第35話 ユンside:復活

アミが

「気付いてた?」と聞いて来るから

「うん。」と答えただけであって、

気付いたんじゃない。


“太る”って分かってた。



体育大学に通って授業を受けて、単位だって着々と取っているのに。


分かるよ。


食べ物の質、食べる時間、食べるスピードに量。

アミにとって“太る”条件が揃ってた。


『太るから止めな。』

と、言ってやる余裕は俺には無く…。

自分に向き合ってくれているのが有り難くて甘えてしまっていた。


それに、体型がどうなろうが本当に気にしていない。

まぁ、健康である事は前提だけど。


アミの体を張った看病のおかげで、俺の病気はだいぶん善くなった。



アミへの不安が誤解だと知って 

アミと結婚出来たら、絶対にこの病気はなくなる。

その考えしか浮かばなくて、ムードも何もない無い咄嗟のプロポーズだったけど

『YES』を貰えて本当に嬉しかった。


しかしアミは後から禁止事項を2つ挙げ

絶対にやらないと約束しなければ

結婚はしないと言った。

簡単過ぎてわざわざ禁止事項にする程の事か?と思ったが、アミは真剣だった。



一つは、

どんな理由であれ人を殴ったり暴力を振るわない事。

プロになってからの世界で不利になる事は絶対にしないように言われた。



あともう一つは、

浮気をしない事。



「浮気したら承知しないって言って無かった?浮気したら別れるんでしょ?」


「う〜ん…。」


「何?(苦笑)」




「浮気されてもユンくんが大好きだから。きっと…絶対…許しちゃうから、浮気はしないで…。されたら…辛いだけだから…。」




恥ずかしそうに白状するアミを見て

身体の血が逆流するみたいに、足から頭までゾワゾワと鳥肌が立った。


こんな自尊心を高めてくれる、魔法の様な言葉があるなんて知らなかった。



この世で1番愛おしくて可愛いと思っている存在を傷付けるはずがない。



アミはどこまで理解しているんだろう。

あえて思い知らせるつもりも無いが、

俺はたくさんの女を知っている。

違う女を知りたいと思う事はない。

アミだけが居てくれたら良い。



「浮気なんてするわけ無いよ。アミがずっと俺の相手をしてくれるんだったら。する必要ないだろ?」


意地悪な言い方しか出来なくて、ごめんな。





学校に報告をするに当たり

アミはとんでもない事を言った。



「監督にはちゃんと話そう?ユンくんが学校を休まなきゃいけなくなった理由…。私の事も全部話そう。」


「そんな事する必要はない。バカかよ!?誰にも話す気ねぇから!」


「何となく私には分かるの。監督は話せばわかる人だよ。きっと親身になって考えてくれる。今どうして結婚するのかも、わかって貰おうよ!」


「いいって…。」


「このままだと精神力の弱い人間だと思われるかもしれないよ?監督に話せばきっと味方に付いてくれる。知ってくれてる人が居ると絶対に有利だから!私は大丈夫。監督なら信じられるから、ね!?」



