第33話 母の肉体改造計画

「ねぇ、ユンくん。」


「ん?」




「私…太ったんだよね。」





食事会には美容室の予約が間に合わなくて、髪を即席で茶色にして写真を撮った。

その時の髪色がお互いに気に入って

今日、美容室で2人とも落ち着いた茶色にして貰った。

明後日はいよいよ大学復帰。

休み明けの印象もこの方が良いかもしれない。


美容室と買い物を済ませて

ラブホにお泊まりに来ている。


浴槽からシャワーを浴びるユンを眺め話しかけた。




「やっぱり(笑)」


「気付いてた?(笑)」


「うん(笑) どんくらい?」


「4キロ。」


「は!? ヤバっ!」


振り返って言われた。



「俺なんて筋肉減って体重も減ったけどな。」


「良いよなぁ。代謝のいい人って。」


「俺にとっては良くねぇんだよ!」



食欲の無くなったユンを食べさせる為に

一緒に食べていたら私だけ太ってしまった。


食欲が減ったと言っても、普段沢山食べていた人だった訳で…。

そんな人に合わせていたのだから太るのは当たり前。

毎食、お腹いっぱいになるまで食べていた日が続いたりもしていた。

数ヶ月、外にも出ていない…。


シャワーを止めてユンが浴槽に入ってくる。

私を後ろから抱きしめた。



「体の病気で休んでる事になってるのに、太ってたりしたら訳わかんないよね(笑)」


「おまけに結婚してるし?(笑)」


ユンの手が動いた。



「あははははは!(笑)」


ユンが私の下っ腹をグイッとつまんで笑っている。


「ひどいなぁ。」


「可愛い(笑)」


「可愛い!??」


「太れ!太れ!可愛いよ(笑)」


「甘やかすなよぉ(苦笑)」


「痩せられるより、太った方が良いよ。」


「そうかもしんないけどさぁ?」


「抱き心地もいいよ?(笑)」


「ユンくんはやっぱり優しいね…。」


「なぁ…。」


「うん?」


「早く。 ベッド行こ?」


――――――――――――――――

翌日

ランチデートをした後、帰宅すると

家の前に大きなトラックが1台と外車が1台停まっていて、ご近所さんが気にして顔を出していた。



「こんにちは。」


「あらぁ。こんにちは。新婚さんにプレゼントだそうよ!」


お隣の年配の奥様が嬉しそうに教えてくれた。


ご近所さん達には同居をするタイミングで、お母さんと一緒に挨拶回りをしている。

お母さんはちゃんと、ユンのお嫁さんだと紹介してくれて、みんな驚きながらも祝福してくれた。

それ以来ご近所さんとの関係も良好である。



「アミちゃん!会えないかと思ったよー!」


「おじいさん!」


ユンの祖父がトラックを引き連れて来ていたらしい。



「結婚祝いと、アミちゃんに貢ぎ物を持って来たんだ。」


「結婚祝いならたくさん頂きましたよ?」


「あれは、お金だろう?今回は物だから。」


「何か違うんですか?(苦笑)」


「全然違うじゃないか(笑)」


「ってか、貢ぎ物って何だよ?(苦笑)」


ユンが割って入る。


「孫の面倒を見てもらわねばならんし、私とも仲良くしてもらわないとな(笑)」


「え?え?あれ、俺のベッドじゃない?」


作業員がユンのベッドを外に運び出しトラックに積んでしまった。


「ベッド替えといたから。うん。気にいると思うよ。」



作業員が出入りしていて中に入れず、ユンと私は外でおじいさんとしばらく玄関の中を覗いていた。

作業員が全ての作業を終えて祖父に挨拶をすると、素早くトラックに乗り帰って行った。


「私も忙しいからこれで帰るよ。気に入らなかったら交換するから遠慮せずに言いなさい。じゃあね。」



――――――――――――――――


「えっ…」

「は?」




部屋に入った瞬間、2人して一文字しか発せず状況が飲み込めなかった。



部屋の隅に、フカフカの2つの枕と見るからに柔らかそうな布団がセットされたダブルベッドが置かれている。

ユンの勉強机の横に、もう一つ勉強机が置かれていて、タンスとクローゼットが大きい物に替わっていた。

丸い鏡の可愛いドレッサーと丸いイス。

テレビラックの上に大きなテレビが乗っていてその前には丸いテーブルまで置いてある。

さらには青いカーテンが白に変わっていた。


「もう、普通のワンルームじゃん。」


「確かに。」


「ぷはぁぁ!!(爆笑)」


原型の留めていない部屋に2人してツボって笑い転げた。


「逆にユンくんの机何で残った?(爆笑)」


「それな(爆笑)」



ユンはこの家で1番大きな部屋を宛てがわれていて、だだっ広くて寂しい感じがしていたが

生活感溢れる新婚夫婦の新居に様変わりしていた。


私の物であろう机の上に大きさの違う箱が2つ置かれている。

近付いて見てみると封筒が置いてあった。


「手紙?かな?」


「見てみなよ。」


「えーっと。 『ユン、アミちゃんへ。両親に気を使わずに2人で長く過ごせる様に部屋を作りました。テレビは映画チャンネルが見放題です!机の上の箱は2つともアミちゃんへのプレゼントだよ。これでユンの姿をたくさん撮って私たちに見せて下さい。今度私ともデートしてね。』」


