第27話 アミのヒーロー
ジェヒョンをサークルから追い出す事が出来た。
ここで、少し冷静になる。
冷静になると少し怖くなった。
(明日から大丈夫かな。)
ジェヒョンのLINEをブロックして、着信拒否設定をかけた。
いまだにジェヒョンが私を好きだったのかどうかが分からない。
あんまり笑ったりする人じゃ無かったし。
背は高いけど印象に残って無い。
「アミ、心配だから家まで送ろう。」
「大丈夫だと思いますよ。」
「いや、そうして貰いな?」
ハナが心配そうに言う。
「だが、仕事が残っていてな(笑)授業に使う資料を作ったりせねばならん。職員室で待っていて貰いたい。」
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職員室に入ると、20名程の先生達が机に向かって何かをしていた。
「誰のか分からんが良いだろ?(笑)」
ヒョヌ先生は職員室の角にある給湯スペースで、カゴに伏せてある可愛いマグカップを取るとココアを作ってくれた。
自分にはコーヒーを入れて先生の机に向かった。
先生の隣の席に座り、ココアを一口飲む。
とても濃くて、凄く甘かった。
それが、先生の優しさの様に感じて
なんとなく嬉しかった。
「資料をまとめたいんだがアミもやってみるか?」
「私もその授業を受けるのに大丈夫ですか?(笑)」
「テストの答えを教えている訳では無いのだから良いだろう。」
沢山のコピーやホチキス留めなどを手伝ったり、
授業に必要そうな記述を、沢山の資料の中から探したりした。
そんな時でも、頭の中にはユンがいっぱいで
ユンからの連絡を待ち続けていた。
「よし、終わろうか。」
「先生って大変ですね。」
「お、やっとわかったか(笑)」
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玄関を出て先生の車が停めてある駐車場に向かおうとした時、大事な物を忘れてきている事に気が付いた。
「先生!すみません。ノートPCをサークル部屋に忘れてきちゃいました。抜けてますよね(笑)取って来ますね。」
「一緒に行こう。」
「いえ、大丈夫です。すぐ戻りますから。」
「じぁ、車をまわしておくから真っ直ぐ門まで来なさい。」
「はい!」
小走りで校舎に戻った。
廊下はまだまだ明るい。
私とハナだけが持っているスペアキーでサークル部屋に入った。
照明のスイッチの位置は見なくてもわかる。
後ろ手に点けながら、ノートの定位置を見る。
(あれ?どこに置いたっけ?)
無い。
キョロキョロ見渡しても見つからず、
しゃがんで机の下を覗くと壁にバッグが立てかけてあった。
今日の自分の行動が思い出せない。
もしかしたら他にもやらかしてる事があるかもしれない。
ノートPCを入れたバッグを拾い上げた時…
視界が真っ暗になった。
後ろで扉が閉まる音がした。
遮光カーテンのほんの隙間から光が数本注ぐ。
まだ目が慣れない。
ノートを机に置き振り返える。
ドアの上部にある磨りガラスから廊下の光が柔らかく入っていて人物を浮かび上がらせていた。
その人影は思っている以上にそばに居て
抱きしめられた。
フォルムも感触も匂いもユンとは違う。
「や、やめて下さい…」
「俺を怒らせたんだから無理だよ。
「な、なんですか?お、怒らせたなら謝りますから…ゆ、ゆるして、下さい…」
「謝らなくて良いよ。やらせてくれたら許す。」
「は?嫌です!」
力いっぱいジェヒョンの体を押して
離れた隙に逃げようとした。
すぐに捕まり体を持ち上げて机に倒されてしまった。
キスしようとするのを腕を伸ばして拒否し続けた。
私の足の間に、力を込めて入って来て
下半身を押し付ける。
ジェヒョンの局部が、もうすでに反応しているのが伝わって吐きそうになった。
どうして1人で戻ったんだろう。
どうして怒らせちゃったんだろう。
どうして…。
足も手も力いっぱいバタバタと動かすが、ジェヒョンを引き剥がせない。
ブラウスを引きちぎられ、ボタンが飛ぶのがわかった。
「きゃー!!」
「うるさい!
「ユンくん!!助けて!!」
「その名前は呼ぶな!!!」
口を手で塞がれてしまった。
それでも声を出し、もがき続けた。
「1回やらせてくれるだけで良いんだよ!内緒にしといてやるから!初めてじゃねーんだし減るもんじゃないだろ!」
下着に手がかかった瞬間、体が離れた。
その隙を狙って机から転がり落ちた。
「イッ…」
さっきジェヒョンに突き飛ばされた時に強打した部分を、机の足でまた強打し悶絶した。
その姿を見ながら、ジェヒョンはベルトを緩めジーンズのボタンを外しチャックを下ろした。
(は、早く廊下に出なきゃ…)
体を低くして四つん這いで走り出す。
すぐさま足を掴まれ、引っ張られた。
私の体をひっくり返すと股がってしまった。
「ユンくん!ユンくん!助けてぇぇ!!」
――パン!
平手打ちを食らってしまった。
(何で私がこんな目に…)
悲しくて辛くて涙が出てくる。
「お前がその名前を呼ぶから悪いんだよ。」
「ユンくん!ユンくん!」
ユンに『アミ!』と名前を呼ばれている気がして
応えるかの様に名前を叫び続けた。
腰も足も色んな所が痛い。
それでももがき、拒否し続けた。
華奢だと言っても190センチ近い人を拒否し続けるのは時間の問題。
腕の力も限界を迎えそうだった。
「お願いします!やめて下さい…。ごめんなさい。許して…。 ユンくん!!」
「その名前、呼ぶなって言ってるだろ!!」
右腕を振り上げるのが見えた。
その手は開いていなかった。
(拳でなんか殴られたら、終わりだなぁ。)
ぼんやり考えた時、
私の愛してやまない愛おしいフォルムが
ジェヒョンの体越しに見えた。
ジェヒョンの体が宙を舞う。
やっぱり彼は…
私のヒーローだった。
(え?だめだよ?そっちじゃ無いよ?)
