第23話 2人を引き裂く悪魔
「今すぐ、別れろよ。」
ジェヒョンが真っ直ぐに見下ろして言った。
凄く怖い。
本気で言っているとわかった。
「あの頃、アミが好きだったんだよ。」
「アミ??呼び捨て…?」
「年上なのに呼び捨てして何が悪いんだよ。」
「親しくないから嫌です。」
「これから親しくなるし。」
「………。」
「ユンなんかと別れて俺と付き合いな?その方が楽しいよ。」
「別れるなんてありません。」
「ア、アミちゃん…大丈夫?」
異変に気付いたウソクが、声をかけてくれた。
「あ、うん。高校の時の先輩でね(苦笑)」
「サークル!入ります!宜しくお願いしますっ」
女の子の様な可愛い顔に戻って言った。
「あ、そうなんだ。宜しく!…お願いします。」
ウソクは、タメ語が良いのか敬語が良いのか悩んでいる様だった。
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土曜日のバスケ部の見学。
日曜日のデートとユンのお家のお泊まり。
せっかく悩みが無くなったというのに
また新たな悩みが生まれてしまって心から楽しめない。
月曜日からの事を考えると憂鬱だった。
お母さんにも元気が無いと言われる始末。
生理だからと誤魔化した。
・
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月曜日
全授業が終わった後、ジェヒョンを含めて6人の見学が来た。
ジェヒョンは入部という固い意志を持って来ている。
ウソクが対応して入部が決まった。
サークルの連絡方法はLINEまたは電話。
ジェヒョンと繋がってしまった。
《LINE》
JH:アミ相変わらず可愛いね
アミ:個人LINEやめて下さい
――――――――――――――――
目の前に居るのに速攻LINEを送るジェヒョンが怖かった。
《LINE》
JH:俺なら毎日好きって言ってあげるよ
アミ:どうゆう意味ですか?
JH:ユン、ずっとアミを放ったらかし
だったじゃん
――――――――――――――――
これ以上会話をしたくない。
やり取りを全部消去してスマホをしまった。
――トントン
「失礼しまーす!広報です!」
「あ、こんにちは。」
「ソウ体大の姉妹校誘致の件、おめでとうございます!」
「あぁ(笑)ありがとうございます!」
「ソウ体大の広報と合同で臨時の広報誌を作る事になってさ。4年の4人は来週月曜のこれ位の時間って空いてる?」
4人は顔を合わせてウンウンと頷いた。
「大丈夫みたい(笑)」
「ソウ体大のバスケ部には承諾貰って来てくれる事になったから宜しくお願いしますね!」
ジェヒョンが気になり見てみると
嫌な顔をしていた。
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――――――――――――――――
あれから毎日頻繁にメッセージが来る。
「好き」「別れろ」「俺の方が良い」
どこを切り取り見られても、ユンに言い訳が出来ない内容だった。
ヒョヨン先輩に相談したら
『消す前に写真に撮って送る様に』
と、アドバイスをくれた。
1日分をまとめてその日のうちに送った。
ヒョヨン先輩はシオン先輩にも共有しているようで
『シオンもそう言ってる』
など、忙しいはずなのに話し合いLINEをくれた。
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――――――――――――――――
日曜日のお決まりになっているラブホで
ユンは機嫌が悪かった。
「最近さ、スマホ見るの多いよね?」
「そ、そう?」
「今だって開いてたじゃん。」
「やっぱり4月だしさ、副部長だし忙しいよ。うん。」
「見せて。」
「な、何を?」
「スマホ以外にあんのかよ?」
「見なくて良いよ。何よ急に。」
「見せられないの?」
「見せられるよ。」
「じゃあ、見せろよ。」
スマホを奪われた。
ユンの顔認証で開く様になっている。
LINE、メール、写真フォルダ。
気になる所を片っ端から見ている。
(お願いだから今来ないで!)