箱の包み紙を開けると、中身は家庭用より二回り程大きい立派なビデオカメラと

一眼レフカメラだった。



「出たよ。人たらし。」


「それ、よく言うけど何なの?(笑)」


「良い人に見せる天才(笑)」


「はぁ?(笑)」



ユンがビデオカメラの箱を見ながら真剣な顔をした。


「……俺…レギュラー、復活しないとな。」


「そうだよ。ユンくん居ないのに私だけ撮影で試合に行く事になるよ?」


「それは嫌だ!!」


そう叫ぶとユンがベッドにお尻からダイブした。



――ボヨ〜ン



ユンの体が想像以上に跳ねた。


「ぎゃはははは!」

「あはははは!」



「私もやる!(笑)」


私もベッドにダイブすると2人の体が跳ねた。


「あはははははは!」




「あれ??このベッドそんなに柔らかくはないね。」


「スプリングが良いじゃない?絶対このベッド……やりやすいよ(笑)」


「あっそ! ほんと、バカだねぇ?(笑)」


笑いながらキスをした。



――――――――――――――――――

ユンとイチャイチャしていたら知らない間に眠ってしまっていて、お母さんに夕食に起こされた。


リビングに入るとお父さんが戸惑っている。

その理由は直ぐにわかった。


「何でこんなにメニューが違うの?」


ユンがお母さんに問いかける。

ユンの両親とユン、さらに私でメニューが全然違っていた。



「あなた達、明日から大学に復帰するんだし体の事も考えないと。アミさんは太ったしユンは痩せ過ぎよ。」


「う…。」


バレてた…。


「アミさん太った?」


お父さんが驚いている。


「気付かないの?全くぅ…。」


「そうなの?」


「はい…太りました(苦笑)ユンくんも気付いてました。ははっ。」


「アミさんはダイエットメニューで、ユンは筋肉を作るメニューよ。栄養を考えて満足出来る様に作ってるからちゃんと食べなさい。」


「はい。ありがとうございます。あの…。」


「何?」


「こんな、3種類違うご飯を作るのは大変なのでお手伝いさせて下さい。料理も覚えないとだし。」


「病院に通わなくてもよくなったらね。まずは4年で卒業出来る事だけ考えて頑張りなさい。」


「は、はい…。」


「私はあなた達を心身ともに健康にすると決めたの。だから、ちゃんと食べて運動もするのよ。」


「はい。ありがとうございます。」


「さ、さ、食べよう!」



「はぁ、はぁ、はぁ、きつ…。」


「まだそんな走ってないよ?(苦笑)」


「運動とは無縁の…女子大生に、これはきついって…はぁ。」



夕食後、プロテインを飲まされて休憩したのち、ジャージに着替えさせられ走って来なさいと家を追い出された…。


いつもの公園の中にあるジョギングコースをゆっくりと一周走っただけで息が上がる。



「ユンくん自分のペースで走って。じゃないと意味ないよ。」


「なんかあったら電話しろよ。」


すごいスピードで走って行った。


自分も走り出す。

体が重い…。


(明日、ハナにバレるかな…)



ユンはジョギングコースを4周走り切り

私はその間に2周半走ってギブアップ。

半分を歩いてスタート地点でユンと合流した。


いつものベンチで休憩。


「久しぶりだなぁ。こんなに汗かいたの(笑)」


「気持ちいいだろ?」


「うん、そうだね(笑) 明日からユンくん練習あるし1人で来なきゃだなぁ。」


「やれそう?」


「やんなきゃ(苦笑)お母さんの為にも。…食事会の後、お父さんに聞いたんだけどさ。」


「うん。」


「お母さん…食事会の時に、すごい泣いてたじゃん?」


「うん。」


「私たちが心から笑えるまでは絶対に泣かないって決めてたんだって。」


「ふ〜ん。」


「お母さん、ユンくんと一緒で不器用な人なんだよね(笑)」


「悪かったなぁ(笑)」


「だけど凄く優しい。私、お母さんも大好きだよ(笑)」


ユンが嬉しそうに笑った。


「さっきさぁ。私を追い越す時、背中触ってくれてたじゃん?」


「あぁ、うんうん(笑)」


「あれ、すごく嬉しかったんだ(笑)だから部活がない時、付き合ってね?」


「しょうがねぇなぁ(笑)」


「ふふん(笑)」


「じゃ、帰ろっか。」




ユンと私は繋いだ手をブンブン振りながら

生活感溢れる部屋へ一緒に帰った。

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