母さんと大学に行って、まず担任に報告した。

あんまり関わりのない人だから、結婚した事の報告だけをした。

監督は長くなりそうだったから事前にアポを取ってある。

応接室で久しぶりに会った。


練習中、初めて怒られた日。

俺は監督に『解決してこい』と帰らされた。

その日に何があったのかを全部話した。


アミがジェヒョンに襲われた事。

自分がすんでの所で助けた事。

アミが病んでしまった事。

その事で自分も病んでしまった事。


監督はそんな話を私が聞いて大丈夫なのかと動揺していた。

アミが監督なら話してくれて良いと言っていると伝えたら

監督は目頭を押さえて

「そうか、そうか…」としばらく小さく震えていた。


監督は、俺たちの結婚が治療の一環だと理解してくれて

病んで当然だと結婚も薬になったなら良かったと、喜んでくれた。

体力が戻ったら直ぐにレギュラーに戻すと約束までしてくれた。



――――――――――――――――

大学復帰の朝。

母さんは駐車場に車を停めて降りようとしない。

何か言いたそうにしている。



「どうしたの?」


「アミさん大丈夫かしらね。」


「あぁ…。心配だよな。」


「ユンよりもアミさんの方に行きたいくらいよ。」


「はぁ?それを言うなら俺もだし!(苦笑)」


「ごめんね。」


「あっち向いて言うなよ。(苦笑)」


すると体勢をこちらに向けて言った。


「本当にごめんね…。元気になってくれて良かった。」


「どうする?抱きしめようか?(笑)」


腕を開くと母さんはちょっと照れた顔をした。

抱きしめてあげた。


「ごめんね。ごめん…。」 


「もう、謝らないでよ(苦笑)母さんの計画には無かったと思うけど、結婚させてくれてありがとう。」


母さんの方から離れた。


「遅かれ早かれアミさんと結婚したでしょ?」


「うん。」


「じゃ、早くなっただけよ。」


「アミ、言ってたよ。」


「なんて?」


「お母さんも大好きだって。」


泣いてしまった…。



「あんな子が傷付けられて苦しむなんて、なんて理不尽な世界なんだろう!って本当に腹が立つのよ。守ってあげなきゃだめよ?」


「うん。当たり前でしょ。」



大学では広く浅く、とにかくたくさんの人が俺の周りにいて

久しぶりに講義室に入ると人集りが出来てしまった。

だから余計に自分の事が話せない。


「ちょっと原因不明の体調不良で…」


とだけ話した。


アミはどうしてるかな…。



部室更衣室で着替えていると後輩達はちゃんと挨拶をしてくれて

「大丈夫ですか?」

「おかえりなさい。」

などと声をかけてくれる奴もいて、監督が上手く話してくれていた事がわかった。



「ユン!大丈夫か?」


「おぉ。スホ。今まで済まなかったな。」


「元のユンに戻ってる感じがするよ。」


「もう大丈夫だよ。筋力は落ちてるからバスケはどうかな(苦笑)」


「3ヶ月のブランクなんてお前ならどうって事ないだろ(笑)筋力も練習してれば戻るよ。」


「まあ、そうは思うけど(苦笑)」


「とりあえず今日は無理はすんなよ。」


「ああ。ありがと。」



ウォーミングアップとランニングで特に不調を感じる事は無く身体を動かす事を気持ち良く思えた。


ウォーミングアップを終えると監督が全員を集めた。



「今日からキャプテンのユンが復帰する。体調が戻るまでは前と違っていて戸惑うかもしれないがキャプテンである事には変わりはないから、みんな指示に従うように。ユン。挨拶。」


「はい。 長い間休んでしまって申し訳ない。頑張って練習して勘を取り戻したいと思ってます。また一緒に宜しくお願いします。」


頭を下げると直ぐに大きな拍手を貰った。


「よし、じゃ、いつもの練習始め!」


『はい!!』



「ユン、スホ、ちょっと良いか。」



・  


「今日からキャプテンの仕事をユンがやりなさい。スホ今までありがとう。」


「分かりました。ユン、キャプテン返す(笑)」


「おう(笑)」


「ユン。アミさんに聞いといて貰いたいんだが…。」


「何ですか?」


「夏休みの練習試合のスケジュール表を後で渡すから撮影が出来るかどうか聞いといて欲しい。」


「分かりました。」


「アミさんと仲直りしたんだな?(笑)」


「仲直りどころじゃないよ。ユン達、結婚したんだから(笑)」


「はああぁ??ウソだろぅ??マジで?良いの?こんな早くに結婚なんて!?考えられねぇ…。あ!わかった!アミさんが怒って結婚迫ったんだろ!?」


「俺が迫ったんだよ(苦笑)」


「えぇ?(泣)もう女と遊べないじゃーん。良いのぉ?」


スホが俺にしがみついて泣き真似をしている。


「大きなお世話なんだよ!監督、コイツ何とかして下さい(苦笑)」


「はい!スホは戻れ!」


泣き真似をしたまま練習に戻って行った。


「バカだなぁ、アイツ(笑)」



「ユン、しばらくはキツイはずだからトレーナーと練習量を相談しながら様子を見てやりなさい。あと、ファンから手紙やプレゼントを沢山預かっている。ファンの人達にも報告はした方が良いと思うよ。」


