第30話 ウンジside:母の誓い

目の前に居るのは本当にユンなのかしら?

こんなユンを見た事が無いもの。


とりあえず、あの人

サンフンを呼ばなきゃ。



「もしもし?どこかに車を停めて上がって来れる?」



「どうした!?」


「ユンが、試合に出ないって…」


「はぁ??どうゆう事だ!」


「ユンが説明してくれないのよ(泣)」



「選ばれなかったから出ないって言って…」


アミさんが苦しそうに教えてくれた。

あんな事があったのにユンの事でまた泣いているなんて…。



監督の携帯電話に電話をしてみたけど、やっぱり出ない。

メッセージを残しておいた。

ユンを家に連れて帰ろうとしたけれど

ユンはアミさんの側を離れようとしない。


「ずっと居てくださって良いですから。」


私たちもお言葉に甘えさせて頂く事にした。



お昼休みであろう時間に、監督から電話がかかってきた。

ユンに聞かれない様にリビングの扉を閉めて玄関に向かった。



「監督!どうしてユンが外れたのですか?分かるように説明してください!」


「それは、こちらが聞きたいですよ…。」


「どういう事ですか??」


「ユンずっとおかしいですよ。何かあったんですか?」


「何、かって…。」


「試合の撮影をアミさんに頼みたいとユンに言ったら、今は学校を休んでるって言うし。2週間ほど前、アミさんと何かあったみたいで…その後から明らかにおかしくなってますよ。どうしたんですか?2人して何かあったんですか?」



言えるはず無いじゃないの。

同じ女として絶対に人には言えない。


それに、ユンの大切な人なのよ?

私にとっても大切な子なのに。



「ちょっと、何があったかまでは…。」


「ユン、絶対におかしいですから助けてあげてください。バスケ部にとってユンは大切な選手です。キャプテンはユン以外いませんから。お願いします。」


監督の声から本当に心配しているという事が伝わって来た。



ずっと、ユンはアミさんを献身的に看病してると思ってた。

心身ともに健康で…。

何があったと言うの?

この2週間弱、一緒に居たら気付いてあげられたかしら?



私は急いでヨンスクに電話をかけた。



「もしもし?ヨンスク!今いい?」


「えぇ、午前の診察が終わった所よ。アミさんの事?」


「違うのよ。息子のユンがおかしいの。キャプテンになれたというのにレギュラーから外れて…。監督に聞いたら、ずっと様子がおかしかったみたいなの。今も泣いて何も話さないのよ。」


「いま、アミさんのお家に泊まってずっと一緒に居ると言ってたわよね。ミイラ取りがミイラになるってやつか…。2人は付き合ってどれくらい?」


「今年の2月からだったはずよ。」


「え?そんなに短いの!?おかしいわねぇ。」


「何がおかしいのよ!?」


「ミイラ取りがミイラになるなんてよくある話よ。だけどこんな短時間に?なかなか無い事だわ。もしかしたら2人、同じ辛い経験を過去にしていて共鳴しているんじゃないかと思ったのだけど。考え過ぎのようね。」


「あぁ、ヨンスク、なんて事??(泣)」


「どうしたのよ!?」


「2人が高校生だった頃。ユンがアミさんに夢中になるのが怖くて…。認めてあげられなかったのよ(泣)」


「もう何年も前からの仲だったか。わかった。息子も連れて来なさい。」



「まぁまぁまぁ、大きくなったわねぇ(笑)最後に会ったのは中学生の頃だったかしら?覚えてる?」


「はい。覚えてます。」


「そう?嬉しいわ(笑)」


ユンがヨンスクに促され中に入った。



30分で終わり?

どうしてこんなに短いの?