「LINEもメールもなんも無いじゃん。嘘つくなよ(怒)」
「何も無いなら怒らなくて良いじゃん!」
「逆ギレかよ。何もないって逆に怪しいってわかんないのか?」
「何も無いってば。」
「はぁ(怒)このJHって誰だよ?」
――ギクッ
ユンの手の中のスマホ画面をチラリと確認した。
メッセージは来ていない。
「ジェヒョン先輩か?」
「………。」
「1番上に来てるのにメッセージが無い。」
「………。」
「いちいち消してるって事だよな?」
目が見れない。
「次は消すなよ。消したら別れるからな。」
・
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――――――――――――――――
「どうしたんだ?ケンカでもしたか?」
ユンのお父さんが話さない私達に痺れを切らして声を掛けた。
「あぁ、はい。ちょっと(苦笑)」
私がそう言うと、ユンは舌打ちをした。
「ケンカは仲が良い証拠だね。でも早く仲直りはした方が良いよ(笑)」
「はい…。」
「はぁあ(怒)」
板挟みが辛かった。
・
・
お風呂に入る時、スマホを浴室に持って行きたかったがユンが許すはずもなく…。
預けてお風呂に入った。
気になっていつもより早く出た。
部屋に入るとユンはベッドに寝そべり目を瞑って
おでこに腕を乗せ、しかめっ面をしていた。
嫌な空気が漂っている。
私用の布団を敷いて座ると、ユンは起き上がり私の膝元にスマホを投げた。
「見ろよ。」
スマホを拾い、LINEを開いた。
ジェヒョンから来ている。
《LINE》
JH:アミ大好きだよ
JH:いつユンと別れてくれるの?
JH:俺といる方がアミは幸せだよ
――――――――――――――――
「アイツ、アミが好きだったのか。しかも呼び捨てされる程の仲なんだな?」
「呼び捨ては嫌だって言ってるのにやめてくれないんだよ。私だって困ってるんだよ?」
「呼び捨ては?他は許してるんだ?メッセージを消してた理由はなんだよ。」
「見たら嫌な気持ちになると思ったから、消しておこうと思っただけで深い意味は無いよ。」
「俺は! 消されてる方が嫌だったよ!」
そう言うと布団をかぶってしまった。
・
・
なかなか眠れず、布団の中でただ時間が過ぎるのを待った。
スマホを見たらまた誤解される。
ただひたすら目を瞑った。
眠りにつきどれくらい経ったのだろう。
ユンが私の布団に入り、後ろから抱きしめた。
次の展開を待っていると、
「ごめん。」
と言って強く抱きしめた。
急に現れた何の関係もない人に
どうして振り回されなければならないのか。
怒りと悲しみで涙が出る。
それに気付いたユンが私に寝返りを打たせキスをした。
「私、嘘つけないの知ってるよね?」
「知ってる。」
「私はあの人に何回も断ってる!信じて。」
「うん。わかった。」
・
・
――――――――――――――――
「じゃ、後でな!」
「うん(笑)」
「いってきます!」
ユンはいつも通りに朝練に行った。
お父さんは元通りになった私たちを見て安心した表情を見せた。
・
・
・
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――――――――――――――――
今日は17時にソウル体育大学バスケ部の主要メンバー5人がうちの大学に来る。
二校合同の広報紙を作る為の撮影とインタビュー。
私たちがバスケ部の紹介映像を撮影した時にはシオンが居た。
その時のメンバーで広報紙を作れたらどんなに良かっただろう…。
(もう少し早く決まってたらなぁ…)
新入生の入部はジェヒョンを入れて7人。
ヒョヌ先生はこの7人に課題を与えた。
【構内の“春”を写真に撮る。】
構内を回るジェヒョンを見つけて声をかけた。
「お願いがあるんですけど。」
「何?」
「もう、個人LINEやめて下さい。迷惑です。」
「迷惑なら無視すれば?送るのは自由だよね?アミに決められたく無いんだけど。」
「見る人がいるからやめてください。決めてません。お願いと言いました。」
「ユンが見たんだ?(笑)怒ってた?(笑)」
「怒ったりしません。不快なだけです。」