愛おしいフォルムは私ではなくジェヒョンに向かって行った。
(だめ!やめて!)
足を投げ出し、上半身を起こしたジェヒョンを見下ろすと拳を振り上げた。
私にも火事場の馬鹿力は備わっていたようだ。
拳を止めるよりも、こっちが早いと思った。
ジェヒョンに覆い被さり抱きしめ叫んだ。
「お願い!殴らないで!」
「は?はぁ?お、お前、何、言って、んだ?」
ユンはそう言いながらよろけた。
ジェヒョンが手を回し私を抱きしめようとした瞬間、ユンが私を引き剥がした。
ブラウスが両肩からずり落ち、大きく開いたタンクトップからは胸の谷間が見えている。
ユンはブラウスを胸が見えない様にかけた。
――パチン
部屋が急に明るくなった。
「なんだ!?何があった!?」
ヒョヌ先生が息を切らしながら部屋の明かりを付けた。
警備員も一緒だった。
状況を察した先生がジェヒョンに詰め寄る。
しばらくは先生に任せよう。
視線をユンに戻すと、
ユンは愛おしそうに視線を滑らせ私の顔から足までを見た。
視線を顔に戻すと抱きしめてくれた。
「ユンくん…うわぁぁん!」
ユンは私が泣き止むまで黙って頭を撫で続けた。
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「どうしてだ?」
ヒョヌ先生が引き下がってくれない。
「警察はどうしても嫌なんです。わかって下さい。」
「何をされたかわかっているのか?」
「だから嫌なんです。警察は嫌です。」
「困ったな…。」
「救急車は呼びますよ。」
警備員が言った。
「救急車もやめて下さい。騒ぎにしたく無いんです。」
「だが、傷の手当てをせんと…」
「先生、病院に連れて行って下さい。」
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・
病院でもお医者さんや看護師さんが警察に話す事を勧めた。
「わかった。いつ気が変わっても良い様に証拠写真だけは撮らせてもらうよ?」
「はい。」
「じゃ、女性の看護師に頼むから。」
別室に移動して写真を撮られた。
パンストはズタズタ、ブラウスにボタンは残っていない。
赤いあざや青あざ、擦り傷があちこちにある。
左の腰の部分が1番酷くて青く腫れ上がっていた。
部屋に女性が入ってきた。
「アミぃ!!(泣)」
「お母さん!うぁぁん!」
母親の顔を見ると安心してまた泣いた。
お母さんも泣いている。
お医者さんはこの部屋に応急処置のラックを持って来て手当てをしてくれた。
母親は私の服を持って来てくれていて着替えたあと、念のためにレントゲンを撮った。
ここまで、かなりの時間を使ったが待合室に行くとユンもヒョヌ先生も待ってくれていた。
お母さんにも状況説明をしなくてはいけない。
飲み物を買い座って話す事にした。
何があったのか、客観的に見て話した。
お母さんは泣いていてどうしようもない。
先生も辛そうにしている。
ユンは見たことのない様な顔をしていて
心の中が読めなかった。
考えてみると、どうして助かったのだろうか。
怪我はしたが、されずに済んだ。
それも、ユンが助けてくれた。
どうして?
「ユンくん…どうしてサークル部屋に来たの?」
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――――――――――――――――――
《ユンside》
本当に居るのか?
もう、居ないとか?
出てくるとこ合ってるよな?
前に来た時に入った玄関を見ていたらアミが出て来た。
咄嗟に隠れてしまった…。
ん?
アミが引き返して校舎に入って行った。
(忘れ物か?(笑))
あいつ!
ジェヒョンがアミの後を追って中に入って行くのが見えた。
走りながら後悔した。
―—もっと近くに居るんだった!
中に入って思い出してみる。
サークル部屋…撮影の時行ったけど何階だっけ?
2階にあがった。
走りながら周りを見渡す。
あ!空中庭園!
確かこの近くの階段で上の階に行ったよな?
階段が2つ!?
どの階段だ!
思い出せ!思い出せ!
あの時、アミと元カレがケンカしてて
後ろから見てたんだ…。
アミ越しにステンドグラス!!
こっちの階段にはない!
あっちだ!
ステンドグラス!
3階にあがってもピンと来ない。
全部同じ扉…。
片っ端から開けて行こう!
――ガチャガチャ
違う!
「アミ!アミ!返事しろ!」
アミの名前を呼びながら扉を開け続けた。
廊下の真ん中辺りの部屋の扉が開いた。
目の前に、
足をバタつかせもがくアミに、股がっているジェヒョンが居た………
・
・
・
――――――――――――――――――
「ユンくんに、名前を呼ばれてる様な気がしたんだけど、本当に呼んでくれてたんだね。」
「私は彼がすごい形相で走って行くもんだから警備員に声をかけて行ったんだ。」
「ユンくん本当にありがとう。アミを助けてくれて(泣)」
「こうなったのは僕の責任です。すみません。」
ユンがお母さんに頭を下げた。
明日改めて学校で話す事にして先生と病院で別れた。
お母さんの運転する車でユンを家まで送ると、
ユンは力なく家に入って行った。
家に入る前に一度だけ振り返ったが
私を見る眼差しが悲しみに満ちていた。
私はその眼差しを何回も何回も思い返し
不安になった。
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