「今日はあまりお話ししてもらえなかったから、明日また来て。明日催眠療法を試してみましょう。」



アミさんの診察にはいつも1時間以上かかっている。

だから、アミさんを病院に預けてからユンを迎えに来ようと思ったのに


「一緒に行く。一緒が良い。」


と、聞かなかった。

幼い頃にも見た事が無いくらいにわがままになっている様に感じる。

一緒にいる時の2人は、常に手が繋がれていて時々抱き合ったりしている。

普段なら見ていられなくて注意するのに

今はどこか痛々しくて可哀想に思う。



アミさんの診察と治療が終わって、入れ替わりにユンが入る。


「アミ、絶対にそこに居てね。」


「うん。居るよ。」


ユンは少し安心した顔で入って行った。



ユンの催眠療法は2時間近くかかった。


ヨンスクは「全て聞く事が出来た。」

と言って、

悪に立ち向かう正義のヒロインの様に頼もしい顔を見せてくれた。



翌朝、どうしても気になって電話を掛けてしまった。



「おはよう。朝からごめんなさい。」


「あと、10分程で診察なのよ。」


「ユンが何を話したのか教えてくれないかしら。」


「医者は守秘義務があるの知ってるわよね。」


「そんな事言わないで!何があったか知りたいのよ!」


「もし、ウンジがユンくんに、あぁだったの?こうだったの?と問いただしたりしたら私の治療は上手く行かないわよ。聞いた事を絶対に本人に言わないと約束してもらわないと。」


「私、ユンの母親よ!?元の姿に戻るための治療を邪魔するはず無いでしょう?(泣)」


「わかった。じゃあ、午前の診療が終わる時間に来て。一緒にお昼食べましょう。」




予約制とはいえ丁寧な診療で有名なだけあって1時間ほど待たされた。


病院にヨンスク1人だけの休憩部屋があり、そこに2人分の仕出し弁当を用意してくれていた。



「今回のアミさんの事件、自分のせいだと思ってる。」


「自分のせい??」


「今から話す事はアミさんから聞いた話も入っているから、アミさんにも話したらダメなんだからね?」


「わかってるわよ!」



ジェヒョンの嘘を信じてしまいアミさんに辛く当たったらしい。

その事でアミさんの怒りの矛先はジェヒョンに向かい、平手打ちを喰らわしサークルをやめさせた。

逆恨みしたジェヒョンはアミさんを…。



そのきっかけを作ったのは自分だと、ユンは自分を責めている。

アミさんが眠れない、食べられないと辛そうにするたびに

「あなたのせいだよ。」

と、責められている様に感じると泣いたという…。

ヨンスクは、それならアミさんと離れなさい。

一緒に居てはダメだ。

と諭したが、

それはもっと嫌だ、アミを1人に出来ない。

自分が居ない時に限ってアミに悪い事が起こる。

と更に泣いて、落ち着かせるのに時間が掛かったと言った。


自分が居ない時に限って?


高校2年生の時にバスケとアミさんを天秤にかけ、バスケを取って別れてしまった。


その事がきっかけで高校3年生のアミさんは病んでしまって殆どの時間を闘病に費やしたという。

この事を後日談として付き合って直ぐの頃に知ってしまった。

自分が見ていないとアミさんに何かが起こってしまうという強い強迫観念に囚われ

常に手を繋いだり触れたりしていて離れないのは、それに伴う強迫行為の一つだという。



「高校3年生のアミさんは病院にも行かず自分で克服したそうよ。立ち直るきっかけはユンくんも自分と同じ様に辛い思いをしていたのに頑張っているという事を知ったから。と言っていたわ。その時のアミさんも摂食障害とうつ病だったのは間違いないわね。」


「ユンのせいじゃない私のせいだわ…(泣)」


「その時の事をユンくんは深く後悔していて自分のせいだと責めていたんだけど、そこへ来て今回の事件で自分を保てなくなった。アミさんとの別れへの罪悪感が癒えていたら、少しは違ったかもしれないけど、事件までが短時間過ぎるのよ。」


「罪悪感を感じていた所に、更に違う罪悪感が重なったって事?」


「そう。そうゆう事。ユンくんを治す前にアミさんを治さないと。食べられない、眠れないを繰り返すたびにユンくんの傷が深くなるかもしれない。一度、2人を離してみたいんだけどな。」


「何とかやってみるわ。」



アミさんの家に行くとユンとアミさんはソファーに座りうたた寝をしていた。


「いま、寝たとこなんです…」


アミさんのお母さんが小声で言った。


ソファーに深く座るユンにアミさんは抱き付き胸に頭を乗せて眠っている。

ユンはアミさんの頭にキスをするかの様に眠っていた。

両手はアミさんを触っている。



苦しみ病んでも尚、求め合っている。

私は何て罪深い事を…。

私は泣きそうになるのを我慢した。

この2人が1番辛いのだから、私が泣くなんて許されない。

この子達が心から笑えるその日まで、

涙は嬉し涙として取っておこう。

この子達を絶対に元の姿に戻してみせる。

心に誓った。



「晩御飯におかずを少し、作って持ってきますね。」


アミさんのお母さんに告げ、自宅へ戻った。

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