぁ。人たらしアミのお手並み拝見(笑)」
ユンはもしかしたら本当に、私の心の状態を深刻には考えてはいなかったかもしれない。
それでも、私にとっては
ユンが1日をかけて寄り添ってくれた事が支えとなって、不安を払拭する事が出来た。
ユンのために私が出来る事。
――見つけた。
ソウル体育大学に近づくにつれ
撮影プランで頭がいっぱいになって行った。
ソウ体大の門をくぐる頃には私は
バスケ部から依頼を受けたカメラマンとしての使命感でワクワクしていた。
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