「分かりました。」



トレーナーと相談しながら違うメニューを入れたりして練習をした。

やっぱり筋力が少し落ちていて沢山休憩を取らされた。



春の大会にキャプテンが不在だった事はソウ体大バスケ部のファンにとって衝撃で

問い合わせが殺到したらしい。

そこで大学は、バスケ部のホームページに俺が体調不良が続き闘病している、絶対に復帰するとお知らせを出した。

休憩時間を使ってファンへ向けた復帰挨拶を監督と作った。

大学バスケ部のホームページとインスタにアップする事にした。


――――――――――――――――――――

応援してくださる皆様へ


本日7月1日、ソン・ユンは大学及びバスケ部に復帰致しました。

ご心配をお掛けしました事お詫び申し上げます。

キャプテンとしてメンバーに復帰出来るよう邁進してまいります。

引き続きご声援宜しくお願い致します。



この場をお借りしてご報告がございます。

お付き合いさせて頂いていた方と5月に入籍致しました。

まだ学生の身分で未熟ではございますが

温かく見守って頂けますと幸いです。

急なご報告で申し訳ありません。


皆さんに頂いたご恩は試合に勝つ姿をお見せする事でお返しして行きたいと思っています。

今後とも応援のほど宜しくお願い致します。



ソウル体育大学バスケ部

キャプテン  ソン・ユン

――――――――――――――――――――


アップした瞬間から『いいね』やコメントがたくさん付いた。

アミはどう思うかな?



21時練習終了。

腹も減ってるし疲れている。

この感覚が嬉しい。





シャワーを浴びてインスタを開いて見てみると何百という『いいね』が付いているのに

アミの反応が無い。

LINEも無い…。

嫌な予感がする…。


迎えに来た母さんに手伝って貰って沢山のプレゼントを車に運んだ。


「アミから連絡無いんだ。早く帰って!」


「アミさんなら家に居るわよ。」


「良いから!」



急いで帰って部屋の扉を開けると明かりが付いている。

アミの気配がない…。


「あ、あれ?どこだ?」


ベッドに近付くと、アミの右の頬が見えた。

2つの枕の間に埋もれてスヤスヤと眠っていた。


「何だよ…良かった…。」



そっとベッドに入ってアミを抱きしめた。



「んん〜っ。おか…えり…。」


「ただいま(笑)」


「寝ちゃってた…。」


「疲れたんだろ?」


「うん…。」


「走って来たの?」


「うん…。」


「どんくらい走れた?」


「2周走って…」


「目開けろよ(笑)」


「無理…。2周歩いた。」


「2周走って2周歩いたの?」


「うん…。おやすみ…。」


「飯食って来るから。戻って来たらまた起こすからな?(笑)」


「イジワルだなぁ。電気消して…。」


「しゃあねぇなぁ(笑)」



――パチン




部屋に戻るとアミは寝ていた。

着替えてベッドに入り、また抱きしめた。



「アミぃ。エッチしよ?」


「もう! 今日は大人しく寝ろ!!」


アミがそう言うと、首をチョップするフリをした。

俺も気を失うフリをする。


「はいはい。そのまま眠れ。」


「くくくっ(笑)」


「疲れてるくせに。」


「うん、疲れた。」


「朝練あるしホントに寝てね。」


「うん寝るよ。」



実際は、本当に疲れていて直ぐにでも眠れそうだった。

アミが可愛いくて構いたいだけ。

抱きしめた体が温かくて気持ちいい。



キスをして直ぐに


記憶が…途切れた。

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