「ユンに直接頼まれたら考えてやってもいいよ。」
「とにかく。やめて下さいね。」
(こんなにも話の通じない人が居るんだ…)
・
・
――――――――――――――――
撮影は広報委員が使っているスタジオで行われた。
サークルのスタジオよりも暖かい雰囲気があり落ち着く。
ソウ体大のバスケ部の5人と広報委員の3人がやって来た。
バスケ部5人と私たちサークルメンバー4人がテーブルを挟み向かい合う様に座って座談会スタイル。
撮影中の様子やお互いに思っていた事などを話した。
ユンと仲直りしていたおかげで和気あいあいと滞りなく終了した。
・
・
バスケ部の5人は体大に戻り練習がある。
私たち4人は校門まで送る事にした。
「じゃ、今日もありがとうございました。」
ハナが頭を下げた。
「こちらこそ。じゃ、また。」
ユンが私以外の3人に頭を下げた。
ユンと私が顔を見合わせると周りの皆んなが気を使う様にゆっくり離れて行った。
「これから戻って練習は大変だね(苦笑)」
「アミに会えたから全然平気(笑)」
「ふふんっ(笑)」
ユンの目が私越しに何かを捉えた。
一瞬にして表情が変わった。
振り返るとジェヒョンがこちらを見て笑っている。
チラチラとこちらを見ながらスマホを操作した。
――ブブッ
――ブブッ
――ブブッ
私の手の中のスマホが振動する。
ユンがスマホを奪い取り開いた。
中を確認すると舌打ちをし、ジーンズのポケットにスマホを入れて走り出した。
「ユンくん!!やめよ!お願い!やめよ!?」
ジェヒョンの胸ぐらを掴んで至近距離で睨み、今にも殴りそうだった。
「先輩にいい度胸だな?あぁ?」
「てめぇなんてもう先輩でもねぇよ。」
「言うねぇ(笑)」
「人の女に手出すんじゃねぇよ。」
「殴れよ。殴れねぇよなぁ?意気地無しが(笑)」
「あぁ?」
「いつまでもグダグダと付き合えもしねぇでアミのこと放ったらかしだったよなぁ? ほんで今も殴れねぇんだろ?意気地無しがよう(笑)」
「やめて下さい!何なんですか?ユンくん!こんな人殴ったらダメだよ!殴る価値なんて無い!」
「そうだよ!ユンくん!手離しな?」
ウソクが私と一緒にユンの手を押さえてくれた。
ハナ達が戻って来てくれていた。
「ユン!やめろ。とりあえず手離せ。落ち着け!問題を起こすな!」
バスケ部の副キャプテンのスホも手伝ってくれた。
ユンは震えながらジェヒョンを突き飛ばした。
ジェヒョンはよろけながらその場を離れて行った。
「アミと…話させてくれ…」
そばに居た人達が離れる。
ユンはポケットからスマホを出すと私に返した。
「それ、どうゆう事だよ?」
声が震えている。
急いでジェヒョンのメッセージを確認した。
《LINE》
JH:こないだは映画デート楽しかったね
JH:アミとのキスが忘れられないよ
JH:早くユンと別れて俺のとこにおいで
思わずスマホを落としてしまった。
動揺したと思われたらどうしようと一瞬の内に考えた。
ハナがスマホを拾い上げ中を見ている。
ウソク達にも見せている様だった。
ユンに駆け寄り腕を掴んだ。
「こんな事してない!お願い騙されないで!」
「どうやって信じたら良いの?」
「こんな…事、するはずない!(泣)だっ、だって私、嘘つけない!知ってるじゃん!?(泣)」
「お前だっていざとなれば嘘だってつけんじゃねぇの?(苦笑)」
「ありえない!(泣)ユンくん以外の…こんな…事しない!(泣)」
「もう、無理だよ。」
「何で?なにが…無理なの?(泣)」
「だってお前、今までのメッセージ…全部…」
「消してるじゃん。」
こんな事になるなら最初から見せていれば良かった。
後悔しても…もう遅い。
腕を振り解いて離れて行く。
身体も頭も動かない。
(あ!そうだ!)
「ヒョヨン先輩が知ってる!!全部知ってるから!ヒョヨン先輩とシオン先輩が!!」
遠ざかる背中に叫んだ。
聞こえているはずなのに離れて行く。
今はただなす術も無く、へたり込み泣く事しか出来なかった。
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